『海原』No.3(2018/11/1発行)

◆No.3 目次

◆海原秀句 同人各集より

安西篤●抄出

胸に夏帽立ち尽くす摩文仁の礎 赤崎ゆういち
ルルルルル邯鄲きみこそナルシスト 石橋いろり
父の手記折れた頁のあり曝書 伊藤雅彦
だめだべよこっちむげ溽暑の原子炉 大内冨美子
先生の裏山は夕かなかなかな 大髙洋子
鶯と三度の食事今日がある 大野美代子
風光る旧約聖書のうすぼこり 片町節子
手首より寝落つ子のいて青簾 加藤昭子
きょお!と喚ききょお!と消えゆく大花火 川崎益太郎
あれが両神山りょうがみきっと朝霧は晴れる 河原珠美
九夏三伏他界にせんせいは元気 北上正枝
花言葉茄子の花なり二人膳 北原恵子
秩父万緑金子兜太の遺児われら 北村美都子
そんなはずがややつと卒寿雨蛙 木下ようこ
ふだん着に着替えると鳴く青葉木菟 こしのゆみこ
ほうたるの夜の火薬庫の匂ふなり 小西瞬夏
歯ぎれよき君と饒舌氷頭膾 小原恵子
広島忌ドロップ缶がさびている 清水茉紀
餡蜜屋男三人の謀議かな 白石司子
梅雨の星我も昭和の尋ね人 須藤火珠男
先生九十八歳は夭折です 蛍 芹沢愛子
瞑目の波は崩れて青すじ揚羽 田口満代子
青水無月ごりっと光る馬の臀部 中村晋
紫陽花の孵化とも違うあふれよう 丹生千賀
荒川細うなりゆく木天蓼白かさね 野田信章
約束というほどでなく海月みている 平田薫
明易やアサギマダラのやさしさで 堀真知子
山影に蜻蛉の大群兜太来る 水野真由美
おめかしでポックリ寺へ風薫る 諸寿子
こんな句では駄目だ玉虫睦む昼 柳生正名

山中葛子●抄出

素っ裸で両神山拝す嗚呼夏霧 石川青狼
蟻ガキテオロオロアルク賢治の碑 伊藤幸
出水跡侍七人い出ませり 上野昭子
秩父山塊おおかみ光となり疾ける 大西政司
青になる確率に賭け糸トンボ 奥山和子
完璧に無視されているトマトかな 小野裕三
七夕の前日オウム大量死 川崎益太郎
先生の句碑は青野の切手です 河原珠美
青鷺や見るべき闇は身の内に 黍野恵
「ないものあります」啓蟄の商品棚 黒岡洋子
駄犬が見送るデイサービスへの俺を 佐々木昇一
フクシマがこんなに重たい熱帯夜 清水茉紀
蛞蝓が溶けない平和な村である 白井重之
残鶯や退つ引きならぬ泥の里 すずき穂波
陰毛も白髪に 玉蜀黍に花 瀧春樹
鯵刺や糸口はマスカットジュース 田口満代子
溽暑なり水玉模様の心地して 竹田昭江
柿若葉共に秩父音頭おんどを兜太師よ 谷口道子
はつなつの上澄みとして母眠る 月野ぽぽな
葭切りや天の静寂一人占め 豊山くに
緑陰や行きすぎて戻れない雲 西美惠子
亡師ひとり老師ひとりや遠霞 疋田美恵子
よく育つ夏蚕よ雲喰い風を喰い 藤野武
桷咲くよ父の貧しさのあたり 本田ひとみ
青梅やすくっとフェンシングの一瞬 宮崎斗士
燕の巣の下死刑執行ビラゆれる 村上豪
群れ立ちしブラシの花はフトモモ科 村上友子
お墓参りずっとお喋りさるすべり 室田洋子
微塵子と陽のはげしさの西ノ京 矢野千代子
兜太なき浮世の羅はりついて 若森京子

◆金子兜太 私の一句

鶴の本読むヒマラヤ杉にシヤツを干し 兜太

 この句に対し「腕力で詩を創るのは叡知で田を作るよりもむづかしい《百句燦燦》」と書いたのは塚本邦雄である。しかし兜太はその並はずれた膂力によって俳句に鮮烈な詩を出現せしめた。鶴の本を読むというナイーブな感性の持主と、丈高いヒマラヤ杉の下枝にシャツを干す男臭い人が同一人物であることはいうまでもないが、その対照するがごとき存在感こそ詩の存在理由といえよう。句集『蜿蜿』(昭和43年)より。白井重之

小鳥来る全力疾走の小鳥も 兜太

 平成十六年、海程新人賞の授賞式に金子先生から「軽やかな句を」と戴いた色紙。爽やかな秋の空、透明な空気感、自由に飛ぶ生命感あふれる小鳥。中には全力疾走の小鳥も。生きとし生けるものへのアニミズム。「小鳥も」という下語の四音が疾走感とエネルギーを強調している。この句は先生からの温かく大きな励ましと思う。私の作句信条でもある大切な一句。句集『両神』(平成7年)より。室田洋子

◆共鳴20句〈10月号同人作品より〉〇印は2選者の共選句

江良修 選
○曼珠沙華いつかわたしを灼く原野 阿木よう子
人間が天敵の歴史ホモサピエンス 石川修治
コンセントかくされて点く花あかり 市原正直
抗えるか抗ってみよう無季句でも 稲葉千尋
○昭和の日裏返しして干す魚 大沢輝一
いっせいに植田生まれて村となる 大西宣子
熊谷はこれで見納め花恋忌 大西政司
雨音に少し昔の歌ひろう 奥山和子
旧道へ曲ろう初夏が待っている 柏原喜久恵
泥でも絵が描ける水でも句が書ける 河西志帆
鳥雲に数え白寿の句が遺言 北村美都子
膝抱けば胎児になるよ水芭蕉 佐藤君子
誰かハグしてる菜の花の長い土手 篠田悦子
葉桜や人生のせて行く自転車 鈴木修一
霞む首都眼下のビルは人の業 鈴木康之
群衆に溶ける孤独や桜道 滝澤泰斗
なんども改行やがて詩になる春の波 鳥山由貴子
安全ピン核の袋を閉じましょう 舛田傜子
○さびしさに睡くなりけりたんぽぽ黄 水野真由美
春濤や流木は悲哀が浮力 横山隆

鈴木修一 選
○曼珠沙華いつかわたしを灼く原野 阿木よう子
わが出来ることの多さよ鯉のぼり 東祐子
愛すべき母似の猫背春キャベツ 安藤和子
○巨岩この魂の冷え春逝くなり 伊藤淳子
麦青む未来を覗く測量士 梅川寧江
風ひかる旧交というまわり道 河原珠美
百年を動かぬ樟の若葉かな 篠田悦子
躑躅燃えルオーのような昼下り 白井重之
鮭の顎曲がる愚直なる我ら 白石司子
おぼろ夜の大河の鉄橋渡りけり 竪阿彌放心
はつなつの聖堂静脈の昏さ 月野ぽぽな
雪濁りなんでも生まれのせいにして 遠山恵子
海賊の打ち上げられし夏コイン 豊原清明
水温む襁褓のお尻はしゃぐかな 平田恒子
花祭り人々ちょうど好い密度 藤野武
田を植えて遠流のごとく青むかな 松本勇二
おろおろと男老いゆく春彼岸 村井隆行
夕燕畝ほっこりとととのいぬ 村本なずな
山法師目閉じて見えるもの多し 森武晴美
○夕雲雀声を上げねば空の塵 諸寿子

鳥山由貴子 選
遙けさはまだ音のあるぶらんこ 伊藤淳子
先生の杖が麦秋なでてゆく 大髙洋子
卯の花の駅に十六輌連結の貨車 大西健司
○八十八夜のかるいブリキの音だ父 木下ようこ
燕来るそこには誰も住んでません 木村和彦
本ひらく車窓ふたたび青葉闇 こしのゆみこ
人にそう呼ばれてへくそかずらなり 柴田美代子
よく眠るまぶた冷たし白木蓮 芹沢愛子
文庫本ひらく陰影つばくらめ 田口満代子
ピンホール・カメラ若葉の日の光 田中亜美
○無聊この標的のごと白い鳥 遠山郁好
さびしさの底に熱あり春の宵 ナカムラ薫
○さびしさに睡くなりけりたんぽぽ黄 水野真由美
朝から朝へぎゅーんと夏ツバメ 三世川浩司
しーんとす人も白梅も濡れており 三井絹枝
蛇足だな著莪咲き切って咲き切って 村上友子
先生は別館におります春夕焼 室田洋子
曇天に影あり白花はなみずき 茂里美絵
○夕雲雀声を上げねば空の塵 諸寿子
大宮に雨何故か優しい春禽も 六本木いつき

水野真由美 選
蝉の木の下手な奴いる未帰還兵 有村王志
○巨岩この魂の冷え春逝くなり 伊藤淳子
○昭和の日裏返しして干す魚 大沢輝一
とんぼ追う少年水の匂いせる 大西健司
春灯明るうせよ産土明るうせよ 金子斐子
海鞘を割くまだ人間でいるつもり 狩野康子
青嵐小窓のような家族かな 川田由美子
○八十八夜のかるいブリキの音だ父 木下ようこ
靴下は立って履けよと鳥帰る 木村和彦
筍茹でる誰彼逝きしことばかり 小池弘子
青簾越しのいもうと家族かな こしのゆみこ
台所とう機関車や夫の忌なり 篠田悦子
流星群も羊の群れも杖で追う 芹沢愛子
亡き夫の碁盤朧に置いておく 武田美代
○無聊この標的のごと白い鳥 遠山郁好
花馬酔木みつめ三日後髪白し 成井惠子
ホトトギス旅寝の底にふらっと父 松本勇二
たたむべき空しさに一礼麦の秋 深山未遊
悼みには触れず薄氷踏み行けり 武藤鉦二
田水張る亡父の脛には火傷痕 村松喜代

◆海原集〈好作三十句〉武田伸一・抄出

あきらめは効率的に山滴る 泉陽太郎
ほうたるほたる真水の子の言葉 伊藤清雄
こきゅうのたび毛布が動く父の肉体 伊藤優子
無自覚に声をとがらす溽暑かな 荻谷修
イギリス海岸の化石漆黒青胡桃 河田清峰
未明に蟬鳴き始め詩を書き始める 川嶋安起夫
キョウチクトウ嫌いな人の名が綺麗 木村リュウジ
夏の雲子供でいられる時僅か 日下若名
萍や角の取れゆく言葉たち 黒済泰子
黒揚羽文学館に入りけり 小林育子
婆バクハツ半世紀ぶりの水着 小林ろば
心音の窪地を螢埋めつくす 小松敦
虹のほうへ少女ふっと出る旋律 三枝みずほ
見え透いた嘘ばかり聞き青葉闇 鈴木栄司
師よこちらいまアカシアが咲いてます 立川由紀
またひとつ七月六日のヒロシマ 立川瑠璃
夏山のごはんの白さを知っている 舘林史蝶
末期の水に焼酎二滴魂にはね たなべきよみ
ガリ版のザラ紙詩集をも曝書 中神祐正
モフモフのきりん夏バテの匂い立つ 中野佑海
朝凪の誰もが欠伸して裸 野村だ骨
祭笛聞こえると言い母の逝く 原美智子
ふたり展の初日筍飯を炊く 前田恵
蜘蛛の囲や魔性の瞳光らせる 増田天志
娘に負けぬ髪型の妻夏はじめ 松尾信太郎
なにかが遠くなる7月のトースト 松﨑あきら
夏は夜ニュースに夫の副音声 松本千花
父の日やポロシャツなんか欲しくない 武藤幹
柩を運ぶ内の一人は蟹を見る 望月士郎
裸で打つボンゴ広場の少年 森本由美子





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