『海原』No.16(2020/3/1発行)誌面より
◆第1回海原全国大会レポート(その3)
《第三日●第三次句会》
兜太師の気配を感じながら 山下一夫
前夕には、宿のそばから瀬戸内海に沈む美しい夕陽を拝めたが、当日の朝は曇りで海は鈍色であった。テレビはどのチャンネルも台風19号による方々の惨状の報道。朝食会場では心配のコメントが交錯していた。
句会会場は、西方に海を一望する大会議室。日程の最後であり、大きなロの字に組んだテーブルに並ぶ44名の一座には、軽い疲労の雰囲気も漂っていた。
総合司会・進行は中野佑海、披講は室田洋子・鳥山由貴子。一人2投句5句選。全投句は、A3用紙二段組に整った手書き文字で空欄なく清記され、スタッフの心遣いが偲ばれた。奇しくも霊場八十八か所に因んだかのように88句が並んだ。
88句巡りの司会は、佐孝石画。開口一番、選句点数がこんなにばらけた句会は珍しい、一同の多様性の現れであり、それは「海程」から「海原」になってもしっかり引き継がれているものと。ただし、最高点句は、抜きん出た10点であった。
秋夕焼島はゆっくり鍵を掛け 奥山和子
鍵が掛かるのは島の生活でもあり、自分自身でもありいろいろな思いが湧いてくる。開閉に自然のリズムもあり重層的。一体感の中にある安心感。ゆっくり夜になる気分がOK。吟行句の良さがある。
わかりやすくはない句だが鑑賞者の妄想がすごい、そこいらにはないすごい句会であると司会。その後も盛り上げるコメントを交えながら歯切れよく進行する。
白秋やもろみ大桶おおこが百ならぶ 西美惠子
吟行で醤油工場を見学して「大桶」という言葉を初めて知ったが、それを使って情景を活写。前句と対照的にこれぞ俳句という句。季語「白秋」が秀逸。「白」の色、冷たい触感が醤油の「黒」と肌合いと対照する。また、「百」とのビジュアルの対照も指摘され、感心が広がった。
秋深し木の定規なら計れます 綾田節子
木の定規が温かい。吟行で訪れた分教場で目にしたが、時代、ノスタルジーを感じる。季語と透けず使いにくい木の定規に人の心の深さを連想。「深さ」と「計る」の連関。木の定規に勅諭として力があると、深まる。
四方指とおくに我が滑空の鳥影 佐孝石画
四方指の高さを良く捉えている。自分の影が鳥となっている雄大な景。気持ち良さを言い得ている。「我が」については、ナルチスチック、無い方が良いと、そこがポイントで無いとつまらない作品と意見が分かれた。司会ご本人の句であった。どおりでコメントなく整理に徹しておられたわけである。
ゆく秋の島影それぞれの心音 望月士郎
「心音」の含意について、生活のリズム、吟行のバスに同乗していた皆の心音、島の明け暮れのリズム、島が擬人化されていて島それぞれの心音と解釈が広がったが、「それぞれ」に少し違和感を感じるとの評もあり。
秋の水脈いい大会でした先生 伊藤巌
ベタだがジーンときた。先生の句にある「水脈」を取り込んで素直に想いを表現。「小豆島水脈大会」との混ぜ返しが入ったが、「会員の一人一人が水脈、何よりの挨拶句をありがとう」との鑑賞が応じて拍手が湧く。武田伸一が「実感が良く出ている。我々の航跡と行きかう船のイメージ。取らなかった人もそうは思っている。一字空けて先生に万感。」とまとめられた。
この辺りで一座は一体に。刹那、兜太師の気配を感じ、ばらけた選句傾向は一座のそれぞれが触手を出して繋がり合い立体をなしているものとのイメージが浮かぶ。それは幻想かも知れなかったが、気付くと空は晴れ海は青んでいたのは、本当である。
ふくふくと息するもろみ秋深し 石川まゆみ
「ふくふく」という擬態語が良い。「秋深し」については、もっと良い季語があるかも、「フ」の音の重なりにじわっとくると分かれた。
島にオリーブ廃校にわらべ歌 川崎千鶴子
訪れた分教場で皆で歌を歌ったが、四つの要素をうまく配合した。単純さと力強さ、挨拶句として優れていると好評が並んだが、AにB、CにDの構成への問題意識も呈された。
以上、5点句までだが、当日の選句者等による鑑賞は、4点句まで及んだ。
句会は、武田氏から零点句・1点句へ真心がこもった鑑賞で締め。僅かであっても、一座でその場に呈された句を味わい学ぼうとする丁寧さも本会の良き伝統と感じ入った。
続いて、本大会代表者の野﨑憲子からの挨拶にて記念すべき第一回大会が閉会した。
《第1回「海原全国大会」を終えて》
小豆島の満月に見守られて 野﨑憲子
それは、一年半ほど前の一本の電話から始まりました。電話口から宮崎斗士さんの声がして「野﨑さんですか?第一回の全国大会を香川で開催して欲しいという意見があります。お願いできませんか?」。私は、驚きと共に一瞬沈黙してしまいました。このリクエストを、金子兜太先生のご存命中にいただいたらどんなに嬉しかったかという思いが駆け巡る中、これは先生のご遺志であるという思いが大きく膨らんでまいりました。ただ、少人数である「海程香川」のメンバーだけではとうていスムーズな大会運営は望めないという危惧もあり「本部で、お手伝い願えるなら前向きに検討させていただきます」と返事をしました。
幸い、第1回の「海原全国大会」開催という栄誉に「海程香川」の仲間達からも、賛同を得る事が出来、大会開催を決めました。そして引き受けた限りは、ご参加の方々に存分に楽しんでいただこうと、有志吟行は、大海原を渡り、小豆島へ行くことで意見が一致しました。
まず、昨年8月、施設選びからのスタートです。最初から、中野佑海が積極的に協力してくださり、有難かったです。ただ本年の10月は、瀬戸内国際芸術祭秋会期の真っただ中なので、第一候補の高松駅前のホテルは、土・日が空いているのは月の後半のみ、しかも行楽期なので、一年で一番高い価格設定の時期ということでした。
叶うなら総会も宿泊も全て同一ホテルで開きたかったのですが、従来の予算内で賄うことは不可能なので断念しました。そして、大会は、10月12日からと決め、総会の会場はサンポートホール高松、宿は「花樹海」と決定しました。
ちょうど折良く、中野佑海から置県百年特別企画で、香川県芸術文化振興財団から援助金を交付する文化事業の募集をしているとの情報が届き直ちに応募しました。選考のヒアリングの席上、金子兜太先生の「海程」の後継誌「海原」の第1回全国大会の開催の経緯を説明しますと、審査の方々も好印象を持ってくださり、公開講演会を開くという条件付きで会場費の援助を受けられることになりました。毎月の句会場でもあるサンポートホール高松での大会開催に向け陽光が一気に差し込んだ思いでした。
大活躍の中野へ、大会当日の総合司会をお願いすると即座に快諾し立派にやり遂げて下さいました。会場の横幕は、書家の漆原義典。有志吟行は、小豆島の地理に詳しい藤川宏樹が、とっておきの小豆島を提案して下さいました。島田章平は、大会の裏方の詳細な進行表を作る提案を出して下さり、お陰様でスムーズな大会運営ができました。河田清峰と鈴木幸江は、会場に入らず、書籍販売ブースのある受付で総会終了まで待機して下さいました。そして大会の要である句会の統括は、増田天志が積極的に務めてくださり、効率的に素晴らしい句会を開くことが出来ました。
マイク係も、感謝です。佐藤仁美、三枝みずほ、小西瞬夏、大西政司、樽谷寬子、田中怜子、谷口道子、榎本祐子にも多大なご助力をいただきました。感謝です!
台風発生を大会前に知った瞬間はショックでしたが、否、これはチャンスだ!台風が特別ゲストの全国大会なんて願ってもないことだと思い直しました。すると、来賓の金子眞土ご夫妻の前泊のご連絡を皮切りに、高松での前泊の方が増え、時局がみるみる好転してまいりました。ご夫妻にお目にかかると、先生をより身近に感じます。大会を盛会へと導いてくださり、ほんとうに嬉しかったです。ただ、諸事情で予定変更ならず参加できなかった方々には申し訳ない思いでいっぱいでした。公開講演会の開催日を動かせず、宿の確保の難しさから、中止や順延という選択肢がなかったのです。お許しください。
講演会も台風接近のため、一般の来場者は少なかったのですが、安西篤代表と堀之内長一編集長の対談形式の「金子兜太という存在――句集『百年』の魅力を探る」、田中亜美さんの「若い世代に広がる俳句」どちらも聞きごたえ十分の見事な講演会でした。
今回の全国大会で、私もいろんな勉強をさせていただきました。ご参加くださった全ての方々に心からお礼を申し上げます。大会最終日の小豆島の夜の満月が何故か兜太先生の大笑いしたお顔に見えて仕方なかったです。
熱く、そして温かく 中野佑海
平成30年の2月、第1回海原全国大会を香川でと聞き、驚きつつも、今が一番若いからという理由のみでお受けする。
7月、会場は香川句会の開かれるサンポートホール高松の小ホールの空いている10月12日~13日に決定。宿泊は句友一押しの「ホテル花樹海」に100人超えたら受けませんと言われつつ、無理押し頼む。
吟行会は台風が来たら渡れないけど、夕日の絶景の小豆島の国民宿舎に決定。この時点ですでに空頼みの状態に。兜太先生のてるてる坊主を作って、お願いすることにする。小豆島へは2回も視察に行って、一番絶景の四方指展望台へ、雨が降れば、大阪城残石記念公園に決める。
10月4日、最終打合せで、名簿、名札、部屋割り、プラカード、役割分担を決定する。さて、イザというこの期に及んで何と台風19号が如何に大型化という前触れを持って大会の当日、四国に上陸しそうな予報となった。とりあえず兜太師てるてる坊主「照男」君に命運を掛ける。
10月9日、本部から第1回目の大会はどうしても開きたい旨連絡があった。金子眞土ご夫妻始め、できる限り前泊をお願いする。
10月12日当日朝。風少し強いが、注意予報位。しかし、現場はてんやわんや。資料を何度も入れ直し。来られない方の数をずっと読み直し決定し、花樹海に昼までに電話して、それにお応え頂き有り難し。
12時。いよいよ、第1回「海原全国大会」総会開催。幸いにも金子眞土様ご夫妻をお迎えし、故人になられた方の御冥福をお祈りし総会が始まった。
武田氏より「海原」の会計報告、三賞の発表、表彰と順調に進んだ。眞土氏の兜太師の検証に尽くされている姿勢に心打たれた。
公開講演会には、台風のため、高校生には入場頂けなかったが、一般の30名位の方が、参加された。安西篤、田中亜美の講演は俳句を広めるための熱心な働き掛けを感じた内容だった。
第一次句会では、特別選者の方の講評に会場との掛け合いで、今台風が来ていることも忘れて、熱く話が盛り上がった。来てくださった方から、皆様しっかりした意見を述べられていて、時間を忘れた、とお聞きした。
16時半。熱く、暖かな第一日目は終了。楽屋口から皆バスでホテル花樹海へと出発。
18時半。眞土氏の「金子兜太」を一度離れたところから見てという言葉に納得。料理も美味しく、皆様の温かい言葉に癒されつつ明日の人数計算に勤しむ。風呂場には暴風が!
13日9時。一般の方と、台風で欠席された方で座が少し寂しい。が、天気も良くなり元気に二日目に突入。松本勇二の司会。特別選者の方と、会場の応酬で、増田天志がマイクを持ち階段の会場を走る。喋る。皆俳句に熱い。
11時半。名残惜しくも全大会終了。皆様、吟行に行く準備。荷物を持って、バスに飛び乗り、隣のフェリー乗り場からいざ小豆島へ。藤川さんの名リードで積み残し無く皆船中に。この日は絶好の行楽日和。二蝶のお弁当に、船からの瀬戸の景色と会話も絶好調。
13時半。草壁港着。岬の分教場で一同「七つの子」を歌う。校庭のオリーブの実を拾って食べるも苦し。
14時半。丸金醤油の木下様のご配慮にて工場内の大木桶を見学。お土産に生醤油頂く。
15時半。風の冷たい四方指展望台。本物の絶景を堪能。皆で鳥になる。
17時。ふるさと荘に到着。30分後の夕日の落ちて行く様。もう30分後の満月の浮かぶ様。天体ショーに「うおー」とただ叫ぶ。
18時。最後の晩餐会。新同人を武田氏よりご紹介頂く。演台の代わりに椅子に立って揺れながら自己紹介&抱負を。酒に酔った勢いで叫ぶ。今日は感動し過ぎかな。
19時半。小句会が始まる前に関東より金子斐子が駆け付ける。よくぞ此処まで。感謝。小句会は出句3句。2日間の総括は如何に。名残惜しさが更けていく。
最終日9時。佐孝石画のよく通る声で司会の第三次句会始まる。皆ちらほらと、連日の疲れと、終了の安堵の心地良さに景色の麗らかさに身を任せたくなる。皆で言い合える句会は楽し。
この後は、各自の予定に合わせて、福田港に急ぐ組。急がない方は土庄港の近くにある尾崎放哉記念館「南郷庵」と千年オリーブの樹を見学。土庄港では総勢10名余り、フェリーを「待ってー」と、5分も止めて、無事高松に帰り着いた。あーお疲れ様でした。でも、本当に楽しかった。皆、今浦島太郎となり、帰ってからの止め処無き日常。
被災されました方のご心労は如何ばかりかと察してまだ余りあるものと存じます。 (文中、会員の敬称略)
《全国大会事前投句/特別選者特選一句抄》
【安西篤選】
おなごせんせー谺して海天の川 伊藤巌
【大西健司選】
雨気孕む肉よ野越えの人形座 野田信章
【川崎益太郎選】
海原に光トラック島に虹 島田章平
【こしのゆみこ選】
雨気孕む肉よ野越えの人形座 野田信章
【佐孝石画選】
まくなぎや明るい出口までふたり 小松敦
【十河宣洋選】
指紋という小さな銀河針しごと 望月士郎
【高木一惠選】
指紋という小さな銀河針しごと 望月士郎
【武田伸一選】
空蝉の中に風吹く無言館 若森京子
【田中亜美選】
空海兜太猿酒酌むや讃岐富士 すずき穂波
【遠山郁好選】
巻き癖の海図の上へ青檸檬 鳥山由貴子
【並木邑人選】
夜の端ときどき纏う蛇の衣 榎本祐子
【野田信章選】
わだつみや添寝に白波立ち八月 若森京子
【藤野武選】
夜を待つ雲ひとつ居て夏の窓 佐孝石画
【堀之内長一選】
晩夏光鳥籠のようとらわれて 川田由美子
【前田典子選】
野分たつ嘘ひとつぶんの距離にいて 松井麻容子
【松本勇二選】
まくなぎや明るい出口までふたり 小松敦
【柳生正名選】
巻き癖の海図の上へ青檸檬 鳥山由貴子
【若森京子選】
空海兜太猿酒酌むや讃岐富士 すずき穂波
《大会作品》(前掲作者を除く一句抄)
居心地の良さそう涅槃図余白かな 永田タヱ子
天の川村深々とデブリ溜る 白石修章
薄倖の女児消ゆる日の手鞠花 石川まゆみ
病窓や深夜マンタに会うことも 遠山郁好
根ではない脚だ青嶺に押し出して 高木一惠
祗園祭万有引力曳いている 武田伸一
ででむしの肉色あはし遠発破 小西瞬夏
花菖蒲きつと御前は鯉になる 樽谷寬子
これよりの終活の日々合歓の花 寺町志津子
日傘さす猫の目ほどの安心感 大野美代子
ベンチャーズ的な終始を百日紅 松本勇二
点眼す朝蟬灘を鳴きわたる 河田清峰
ネズミの喉しっかと黒猫夏野ゆく 竹本仰
軽トラに泥つきごぼうのごと眠る 藤田敦子
舟虫の群れて軍靴の迫り来る 山内祟弘
さやかなる四国海原音律無限 石橋いろり
赤紙来る頃芋の蔓引く頃 川崎千鶴子
ラムネ玉音まで吸うて球児ちる 西美惠子
桑の実をふふめば雲伏し雲ゆきぬ 水野真由美
天地や同行二人あかとんぼ 河西志帆
姉八十路暗譜で弾いたよゆかた会 杉野敬子
晩夏光父性はぐんぐん透明に 堀之内長一
食えない詩のために死ぬなよ赤楝蛇 並木邑人
きつつきの穴のまんまる憂国忌 北上正枝
ヒバクシャを残土とさせぬ原爆忌 川崎益太郎
赤蜻蛉また先生を泣かせたか 藤川宏樹
梅咲いていないないばあす兜太かな 鈴木幸江
老人ホームに虫ピンで止められし晩夏 藤野武
蝉時雨水の底からさんざめく 佐藤仁美
草いきれ生きる方便という家族 増田暁子
半夏生斜め下から母に似る 奥山和子
月の夜すい臓に効く君の声 山下一夫
生きる日の道草もあり穴惑い 藤田乙女
楊枝ほどの小鳥の足も敗戦日 芹沢愛子
火蛾浮かべ火蛾のかたちに水凹む 柳生正名
柚子は黄に相槌だけの母でいい 宮崎斗士
黒羽トンボが新宿駅で舞い給う 田中怜子
放哉や梨剥くナイフ濡れてをり 田中亜美
向日葵や子に捨てられそうな真昼 室田洋子
剥落の父の踏ん張り雲の峰 桂凜火
星雲の化石を背負ふ蝸牛 増田天志
記名なき箱の臍の緒つくつくし 中村道子
怒涛打つ岬に影や老遍路 赤崎ゆういち
走馬灯廃棄の中に昭和見る 漆原義典
骨を抜くシェフは長身女郎花 峰尾大介
画策の要らぬ雄日芝どこでもドア 中野佑海
眠れない死の数多あり八月尽 安西篤
少しづつ身軽になる年茗荷の子 疋田恵美子
原発止む夏雲狭間の風車群 滝澤泰斗
ハンガーに掛けた俺俺を確かむ 十河宣洋
芸術祭平面立体片えくぼ 太田順子
句集の余白国旗に余白いのこずち 河西志帆
海峡の月をくらげが食べている 大西健司
ちと誘う句会や蕪村の追而書 新田幸子
ジャージーの四肢抱く発電の體 久保智恵
夾竹桃の白さ疼きのヒロシマ 谷口道子
白障子あたりいちめん明るいフェイク ナカムラ薫
言つとくけどね僕いじめたら颱風くるよ 野﨑憲子
梅雨明や湿った風に火の匂い 江良修
森のパン屋御盆は休み旅に出る 谷川瞳
皿運ぶせっせがちゃがちゃ良夜の子 三枝みずほ
まだ亡妻に掌など合わせず秋彼岸 綾田節子
梟が鳴くわたくしの痛点あたり 金子斐子
礫刑の熊蟬単騎地上にあり 大西政司
雲の峰大山巓が啣えこむ 佐藤稚鬼
赤のまま喃語あたかも黄金比 藤原美恵子
骨太の兜太のサイン夏である 菅原春み
遺されて菫濃き野に吹かれいる 前田典子
空蝉のなおも何かを脱ごうとす こしのゆみこ
父のこゑ海から来たる秋うらら 亀山祐美子
『海原』No.16(2020/3/1発行)誌面より
◆第1回海原全国大会レポート(その2)
《第二日の午前●第二次句会》
臨場感あふれ問題句も 竹本仰
第二次句会は、司会を松本勇二が担当。16名の特別選者の感想に会場参加者の意見を交え、進行した。
野分かな四捨五入して讃岐路へ 大西健司
この全国大会に超大型台風来襲。今から出るか、残るか、心配事を切り捨ててここへ来た。それを四捨五入とした。今回の事情が凝縮された挨拶句。
傷口のぴったり閉じた烏瓜 小松敦
「傷口のぴったり閉じた」の措辞が「烏瓜」にかかってぴったり感があり、心の中の傷が治まったというイメージも出来ている。
置いてきた時間の向こうの月夜茸 榎本祐子
ある状況を置いてこちらに来た、そういう意味で「時間の向こう」に深みが出ている。これも台風がらみの句か。こっちの時間があり、向こうの時間があり、そちらに夜中光る茸がある。この状況だからそう読めるが、そんな背景がなくともちゃんと読める句。
神無月さわれぬ石の艶々と 峰尾大介
初日午前中訪れたイサムノグチ庭園美術館では作品に絶対に触るなとされていたが、ごつごつ、ツルツルの石に触りたいという気になる、その石への尊敬と誘惑が「艶々と」に出ている。それでも触りたいという禁忌の思いが「神無月」に生きている。
秋思とは石の穴から見える赤 綾田節子
その赤が何か、具体感がないが、その赤に秋思の感情が見える。イサムノグチのこの石の穴はいつからのものか、太古の時間が感じられる。赤は何の赤か、色んなものが想像させられる。
ちひさき島のちひさき神よ水の秋 水野真由美
言葉の流れがすーっと水の秋に吸い込まれる感じ。瀬戸の小さい島、どこの村にも小さい神、そこに生活のことばがある。
秋天や骨肉のごと雲ちぎれ 藤田敦子
「骨肉」の語がきついが、ちりぢりになってしまっても、しがらみがあり身内の感じは切れない、それが「秋天」によってあっけらかんと感じられた。
生兜太こころにいます瀬戸晩秋 室田洋子
(前日の金子眞土氏の挨拶にあった)「生兜太」がすぐ出せる、その瞬発力。「こころにいます」に兜太の存在感が出ている。
宇宙への石の直立熟し柿 白石修章
鉱物のハードで大きいもの、植物の丸くて腐っていく赤、上昇と下降、俳句での取り合わせの好例。そして、イサムノグチと言わずにイサムノグチ感が出ている。
秋風や地球の骨を削ぐイサム 十河宣洋
「地球の骨を削ぐ」というところ、石でもあり生きものでも死体でも宇宙でも地球でもある、その感じがわかる。「秋風や」の、この句を包むような感じがよい。
雲急ぐ融け合うようにバスに揺れ 佐孝石画
「融け合うように」、運命共同体の感じがある。ぎゅうぎゅう詰めのバスに圧しつけられた体の融合。「雲急ぐ」を臨場感に合っているものとして季感語として見ると、周辺状況から秋の雲らしさが出ている。金子先生は、問題句とは問題を提起していく重要なものだとされた。その意味で問題句と言える。四つの動詞、二つの比喩も入れ、体感を強調している韻律ある好句。
母というひとくくり平和憲法みたいに 三枝みずほ
「母というひとくくり」、そのひとくくりな見方に対し、批判的に書いたもの。憲法みたいに決めつける、母=無償の愛、という考えにがんじがらめの世の中だから。母というもの、憲法の議論、これは見据えていくべきもの、安易に見てはいけない。金子先生が言う問題句ではないか。ひとくくりという切れ、平和憲法みたいに、の止め。これは俳句のしがらみからは出て来ない表現。
秋の蟷螂寝違えのやう轢かれ 川崎千鶴子
蟷螂の死に際は悲惨だが、どこかへ行ったその姿のあっけない感じがいい。
電話ふいに野分掠めゆく海原 藤原美恵子
今回が海原の第1回全国大会、電話ふいに、で不安の心境をストレートに出している。
ふかし藷つくり笑いを真似てみる 大野美代子
周囲への違和感を感じ、つくり笑いを真似てみるが、ふかし藷はそれでも和んでいる。この屈折感がいい。
蜂の巣を焼いて讃岐に発ちました 若森京子
讃岐は巡礼の地。蜂の巣を焼くという大変厄介な日常を克服して、巡礼の地へ飛び立った。空海の育った地へ。
小生は海程に入り7年になるが、全国大会には今回が初参加となった。選者に対する田中亜美や増田天志等の熱い意見が印象的だった。兜太先生への思いが会場の熱気につながって感じられ、この同志の集いを今、先生はどう見ておられることだろうかと思った。三枝みずほの問題句の後、「チコちゃんに、『きみたち、ボーっと俳句作ってんじゃねえよ‼』と叱られたような気がした」と松本勇二がまとめたのが、今も耳に残っている。
《第二日の午後●小豆島吟行〈その1〉》
まずは岬の分教場へ 伊藤巌
海原第1回全国大会の総会が終わった。いい大会だった。ゆっくりと走るフェリーの上で、秋の陽に光る水脈を見ながらしみじみとそう思った。先生の句がうかぶ……。
行く先は小豆島、有志吟行の始まりである。船旅はほぼ1時間、台風の余波か、風が強い。
「小豆島は馬の形、そう覚えるとわかりやすいです。後ろ脚の部分へまず行きます」そんな説明を受けながら40数名を乗せバスは出発。曲がりくねった海沿いの細い道を岬の分教場へ。「二十四の瞳」の舞台である。
木造の校舎・教室。床、ちいさな机、椅子、そして机の傷……すべてが往時のままを息づいている。突如「七つの子」の唄声が起こる。オルガンを弾く袴姿のおんな先生が見えるようだ。教室の後ろのガラスのケースに、教育勅語が飾ってあった。難しい漢字は今でも読めない。だが「ワガコウソコウソー」とすらすらとでてくる。
昭和、平成、そして令和、ほんとうに早い。懐かしい、郷愁、わーかわいい、世代により、分教場もいろいろな受け取り方・感じ方がある。私はやはり痛みかな、おもちゃのような小さな椅子を見ながらそう思った。
島にオリーブ廃校にわらべ歌 川崎千鶴子
秋深し木の定規なら計れます 綾田節子
黒板塀と白壁の端正な街並みが続き、町に醪の強い香が溢れている。小豆島を支えているのはオリーブと並んで醤油でもある。100年以上も天然醸造を守り続けている丸金醤油の駐車場には観光バスが何台も止まっていた。
まず小麦を煎ることから、そして大豆を蒸す。焙煎・甑・唐箕・麹……安西代表の友人であるご夫妻が丁寧に天然醸造の工程、用具等の説明をしてくださる。
大きな金庫に迎えられ、まず資料館に入る。樽、棒締機……その大きさに驚かされる。「娘のおしおき」そんな名前の大樽、どんな娘でもここに入れられたら観念するだろう。
少し離れた建物が登録有形文化財・天然醸造ギャラリー、ぶつぶつと発酵している醤。直径2メートルを超す大桶おおこがが列をなし100メートル以上も並んでいる。先が見えない。1年以上もかかるという天然醸造。自然が醸し出す日本の味、そんなことを思いもした。
ふくふくと息するもろみ秋深し 石川まゆみ
白秋やもろみ大桶おおこが百並ぶ 西美惠子
小豆島は思ったより遥かに大きい。複雑な海岸線を集落を結ぶ路線バスが走っている。そして盛り上がるように険しい山。「観光スポット、寒霞渓はまだ紅葉が早いので、ぜひ皆さんに見ていただきたい素晴らしい場所に、最後にご案内します」と案内役の中野佑海。この日のために何回も実踏をされ、観光課の人にも褒められたとの今回のコース。バスは海岸線を離れ山道に入る。「こんな島にもダムがあるんですよ」そんな説明に、皆興味深く窓の外を見る。
急な坂道を一気にバスは登っていく。まさに九十九折、よくもまあと思うくらい曲がりくねった山道、両側には照葉樹と針葉樹の混じった原生林が迫り、さすが温暖な瀬戸内の島だなあと感じる。
四方指しほうざし展望台は素晴らしかった、そぎ落とされたような険しい崖が、海岸線から一気に700メートル余もせりあがりその頂に正方形の展望台が備えてある。四方指、ぴったりの名前だ。いち早く上った女性達がもろ手を上げ歓声を上げている。頭上には茫漠とした秋の空の広がりがあるばかり。東西南北、素晴らしい眺望、穏やかな瀬戸内の海と島、遠くには霞む陸地、まさに四方指、3000メートルを超す高山にも劣らぬ風格を持った展望台であった。
両手拡げ空掴む女四方指 谷口道子
四方指の秋空飛べるまで待つ 松井麻容子
宿舎「ふるさと荘」は小高い丘の上にあった。入り口の前の広場から瀬戸内の海と島々の広がりが見える。吟行も終わりみなホッとするひととき。大会2日目も終わる。
彼方にゆっくりと太陽が沈んでゆく。声もなく。そんな時間が過ぎていく……。いい一日だった。
秋夕焼島はゆっくり鍵をかけ 奥山和子
《第二日の午後●小豆島吟行〈その2〉》
醤油の香りと展望台と 石川まゆみ
第二次句会後、小豆島吟行組はバスへ。12時15分、高松港でフェリーに乗る。お弁当とお茶を受け取り、ゆったりとした船室で頂いた。食後、デッキに。台風一過の瀬戸内海。風が凄い。髪も乱れて為すがまま。客席に戻ると、コーヒー片手に句作する人。そうだ!夕方の5時までに4句は必要なのだ。
1時間で小豆島の草壁港に到着し、再びバスに乗り込む。車窓に瀬戸内芸術祭の作品を眺めながら、『二十四の瞳』の映画ロケ地、岬の分教場へと向かう。道中、中野佑海と藤川宏樹の名ガイドにより、風景と共に情報を得ながらバスに揺られる。この道は小豆島マラソン(春)のルート、右手の湾はとても深く、台風時は多くの船が停泊しに来る、など。「湾曲マラソンですね」などと言いながら湾を走る。1時40分に分教場に到着。中野ガイドに従い、校舎へ。窓の傍にはオリーヴの樹。緑と黒の実をつけている。入場券を買って苗羽のうま小学校の教室内見学へ。低、中、高学年の教室に分かれているが、椅子の大きさは同じ。机も椅子も私には小さすぎる。『二十四の瞳』の曲が放送され、一緒に歌って面白がった。当時この教室で学んだ児童らの絵画作品が展示してある。禿げた緑色の黒板が懐かしい。分教場は昭和46年4月24日に廃校式が行われ、94年間の歴史に幕を下した。郷愁を胸に、小学校を後にする。バスの冷房が有り難い。
10分ほどでマルキン記念館に到着。下車した途端、醤油のいい香りがした。安西代表のご友人という社長さんが案内してくださる。寛政10年の大福帳なども展示されており、醤油づくりの工程をパネルで観ながら館内見学。こうじづくりは温度と湿度がいのち。こうじと食塩を入れ「もろみ」をつくる。「大桶おおこが」は背丈以上の深さで、大桶を混ぜる櫂は長くて重い。もろみは1年かけて熟成する等、俄か知識。ふんだんに醤油の香りを嗅ぎ、バスの時間まであと10分となった。その時、「歩いて5分で現役のもろみを入れた建物がある」と誰かが叫んだので、皆必死で辿り着く。広大な建物内は薄暗い。窓から覗き込み目を凝らすと、もろみの大桶がずらっと100もあるだろうか。目の前のもろみへ、むにっと手を突っ込みたい衝動。また必死で歩いて2分前に戻り、大急ぎで「醤油ソフトクリーム」を買ってバスに乗り込む。セーフ!
15時、大観峰へ向けて出発。車窓に建設中の内海うちのみダムを見る。小豆島は高低差がある為、水が溜まりにくいそうだ。ダムは既に水を貯えていた。小豆島といえば寒霞渓かんかけい展望台だが、紅葉には早いので、「四方指しほうざし園地」の方へ。くねくねの道を大型バスは巧みに登る。拍手! 眼下に瀬戸内海が見える。歓声!
四方指園地は、高度777m、テーブルのような展望台に20人は乗れそう。順番に立っては、四方の展望に感嘆する。句を作る人、万歳する人、それをスケッチする人など、限られた時間を存分に楽しむ手練れの集団。さすがである。16時にはここを出発し、今夜の宿「ふるさと館」を目指す。景勝地の急こう配を下りながら、バス内に余裕ある笑い声があがる。もうみんな俳句ができたらしい。17時に到着し、あと30分で日没となることを聞く。急ぎ翌日分2句を出句し、展望浴場へと走る。豊かなお湯に浸かって、瀬戸内の多島美に落ちる夕陽を見届けた。
適度以上にアルコールも取った夕食後は、3部屋に分かれて小句会。出句数は各司会者に任され、2句だけか席題もか、などとバラエティーに富んでいたようだ。句会の後は恒例の二次会。入浴後のスッピン参加もあり、アットホームな雰囲気で話が弾んだ。深夜に部屋に戻り、心静かに明日の選句をする。
最終日の第三次句会も無事終了し、昼食はご褒美のような「オリーヴ牛」。ずっと食べていたかったが、時間が来た。国民宿舎が、土庄港(牛の口か耳)行、福田港(しっぽの付け根)行と、バスを2台出してくださった。途中、オリーヴの千年樹に寄り、みんな御利益欲しさに樹を撫で回した。そして、尾崎放哉記念館。放哉が最後の8カ月を過ごし、その場所で亡くなったという南郷庵の狭い部屋に佇む。ほんの15分の滞在だったが、西光寺の放哉のお墓までを往復した健脚の方もあった。バスは、そこで東西に別れた。
台風の進路を気にかけつつも、瀬戸内海の爽やかな空気を満喫。忘れ難い吟行となった。
《第二日の夜●グループ交流句会》
【Aグループ】抽象の句に議論伯仲 赤崎ゆういち
高松港からフェリーで小豆島に渡り、小豆島を牛にたとえると、牛の蹄の位置にある「二十四の瞳」の映画のロケ地・岬の分教場をまず見学した。分教場の教室に残る木製の三角定規、分度器など年配の方々には懐かしさ溢れる教材が壁にかかっていた。「海原」の女性の見学者の中から思わず童謡の「ふるさと」のコーラスが自然発生的に生まれるほどであった。
マルキン醤油記念館では、バスが近付くにつれ、醸造用もろみ、麹の香りがして、木桶の大樽がいくつも飾ってあった。台風一過の見学バスが何台も駐車していて、見学者でごった返していた。
紅葉にはまだ早い寒霞渓を素通りし、バスの運転手さんが是非見てほしいとのすすめで、大観峰の四方指展望台まで携行していただいた。そこには今回の吟行でしか味わえないと思えるほどのパノラマ絶景に出会えた。眼下には、小豆島の街が米粒の様に見え、ハンググライダーにでも乗れば滑空の素晴らしさが味わえそうなパノラマ絶景であった。四方指展望台から、この日の宿「公共の宿ふるさと荘」に、予定時間を過ぎて到着した。「ふるさと荘」では、A、B、Cの3グループに分かれ、各自2句投句で、夕食後8時ごろから、グループ交流句会が始まった。
我々Aグループ14名の司会は小松敦、アドバイザーは熊本の野田信章であった。
以下、高点句を記すと次の通りであった。
〈5点〉
石の性なぞり彫り出す良夜かな 桂凜火
つるべ落とし諸味も母のつぶやきも 野田信章
〈4点〉
秋風やはなはうらから透きとほる 三枝みずほ
経歴の果ては破線に竜の玉 山下一夫
素馨の夕髪の先からほぐれゆく 石川まゆみ
(注)素馨とはジャスミンのこと
〈3点〉
「殿髪が」野分のあとの棕櫚の乱 石川まゆみ
風の青空りぼんはいっぽんのひも 三枝みずほ
梵鐘やみぞおちに秋の揺らぎ 藤原美恵子
桶底のつぶやき秋御輿は跳ね 山下一夫
オリーブ島秋字余りのように分教場 赤崎ゆういち
百年樹オリーブ小熊座のささやき 野田信章
討論に移り、イサムノグチ庭園美術館に想を得たと思われる桂凜火の〈石の性なぞり彫り出す良夜かな〉の句に議論が集中した。
野田信章から、上・中句の「石の性なぞり彫り出す」の表現が抽象的で具体感に欠け、全体として抽象的な句に終わったのではないか、上・中句に具体性を置くことがこの句の生命なのではないか、との指摘があった。
これに対し、川崎益太郎から、上・中句には「十分な具象性・具体感があり、具体的イメージも浮かぶ」との反論があった。作者からも「上・中句の具体性について検討してみたい」との意見があったものの両氏の議論が延々と続き、句会終了後ロビーに移ってからも続くほどであった。また、この句は下句の「良夜かな」で句全体が締まった、との指摘もあった。
四方指展望台、マルキン醤油記念館、二十四の瞳の分教場を詠んだ句にも吟行句ならではの臨場感溢れる句が多かった。
「海原」新人賞受賞の三枝みずほの句にも人気が集まり、〈秋風やはなはうらから透きとほる〉の中・下句の「はなはうらから透きとほる」の表現がユニークだ、との意見が多かった。
今大会では、無季の句の投句が結構あった。芭蕉の著書にも「無季の句もあらまほしきもの」との表現がある。しかし、無季の句が中心でもなあ、との個人的感想も持つ。
最後に、丘の上にある「公共の宿ふるさと荘」から見た瀬戸の海に沈みゆく夕焼け、「後の月」の満月も美しく、有志吟行に参加して良かった、との印象を持った参加者は多かったことと思う。
【Bグループ】活発な議論と笑いと 谷口道子
台風一過、秋晴れの中、心惹かれる小島、漁船などを楽しむうちに草壁港に到着。岬の分教場、マルキン醤油記念館、四方指展望台を経て国民宿舎に到着。なお、マルキン醤油の代表者が安西先生のお知り合いとかで特別に醤油蔵の中を案内していただいた者もおり、ここで、多くの吟行句が生まれた。
グループ交流句会開始は19時30分、そして20時18分、埼玉から金子斐子さんが到着され「死に物狂いで来ました」とご挨拶された。
司会・増田天志、アドバイザー・堀之内長一、披講・榎本祐子の各氏、参加者15名、一人2句出し、4句選で会は進められた。
〈最高得点(7点)〉
醤舐め秋を深くしている躰 榎本祐子
大いに議論された句。“舐め”があるから“躰”はいらない。“躰”よりベストな言葉がありそう。“躰”にダメ押し感がある。深くしている“躰”はよい、などなど。“舐め”は原因結果の感あり、いや“舐め”は必要との意見が拮抗。答えが出すぎ、一本調子という意見もあったが、吟行句ではここまでで上等。「海原」における金子先生の“体、肉体感覚”を引き継ぐ句と思うとアドバイザー。作者から「“舐め”は外せない。“秋を感じた躰”しか思いつかなかった」と。
〈次点(5点句・2句)〉
醤油甕の底に秋が潜んでいた 榎本祐子
選んだ人から「正解ではない、若干、類想感あり」等とマイナス意見。短い時間にここまで把握されたことに共感を覚えた人が多くいた結果の高得点だろうとアドバイザー。作者を名乗られて一同驚きの声。
自作のバッグ秋は縫い目の解れから 中野佑海
バッグを“自作の”としたところを評価する人が多かった。独特のセンス、良き日常感という評価も。作者の「友人の手作りのバックを見て。ただし、解れさせたのは私」の言に一同大笑い、一気に場が和んだ。
〈4点句(1句)〉
両手広げ雲掴む女ひと四方指 谷口道子
現場を見た者として“雲掴む”の表現がオーバーではあるが素晴らしい。オーバーでなく、ストレートで良い、面白いとの評価。
〈3点句(4句)〉
鳥になろうか雲になろうか瀬戸晩秋 佐孝石画
瀬戸晩秋が効いている。四方指の景として、気持ちよい句。
名と顔が合わないみみず鳴いている 望月士郎
よくあることと共感しつつも“鳴いている”に疑問符を示す人多し。
散りぢりの引率の子ら野分好き 中野佑海
子供の“野分好き”を意外性と捉える人と子供は野分好きなものとする人に分かれたが、今回の台風と絡めて楽しい、明るい句と評価。ただし、子らはもしかしたら今日の私たちかもとの意見に、作者の中野さん(引率の御苦労をお掛けしっぱなし)、やはり、「子らは皆さんのこと」と。
芒原石のたましい並んでいる 松井麻容子
“石のたましい”に、賛否両論。イサムノグチの作品を見た人はおおむね高評価。作者は石川県の人、「この島の人たちは石に敬意を払っている。いろんなものに魂が宿っているのでは」と。俳句は魂を読むものだから、魂を句に入れてはダメと教わった人が、「だから、これは取れない」と。「海程、海原は何を読んでも良し」とアドバイザー。なお、アドバイザーの句にも“たましい”が入っていた。
鬼の首ぶらさげ屋島霧襖 増田天志
きつい表現だが、屋島の歴史的背景か。屋島があるから頂いた。屋島が霧襖の中、鬼の首を下げているような感覚的俳句として面白いなど、選者の評。香川には鬼ヶ島(女木島)と呼ばれる伝説や、「泣いた赤鬼」という児童文学も有名と地元の人から解説してただいた。
以下、上記以外の句と作者名を列記する。
校庭の木の実七粒四方指 亀山裕美子
瀬戸内海はかくスクランブル夕焼ける 金子斐子
望の月金星ヴィーナス宿し瀬戸の海 伊藤巌
ふれおちるむかごてのひらむかごめし 川崎千鶴子
どうしてますか雁の使いに委ねます 新田幸子
落暉空気のような君と見る 永田タヱ子
秋の日を縮緬皺の海に置き 佐藤仁美
取れ立てのオリーブ色のたましいよ 堀之内長一
【Cグループ】個性って何だ? 小西瞬夏
二日目夜。きれいな夕日が瀬戸内海に沈むのを、みなで溜息をつきながら見たあと、今度は東の空に満月が煌々と上がっていった。宿から夕食の会場まで、暗い道を少し歩かなければならなかったのだが、その道のりは、その満月を見るためにあったような暗さだった。後から聞くと、それも今回の主催者、野﨑憲子さんの演出であったらしい。
参加者は14名。2句出し、そして他のグループにはない直前の席題1句を課した、きびしく優しい奥山和子リーダーのもと、進められた。披講は増田暁子、室田洋子。高得点句より紹介する。
〈6点〉
十五夜の島に捨て石置き直す 高木一惠
☆満月の景を即座に詠みこんだ一句。前日の高松でのイサム・ノグチとは違った表情の石である「捨て石」。その「捨て石」をどう読むかがあとで議論されたのだが、捨てられている石、どこにでもあるような石、それを「置き直す」という一見意味のないような動作が読まれ、それにあるかもしれない複雑な意味を想像させられる。または、まったく意味がないかもしれないことをする、その割り切れない心情をも思わせる。
○「石」が海岸線にあるテトラポットのようなものであるとしたら、それを動かす、ということがあるだろうか。
○囲碁にも「捨石」というものがあるが、それに関連はあるのか。
○上手にまとめ過ぎてあるのではないか。その人でなくては言えないことが言えているか。
〈4点〉
島も人も逆光にあり晩秋 鳥山由貴子
○島の光は眩しかった。写真をとるときも、夏と違ってどうしても逆光になってしまう今日のリアルな実感がある。
☆最後の晩秋という季語は動かないか。これでベストか。
☆「も」が二つ重なるのはどうか。
左手に満月きみに会いに来た 室田洋子
☆これも、今日の満月をうまく詠み込んだ。「きみに会いに来た」というのは甘すぎるが、「左手に満月」が決まっていて心憎い。花束ではなく、左手にあるのは満月。そして空いている右手はどうするのだろう、と思わせる。
○「きみに会いに来た」は甘すぎるでしょう。
*作者からは「海原のみんなに会いに来た、という意味」という補足があった。
〈3点〉
口笛は挽歌オリーブの実の熟れて 鳥山由貴子
☆「挽歌」と「オリーブの実」の取り合わせがとてもおしゃれで、今日手にしたオリーブの実の実感もある。
○「口笛は挽歌」はやや言葉でうまく言った感じがある。
○手練れの句である。
吐く息を少し長めに律の風 奥山和子
☆「律の風」というのが美しい。
☆吸う息と吐く息があって、その吐く息のほうが少し長い、ということは発見である。
○律の風というのがよくわからなかった。
*作者より、お琴の音色とともに感じる風のようなものであったり、音楽が流れてくるような風、という補足があった。
軽四輪の神輿の御成り醤蔵 武田伸一
☆今日見た、ちょっと不思議な御神輿の景がそのまま書かれてあって、実のある句。
○やや、そのままの景ではないか。
瀬戸内や人の世に蝶紛れ込む 武田伸一
☆「蝶が人の世に紛れ込む」というのは幻想的で美しい。
○今日の吟行では通用するであろうが、「瀬戸内や」というのが効いているかどうか。
印象に残ったやりとり。
・高得点句は、手練れの句、という傾向があった。上手な句ではあるが、上っ面だけ言ってないか。もっと個性が必要なんじゃないか。
・それでは、個性ってなんだ?
・「その人じゃないと言えないことか」「誰にでも言えることではないのか」という視点が必要。
『海原』No.16(2020/3/1発行)誌面より
◆第1回海原全国大会レポート(その1)
第1回 海原全国大会in高松&小豆島
2019年10月12日(土)~14日(月)
於サンポートホール高松
ホテル「花樹海」/国民宿舎「小豆島」
《第一日●総会レポート/公開講演会》
初の「海原全国大会」スタート! 増田暁子
◇総会と「海原」三賞の表彰
会場のサンポートホール高松は、高松駅前にそびえる大変立派な建物である。12時に受付開始。香川句会の皆様と関係者の尽力で、台風のなか初の「海原全国大会」が始まった。
台風の直撃予報はなんとか外れたものの、新幹線、在来線、飛行機などが全面ストップし、残念ながら当日に参加予定の方々が身動きがとれず不参加となる。最終的に参加人数66名で受付が終わる。
午後1時、総会開始。司会進行は香川句会の中野佑海。総会に先立ち、昨年からの物故者4名に黙祷を捧げる。
開会挨拶は地元香川句会を代表して野﨑憲子。台風のなか、皆様のお力で開催出来ることになり喜んでいます。台風のエネルギーを取り入れ、この大会を盛り上げていきましょう。このホールの利用を含めて、今回は講演会と第一次句会を一般市民にも公開することで、県の文化芸術振興活動費助成金をいただいていることが報告された。
代表挨拶は安西篤代表。「海原」は金子兜太師亡き後の「海程」を引継ぎ、同人誌の形で出発した。兜太師の俳句に対する理念でもある「俳句形式への愛が基本」「俳諧自由の自己表現」を引き継いで、これからも「海原」を盛り上げていきたい、と話された。
次は武田伸一発行人による挨拶。「海原」は会費収入で無事発行出来ている。10月現在、同人は305人、会友は185人あまり。皆様からご
協力いただいた発行基金はまだ残額が十分にあり、次の発展のために使いたい。最後に、初年度(18年9月~19年8月)の会計報告が詳しく説明された。
堀之内長一編集人からは編集の報告。「海原」は同人作品掲載が5句になり、「海程」のときより迫力が出たようだ。まだまだ試行錯誤の途中で、これからも「海原」らしさを追求していきたい、と意気込みが語られた。
いよいよ「海原」三賞の発表と表彰式。「海原金子兜太賞」本賞はすずき穂波、奨励賞は望月士郎、特別賞は植田郁一。すずき穂波は体調不良であいにくの欠席。代理として同じ広島の川崎益太郎に金子眞土氏より兜太師直筆の色紙が贈呈されると、会場は一気に盛り上がった。「海原賞」は小西瞬夏、水野真由美、室田洋子の3名。「海原新人賞」は三枝みずほ、望月士郎の2名。安西代表より、それぞれ顕彰と副賞の授与が行われた。ちなみに、副賞は『金子兜太さんの最後の言葉』(DVD)、金子兜太句集『百年』、熊谷市制作の俳句を染め抜いた扇子などであった。
◇公開講演会
公開講演会は午後2時から始まった。最初の講演は田中亜美による「若い世代に広がる俳句」。「100メートル走は無理でも10メートル走ならばできる」という日本学校俳句研究会の小山正見先生の言葉を巻頭に、小・中学校の俳句授業の様子を江東区や荒川区の事例で解説。高校生については「俳句甲子園」を紹介。2019年の第22回大会は35都道府県95校120チームが参加。兜太師も2009年に特別審査委員長として参加。高校生たちの求めに応じて「生・兜太」とサインして話題に。大学生の場合は学生俳句会が隆盛で、授業での導入も増えているとのこと。
若い世代に広める意義は、一般教養、集中力、自己肯定感をはぐくみ、他者を受け入る姿勢を学ぶことであると締めくくられた。
次は、安西篤代表による「金子兜太という存在――句集『百年』の魅力を探る」。堀之内編集人が適宜聞き手を務める。兜太師は晩年の人間像をさらけ出し、多面性を持つ存在者であった。師は亡くなったが生者として存在し、信頼感は揺るぎない。業績は正当に評価されるべきだ。生者に対し「今ここにある問題」を提起しているとして、例句をあげながら、師の最終章である句集『百年』の魅力を熱く語られた。
《第一日●第一次句会》
晴れ男は高松に 鳥山由貴子
「海程」から「海原」へと変わり迎えた第一回目全国大会。熊谷・秩父を離れ高松・小豆島での開催は期待に満ちていた。しかし危惧していた台風発生。昨年の西日本豪雨による混乱が頭を過る。交通機関の計画運休が必至となり大会自体の中止も検討された。しかし少人数でもとの地元の強い希望もあり実施へ。結果、前泊組も多く約70名が参集した。
事前投句162句。特別選者18名。代表者7名(安西篤、高木一惠、藤野武、松本勇二、若森京子、こしのゆみこ、十河宣洋)により講評が始まった。
【特別選者の特選句のある高得点句】
雨気孕む肉よ野越えの人形座 野田信章
大西健司、こしのゆみこ特選。十河宣洋、高木一惠、遠山郁好、並木邑人、柳生正名、若森京子秀逸。
まくなぎや明るい出口までふたり 小松敦
佐孝石画、松本勇二特選。こしのゆみこ、遠山郁好、野田信章、藤野武秀逸。
空蝉の中に風吹く無言館 若森京子
武田伸一特選。大西健司、川崎益太郎、田中亜美、前田典子、柳生正名秀逸。
巻き癖の海図の上へ青檸檬 鳥山由貴子
遠山郁好、柳生正名特選。田中亜美、堀之内長一秀逸。
晩夏光鳥籠のようとらわれて 川田由美子
堀之内長一特選。安西篤、田中亜美秀逸。
野分たつ嘘ひとつぶんの距離にいて 松井麻容子
前田典子特選。並木邑人、松本勇二秀逸。
指紋という小さな銀河針しごと 望月士郎
十河宣洋、高木一惠特選。
空海兜太猿酒酌むや讃岐富士 すずき穂波
田中亜美、若森京子特選。
【特別選者代表による句の講評(一部)】
[安西篤選]
半夏生斜め下から母に似る 奥山和子
斜め下という手の込んだ視覚。複雑な思いが感じられる。季語の半夏生が効いている。
[こしのゆみこ選]
まくなぎや明るい出口までふたり 小松敦
好きな句。まくなぎが手をつないで突っ走っている感じがする。青春性を感じた。
[十河宣洋選]
ででむしの肉色あはし遠発破 小西瞬夏
昔住んでいた村で、15時になると石灰岩の山に発破がかかったのを思い出した。ででむしの肉色、が上手い。
[高木一惠選]
核と人間かりかりの蚯蚓掃く 川崎千鶴子
核による人間の痛ましい姿と、かりかりになった蚯蚓。それを合わせて詠まれた作者の思いを感じた。
[藤野武選]
夜を待つ雲ひとつ居て夏の窓 佐孝石画
(50年近く前に宇高連絡船で来た四国。ここにまた来ることが出来、とても懐かしくしあわせに思う。と話されてから)
美しい句。夜は老いや死の喩えか。雲は作者自身でもある。刻一刻と変わる夕暮。その過程こそ大切だと思っているのでは。口先で作っているのではない、思いの深さを感じた。
[松本勇二選]
食えない詩のために死ぬなよ赤楝蛇 並木邑人
語りかけているような口語がよい。赤楝蛇という季語がこの句を支えていると思う。
[若森京子選]
老人ホームに虫ピンで止められし晩夏 藤野武
切ない悲哀を感じる。生と死。老人と何かが止められているような哀しみ。好きな句だ。
さて、今回特別選者はどの作者の句に惹かれたのだろうか。特選2点、秀逸1点とし総得点を出してみた。(堀之内長一案)。結果は小松敦(11点)、野田信章(10点)、若森京子(9点)、宮崎斗士(8点)、佐孝石画・望月士郎(7点)、川田由美子・奥山和子・室田洋子・鳥山由貴子(6点)。5点以下省略。
高得点者には賞品が授与され、特選句の作者には特別選者自筆の色紙が渡されて第一次句会が終了した。
ちなみに鳥山が頂いた一句です。
ががんぼう醤を買いに苗羽まで 遠山郁好
*「のうま」は小豆島町の地名
《第一日の夜●懇親会》
天地ゆうゆう 河西志帆
台風で電車も飛行機も止まったこの日に、呑気に俳句なんぞしていて良いのかと、後めたい気持ちで、高松の水城を見ていました。
でも来たからには精一杯楽しんでしまえるのが俳人なんです。都合の良い言い訳だって二つ三つ用意して来ました。
懇親会会場に向かう満員のバスは、坂道を登るのに、青鬼吐息でございます。「大丈夫なの~」と口々に盛り上がったところから、宴の幕が上がりました。
若森京子さんの乾杯の挨拶の中で、「この四国開催を、高橋たねをさんがいたら、どんなに喜んだでしょう」という言葉に、胸がきゅんとなりました。でもこの時、本気で思ったんです。ここに来れなかった沢山の人達も、もしかしたら他界からバスに乗って来ているかも知れないと。
だって、ここは四国巡礼の地‼ 乾杯と献杯の心で飲みほします。四国入り出来なかった方々の分まで、楽しい夜になるように。
第1回海原賞3名、いつも元気な水野真由美さんによる香川勢への労いの言葉で始まりました。今日まで気が気じゃなかったよね‼野﨑さんが、うるうるした眼で微笑み返しました。その大きな声の、水野流都はるみを嬉しそうに見ていた先生を思い出しました。
「この後じゃやりずらいわあ」と言いながらの室田洋子さんの笑顔に、ご主人を亡くされた悲しみも、少しは和らぐといいねと思いました。みんな頑張って、いろいろなものを抱えて、俳句に背中を押してもらって、ここに来ているんだ。
たったひとり着物姿で、しっとりとゆったりと、第2句集のことなども、小西瞬夏さんは、この大会のお手伝いもして下さっていたこと、ご苦労様でした。
そして、海原新人賞の三枝みずほさんは、若く美しく、パッと目立ったのでした。海原の明日が見えたね‼ ハワイから参加のナカムラ薫さんと、顔を見合わせ声をそろえて言いました。俳句界に欲しいのは、若さです。
もう一人新人、とうていそうは見えません。兜太賞奨励賞まで手にしたんですよ。その望月士郎さんが、何と眞土さんに似ていると、おいしいところまで持って行っちゃいました。
海原金子兜太賞本賞のすずき穂波さんが体調を崩して不参加ということで、川崎益太郎さんがご自分のことのように嬉しそうでした。
でもこの日、何といっても忘れられないのは、この壇上にまさか上がることになるとはと、スリッパに短パン姿の眞土さんでした。
その照れた少年のような横顔が心に沁みました。普段着の言葉を聞けるのは海程の者達だけなんだという身内感が、じわぁーと心の中に広がっていきました。
先生の最後の9句を収めた『百年』ああ、先生サインして下さい‼ と言えないのが淋しいけど、仕方ないよね。
俺は死なない‼ なんて言って様になるのは兜太先生しかいないと思いながら、眞土さんの声を聞いていました。
私達は、先生のいない淋しさを少しずつ埋めて前に進まなければなりません。それが眞土さん、千佳子さんの願いだと思うのです。
こうして全国大会がなかったら、名前も顔も覚える機会はなかったと思いませんか。
恒例の地区ごとの顔見せは、皆の保護者のように紹介したり、時々忘れたふりなどをして盛り上げてくれる武伸さん‼ 今宵も絶好調です。皆さんの名前を書ききれなくて残念です。あの人もこの人も会いたかった~。
お料理のお品書きは、紅葉の絵をほどこした「寒露の頃讃岐路」とありました。俳人好みではありませんか。年に一度、家族に公認の大手振って出掛けられる、ありがたい大会です。あちらこちらで話の輪がふくらみます。
あの大会で会ったよね。そんな数回の出会いなのに、こんなに嬉しく懐かしいのは何なんだと、いつも思うんです。
ああ~ここで
おらほうじゃこうだよ
おかしけりゃ
お笑いなっと
コラショ♬
秩父音頭が聞こえないのは悲しいけど、四国は阿波踊りと、よさこいばかりじゃございませんとばかりに、「一合まいた」は、さぬき高松の盆踊り。東尾会のお二人の軽妙な喋りと三味線につられて、会場は踊る阿呆になりました。
我等は今、一合まいたばかりです。うまく根がつき穂になって、一升一斗一石に、なるには手間暇かかります。
天地悠々 なれど海の道のりは
まだまだ ずっと先
◆第2回「海原金子兜太賞」の募集案内
―新作30句、募集締切は2020年7月20日―
第2回「海原金子兜太賞」の作品を募集します。同人・会友の別なく、だれでも挑戦できる公募型の本賞は、新たな作家の発掘と俳句の可能性の探求をめざすとともに、「海原」の活性化を図るものです。本年は選考委員に武田伸一発行人が新たに加わり、募集締切日も昨年より1カ月延ばしました。従来の観念にとらわれない清新な作品をお寄せください。
1 名称:海原金子兜太賞(第2回)
2 応募資格:全同人と会友全員(会友とは「海原」の購読者です)
3 応募要領:
① 応募作品数:新作30句
② 新作とは他の媒体(俳誌や雑誌、インターネット、各種俳句大会やコンクール等)に発表されていない作品を指します。句会報への掲載なども
注意してください。
③ 応募作品にはタイトルを付し、都道府県名および氏名を忘れずに記入してください。原則として「前書き」はなしとします。
④ 応募作品は書面による郵送、またはメールで送ってください(メールによる応募を歓迎します)。
※手書きの場合は、市販の原稿用紙を使用し、楷書で丁寧に書いてください。
※メールの場合は、ワードファイルやテキストファイルのほか、メール本文に貼り付けて送ってください。
⑤ 作品送付先:編集人堀之内長一宛て
〒338―0012 さいたま市中央区大戸1―2―8
電話&FAX:048―788―8380
メールアドレス:horitaku★2.so-net.ne.jp(★→@)
4 募集締切:2020年7月20日必着(締切が昨年より1カ月延びました)
5 選考委員:安西篤/武田伸一/田中亜美/堀之内長一/宮崎斗士/柳生正名/山中葛子
(新たに武田伸一を加え計7人・五十音順)
6 選考方法:応募作品は無記名にて選考。各選考委員の推薦作品をもとに、討議のうえで受賞作品を決定します。選考座談会は7月末~8月初旬に開催予定です。選考座談会の模様は「海原」誌上に発表します。
7 受賞者発表:受賞者は2020年10月号に速報として発表し、受賞作品と選考座談会は11月号に発表。11月に開催予定の全国大会(秩父)にて表彰します。
8 顕彰:受賞者には、金子兜太先生ゆかりの品物等の贈呈のほか、「海原」誌上における連作の場の提供などで顕彰します。
【問い合わせ】海原編集部堀之内長一まで
『海原』No.16(2020/3/1発行)誌面より
並木邑人句集『敵は女房』
「本当の前衛」の底光り 柳生正名
戦後、「前衛」ということばがきらきら輝いていた時代が確かにあった。筆者は多分、それを知る最後の世代だ。とすれば、10歳ほど年長の並木邑人はさしずめそのど真ん中を生きた。そんな彼が上梓したこの第2句集には1994年から2016年までの20年強にわたる333句が収められている。その全編からは、「前衛の本当」を知る者のみが感じるはずの恍惚と不安を読み取らずにはいられない。
革命の五月! 雛罌粟手折らばや
「その時間を売るな」
甦る 虹の
ギロチン
犀抱けばそんなに恥ずかしがり屋では
ない
陶然、という語がある。本集に接し、そのような念を抱いたことも筆者の個人的感慨にすぎないのかもしれない。並木邑人の世界を「前衛」の語をもって語ることは、むしろ不当なレッテル張りになりかねないことが気がかりでもある。
しかし、それはそれとして1968年、仏蘭西で学生運動に端を発したうねりを思い出させる巻頭の一句にまず引き込まれる。また高柳重信「身をそらす虹の/ 絶巓/処刑台」ばりの多行形式に労働力の商品化が生む搾取への批判を託し、さらには兜太の「犀」連作にライトヴァースで挑みかかる―。そんな作者の気魄の現れ方には、「前衛」を感じてしまう。
思えば、香港の若者たちを突き動かすものの熱量の大きさや、大ヒットTVドラマで語られた「好きの搾取」という言葉、没後ますますの盛り上がりを見せた兜太トリビュートの動き―。これらの「前衛」句が「今、この時」につながる視点をあらかじめ具えていたことに気付かされる。それは「前衛」を知らない世代や人々にも、その魅力を伝えるに十分な文学的力を備えている。
俳句における「前衛」を過去の遺物として片付けることへの疑念は、2011年から16年にかけての震災句を集めた本集第5部を読むことで決定的になる。
街も春田もことごとく薙ぎTSUNAMI来る
津波。そして時間は動かざり
わたつみはくさめしただけ くさめする権利
原発のための原発舌苔濃き
街も田も荒野も区別せず、平等に呑み込んだ津波。それは人類の歩んできた「進歩」という時の足取りを押しとどめ、くじくのに十分なできごとだった。喪われた多くの命や日常のかけがえのなさを思うにつけ、被災地の廃墟で目の当たりにされた自然の力は圧倒的なものとして人間に迫ってくる。
しかし一方で、大自然の側からすれば、それすら千変万化の海原が催した一瞬の嚏にすぎない、ともいえる。その事実が、俳句では禁じ手のはずの「。」で表現される絶対的な断絶=「切れ」の感覚を作者のうちに生んだのではないか。自然と人間の間にある安易に踏み越えてはならない一線の存在と、すべての自然は人間の制御下に置き得るという増上慢が生んだ「原発信仰」への怒りを、読点という究極の切字を用いて読者に突きつけてくる。この大胆にして蠱惑的な試みこそが「前衛の真骨頂」などとついつい思う。
「前衛」には「難解」がつきものである。本集についても筆者のみならず、檜垣梧樓による跋文を読むにつけ、その博学と句の解釈の鮮やかさに圧倒される反面、自身の読解力の拙さと浅学ばかりに気が行く向きもあるのでは、と気にかかる。ただ、例えば
蟷螂に星刈るしぐさありにけり
一角獣座より伝声管の冬ざくら
真穹一枚かもめ食堂に売ってます
わが尿蜥蜴来て舐む入り日かな
鹿児島や耳のよい木に小鳥来る
の抒情は、読者が言葉そのものに身を委ね、自然に心を遊ばせることができる。それはこれらの句が「生きもの感覚」に裏打ちされているからにほかならない。
さらに人間や世間、社会に対して少し斜に構えた批評的まなざしを感じさせる
青梅雨の船体あんたんと性的
鶴をよく食べる若者ディープキス
燃やさないゴミの日に出す終末論
鰓呼吸したし正論に食傷し
ねばならぬもののこみあうのっぺじる
手袋が空を征く日のことを書こう
も、並木邑人の人となりを知る読者にはどこか懐かしい。それは小手先の機知を弄した作ではなく、人間性の奥からにじみ出る深みを帯びている。それがさらに俳味を帯びた自己客観化にまで至る
洗濯機に入れておしまい邑人句集
宿敵はずっと女房秋ざくら
では、あの長身のうちにたたえた体温をさえ感じ取れる。そして何よりも、明確な社会詠に踏み込んだ時の鉈の切れ味。
眼のきれいな鴉を拒むテロルの木
秘密法座視するままに冬の蝶
いつか来る開戦号外鳥雲に
憲法は死にますか今朝蕗を煮る
ここに至って「前衛」にも二種類あることに気付く。例えるならば、サッカーでは他の選手が担ぐ神輿の上に乗って脚光を浴びる役割だが、ラグビーでは逆。自身が体を張ってお膳立てし、後衛にポイントゲットさせる。それで言うなら、並木邑人は文字通りラグビーのスクラム第1列。きらきらちやほやと言うよりは、どこか土の匂いのする、いや俳句の産土そのものに足を踏まえて最前線に立つ者である。
棒杭派われら桜に寄りつかず
飛花落下のうわついたきらきらでなく、月光を受けた産土の底光りするきらきら―。本集を通じ、ようやく「前衛の本当」を知ることができた。 (敬称・敬語略)
『海原』No.16(2020/3/1発行)誌面より
小西瞬夏句集『一対』
いちまいの光と影 若森京子
いちまいは蝶いちまいは光かな
第一句集『めくる』より七年目の第二句集『一対』の扉を開けると零れおちるかの如き第一句目。ひらひらと舞う蝶と光、光の裏には必ず影がつきまとう。蝶を暗喩として作者の、女性として人間として、光と影の間で常に抗いつついかに生きるか、どの様な発語で他者と自然の中で切り結んでいくか絶えず試行錯誤をくり返す小さな叫びの様にも思える。
小西瞬夏は香川大会において第一回「海原賞」を受け、舞台の上での長身の和服姿は大変美しかった。元教師の彼女が、やゝ饒舌に自身の俳句に対する姿勢を淡々と語る姿は私には芯の強さと共に深い淵から込み上げる呻きにも似ていた。
この一冊のあとがきにも述べている様に、自分が何かを見ている時、同時に自分はそれから見つめられている。その時生まれる感情を言葉にした時、その言葉の中で対象と自分が混り合い俳句が生まれる。その俳句が世界と自分との結び目となる。即ち瞬夏の肉体からの発語が俳句となって新しい世界を創造していく、いわゆる肉体を通して濾過された言葉、解説者の中原省吾氏の“もの派”“ことば派”の説から言えば後者であろう。
一頭の蝶一対の耳凍てる
この句から「一対」を題名にしているが、一頭一対のひびきの良さもあるが、耳から凍ててゆく静寂の中の淋しさ、儚さの中に一人の女性像を見る。
蝶ほど美と醜の二面性を明確に生きるものは他にいない。第五節からなる作品群の中、てふてふ、黒揚羽、初蝶、夏の蝶、秋の蝶、冬の蝶、凍蝶などさまざまの蝶をモチーフにした作品は四十二句もある。
てふてふの脚より生まれかなしめり
てふてふを白き凶器として飼へり
てふてふを逃がして朝の指の艶
“てふてふ”の表記には女性性が濃く内包されている。脚から生まれるのは逆児でありそれを嘆いている。白い凶器として飼うてふてふは、危険だが、半面艶っぽい媚を感じさせる。てふてふを逃がした朝の指の艶は正にエロスである。女の情念を思わせる三句。
自刃の間二畳を過ぎる黒揚羽
黒揚羽飼ふ函人形しまふ函
黒揚羽抓んで逃がす光かな
マゾヒストを思わせる自己の痛みに開張十センチ以上の全身黒に後翅の外線に赤紋のある黒揚羽をメタファーとした三句。“自刃の間二疊”の措辞には忘れ難い過去の暗い痛みの物語を。また自分が大切にしてきた人形の函に蝶を飼わねばならぬ悲哀を、また折角の一条の光を抓んで逃がさねばならない宿命を、人間の負の象徴として黒揚羽の三句だ。
しんしんことんしんしんことり冬の蝶
光踏み合うて冬蝶遊ばせる
肉挽いてをり冬蝶の匂ふなり
しんしんと冷える中ことんことりと密かに生きる孤独感がオノマトペでよく効いている。僅かに差す光をお互いに分けあって生きる慎ましさ、生活感溢れる肉を挽く行為の間にも女性の本能だろうか微かに香を放つ冬蝶。
父恋ふれば凍蝶に水堕ちゆけり
冬蝶嗅ぐ母の日溜まりありにけり
成人した女性の目で父を恋うたのか述懐の涙の様に凍蝶が融けてゆく女性特有の父へのオマージュとして水が堕ちてゆく。無臭に近い冬の蝶を、女として生きた日々を追憶するかの様にしきりに嗅ぐ母、“日溜り”の措辞から現在の母の安堵の日々がうかがえる、深い愛の二句。
にんげんをねむらすあそび蝶の昼
いにしへのひとのこゑ否蝶の昼
その奥の墓標の傾ぐ蝶の昼
真昼の蝶は一層影を濃くする。軽く“にんげんをねむらす”と言うが、ねむらすには死を指す場合もある。“いにしへのひとのこゑ”すなわちあの世からの人々の声であり現在と過去が一瞬結ばれた様に蝶は影を曳く。あの奥で少し傾ぐ墓標に舞う蝶は光と影が綾なして死者と生者の舞いである。あの世この世をことばによって妖しく結んでいる三句だ。
瞬夏と蝶の呼吸が見事に合っているのは確かだが、もちろん他にも沢山の佳句がある。
小鳥きて昼のからだをうらがへす
折りたたむ手足のかたち終戦日
雛の間にゐてわたくしをしまふ箱
幾本の紐跨ぎをり夜の素足
身に入むや煙のやうに詩のやうに
蛍を受くに差し出すからだかな
髪洗ふ平城京は火の匂ひ
絵日傘の中の耳たぶくらがりとうげ
水の秋みづくちうつしくちうつし
生きることは悩むこと、幸い日常から少し離れた俳句との出逢いにより彼女の精神生活は、肉体を通して智的な情念をかりたてて、この混沌とした世の中を呟きながらも強く生きてゆくであろう。
あとがきの後の頁や大枯野
年齢を重ねると共に展かれてゆく瞬夏の言葉の質感を、作品の未来を静かに見守りたい。 (敬称略)
◆『むずかしい平凡』中村晋句集
蟻と蟻ごっつんこする光かな
「俳句とは座の文学、人と人との出会いの文学。この句集を読むと、私たちの世界がいかに光というものに彩られているか、ということに思い当たる」(宮崎斗士の解説より)
■発行=BONEKO BOOKS 定価=一四○○円(税別)
◆『蝶の骨格』榎本祐子句集
子を採寸冬の蝶の骨格あり
「確かな詩の世界は、誰かの借り物ではない自分の納得できる表現を求めての結果である」(武田伸一の序文より)
■発行=現代俳句協会 定価=二五○○円(税別)
「兜太祭2020」開催延期のお知らせ
この度、新型コロナウイルスの猛威に鑑みまして、3月21日(土)~22日(日)にて予定しておりました「兜太祭2020」の開催を延期することに致しました。(「中止」ではありません。「延期」です。)開催日は今のところ未定です。
以上、ご理解ご了承のほど、よろしくお願い申し上げます。
皆様くれぐれもご自愛くださいますよう。
「兜太祭2020」幹事 宮崎斗士
第1回「兜太祭2020」のご案内
このたび、わが「海原」にて「兜太祭」を立ち上げることになりました。金子兜太先生ご夫妻のお墓参りも兼ねての秩父での一泊吟行会。これを毎年の春の恒例行事にしたいと思います。その記念すべき第1回――。どうぞ奮ってのご参加お待ちしております。
【開催日】2020年3月21日(土)~22日(日)
【宿泊】長生館(秩父鉄道「長瀞駅」近く)
〒369―1305 埼玉県秩父郡長瀞町長瀞449
電話:0494―66―1113
【参加費】20,000円(予定)
【スケジュール概要】
◇3月21日(土)
12:00~12:30 長生館にて受付
12:30~ バスにて吟行
(金子先生ご夫妻のお墓参り、壺春堂記念館、宝登山梅百花園など)
17:00 第一次句会出句締切出句2句
18:00 夕食
19:30~ 第一次句会
句会終了後、懇親会
◇3月22日(日)
7:30~ 朝食
8:00 第二次句会出句締切出句2句
9:00~12:00 第二次句会
句会終了後、現地解散
引き続き、22日(日)~23日(月) 有志一泊旅行を開催します。
こちらの方も奮ってのご参加お待ちしております。
◇申込み締切:3月7日(土)
※一人部屋は参加費+8,000円(参加者数によっては一人部屋をご用意できない場合がありますのでご了承ください)
【申込み・問合わせ先】
宮崎斗士 〒182―0036 東京都調布市飛田給2―29―1―401
電話:070―5555―1523
FAX:042―486―1938
メール:tosmiya★d1.dion.ne.jp
(★→@ 「d1」の「1」は数字の1です)
『海原』No.15(2020/1/1発行)誌面より。
松林尚志句集『山法師』 二十句抄(山中葛子・抄出)
若き母白くいませり半夏生草
今朝の秋布衣の雀もきてゐたり
黄金田や女神の臥せしあと残る
リュックには餡パン一つ山法師
連なる蔵王茂吉メッカに秋惜しむ
手術果つ羊の顔して夏の雲
花かたばみ帰りはどこに佇んでゐるか
術後二年泰山木の花仰ぐ
母がりの遠の紅葉尋めゆかな
新涼や那智黒を先づそつと置く
亡羊を追ひきし荒野月赤し
綿虫の一つ浮かんではるかなり
広場にガーゼ踏まれしままに凍ててあり
鉄棒に五月の闇がぶら下がる
大根提げて類人猿のごときかな
妻に紅茶われに緑茶や冬あたたか
ポストに落す原稿の嵩年の果て
虎ふぐでジュゴンでありし兜太逝く
足寒し戦後を刻みしわが齢
遠い日向見つむるわれも遠い日向
しなやかな野生美 山中葛子
あとがきによれば、「私は詩を読むことから俳句に入っており、無季を容認した瀧春一先生のもとで学び、また金子兜太さんの「海程」にも加わって歩んできた」とされる松林尚志氏は、「海程」「暖流」での活躍。また、俳誌「木魂」「澪」の代表を全うされておられる。ことに評論『古典と正統』『芭蕉から蕪村へ』をはじめ、多くの評論集を世に著しておられ、その研究心のゆたかさは『和歌と王朝勅撰集のドラマを追う』(「海程」五二一号)など記憶に新しい。さて、『山法師』は『冬日の藁』(平成二十一年刊)以後の、平成十五年から三十年までの七〇五句を収録されている。
リュックには餡パン一つ山法師
山法師心が急に軽くなる
晩年は素のままがよし山法師
自宅の目前に山法師の並木があり、その清楚な白い花を咲かせる好きな樹にあやかり、迷わず決めたとされる句集名の山法師の三句である。
一句目の「餡パン一つ」に省略された旅立ちの心情は、臍もゴマもあるふわふわな笑みがこぼれてきそうな美学を思う比喩のあざやかさ。そして二句目の、自然界と溶け合った天人合一のみごとさは、三句目の「素のままがよし」の、白い花へのノスタルジーゆたかな晩年を称える自画像でもあろう。
追悼句の多い一巻は、また吟行句も多く、能動的な野生をひきよせて実にドラマチックである。
森は若葉縄文土器と詩人のペン
『実在の岸辺』パンジー濃紫
逆白波の歌碑黄落直中に
月涼し百鬼も化粧して遊ぶ
寝につくは地蔵を倒すごとき冬
しなやかな野生美にみちびかれる作品世界は、まるで自然界を解明する文学の明かりのようではないか。
近代を封じて駒場夏蒼し
たつのおとしご空に浮かんで春夕焼
遠い日向見つむるわれも遠い日向
ここには前句集『冬日の藁』の暖色のかがやきが、さらに憧憬という閃きを存在させていよう。四片の苞の中心にある球形の花。湾曲した数本の脈のあざやかな葉形。空に上向く『山法師』は、宇宙空間にみごとな明かりをともしている。
『一対』小西瞬夏句集
いちまいは蝶いちまいは光かな
「…心の中にある不定形なものにも挑むため、俳句をつくるとは、言葉で、あるかなきか分明でないものを発見していく作業ともなる。結句、存在するらしき対象に言葉が現れる瞬間に情景(存在)が同時に立ち現れる、ということになる」(中原省五の解説より)
発行=喜怒哀楽書房 定価=二○○○円(税別)
https://www.amazon.co.jp/dp/4907879474
◆並木邑人句集『敵は女房』
宿敵はずっと女房秋ざくら
「邑人と奥様は文学のみならず人間学の競い合いをして来たのでは。それも邑人の学生時代から。照れくさそうな邑人の顔が見えるが、掲句、邑人が気合いを込めて表明する奥様への愛である」(檜垣梧樓の評より)
発行=文學の森 定価=二〇〇〇円(税別)
http://bungak.com/newly/index.php?month=201910
『海原』No.13(2019/11/1発行)誌面より。
◆第1回 海原新人賞
【受賞者】
三枝みずほ
望月士郎
【選考経緯】
『海原』2018年9月号(創刊号)~2019年7・8月合併号(10号)に発表された「海原集作品」を対象に、選考委員が1位から10位までの順位を付して、10人を選出した。
得点の配分は、1位・10点、以下9・8・7・6・5・4・3・2・1点とした。集計の結果、下表のとおり、三枝みずほ・望月士郎への支持が多く、得点も拮抗しているため、2人への授賞を決定した。
【受賞作品抄】
虹のほうへ 三枝みずほ
春野出るりぼんはひたすらに赤い
蝶止まるてのひら血のかよふ感覚
切り傷は直線てふてふは空を
春塵をふり落としてはみな狐
夜桜の白さもうだれの顔でもなく
ページ繰る指に初夏の森の匂ひ
両頬のいちご約束にうなずく
虹のほうへ少女ふっと出る旋律
子といたい仕事に行きたい夏燕
おかあさんじゃないとだめな日夏の空
引く波についていかなかった海月
泉湧き出る便箋の一行目
奥へゆくほどほうたるの息づかひ
一億総活躍きゅうり切るわたし
おとなしく触らせる髪水の秋
叱ってばかり金木犀の風が来る
ヘッドホンと繋がる秋の群衆は
どの人もマスク近未来はそこに
枯枝で描いた円を抜け出せず
吐く息のあつまるかたち冬薔薇
蟹を見る 望月士郎
銀漢や少女回転体となる
秋思四角ときおり月の内接す
投函の小鳥の名前をもう一度
林檎剥くしずかに南回帰線
サーカスの爪先がくる霜夜かな
駅頭に落ちてる顔のないマスク
悲しみが海鼠のかたちをして困る
手首から先が狐で隠れて泣く
どの本で見かけた兎だったか雪
ひとり灯して白梟に囲まれる
たんぽぽのわた吹く柔らかい自虐
しらすぼし知らない人の死亡記事
砂時計の中に二匹のアリジゴク
鴎のいるページめくると白雨の街
桐の花わたくし雨とあなたの雨
蛍狩しらない妹ついてくる
柩を運ぶ内の一人は蟹を見る
髪洗う指にこの世の頭蓋骨
はんざきの半分もらってくれという
射的場の人形ひとつ落ち夜汽車
【候補作品抄】
毎日が たけなか華那
長く細い尾だ母の日の霧笛
音源はヒルガオ片想いは終わる
古梅干黒いし献体は余っている
ラムネ抜く音下手っぴいでも愛なんだ
傷に露頂き白詰草もわたしも
榠櫨ひろってきれいなんだよ毎日が
雲が夜を擦る紅葉忌から白秋忌
冬の月ラッコは自分の石を持つ
谷さんが死んじゃった ベンチを探す三日
生きるって邪魔くさい雪は雪を追う
くちうつし 小松敦
黒揚羽青空の集まってくる
前髪を邪魔そうにして脱皮
暗闇を離さぬように草いきれ
人肌に時雨のすぐに乾くころ
小春日の窓離れたくないページ
海沿いの街冬眠の透明度
寒桜また夜の人たちが来る
石蕗の花まもなく明くる朝ふたつ
鉛筆を忘れたノートだけ朧
青葉闇くちうつしすることばかな
手紙 木村リュウジ
初雪やまつげ一本ずつ描く
話すこと話さないこと龍の玉
読みさしの岩波文庫鶴眠る
本当は知っていましたふきのとう
青き踏む証明写真撮る顔で
少しずつ慣れるあだ名やライラック
聖五月フルマラソンの女子生徒
古書店の百円ワゴンすべりひゆ
耳打ちのようだ訃報も残照も
天高しすこし長めの手紙出す
ブルー 大池桜子
友達の結婚式って朧かな
恋敵もいないのにブルー鳥雲に
口紅水仙声出ないほど不機嫌
花冷えってこころ的に冷えます
北千住商店街や蝸牛
神の留守街がどんどん不機嫌に
わたくしは喋る母は毛糸を編み続け
幸せかと聞く人嫌い石蕗の花
ジェラードに透明の匙白鳥みたい
クリスマスローズ全員片想い
蓮の風 松本千花
人形の前髪そろう霜夜かな
階下には占星術師春の雨
瘡蓋をおしゃべりにする蓮の風
薔薇の雨仲良くしなけりゃ損だ忖
追熟のバナナアボカド言葉尻
タコの不可解クラゲの自由我鬼忌かな
ピーマンの切り方恋の進め方
適当な良妻である秋刀魚焼く
蓑虫やママが言うならそうだろう
立春大吉パパがいるから怪我をする
弔う日 泉陽太郎
癇癪はクリーンエナジー木の芽和え
ひとつだけ白状すれば春の蝶
デカケルと冬のホテルの窓に書く
あくまでも外からあたためる焚火
湯豆腐の真下に湧いたゆめひとつ
初雪や三つの恋を弔う日
虫の音はたぶんわたしのむすめです
棺には死体と死んだ秋の花
黒ずんだ鮪の刺身居場所なし
火星では死体はかるいいわしぐも
核心に 黒済泰子
萍や角の取れゆく言葉たち
蝉しぐれ亡父の戦後史拾い読み
核心に触れぬ詫び状みみず鳴く
鉦叩わたしの洞を穿つごと
切り札は使いそびれて神の留守
草の花手話の夫婦に笑い皺
濁酒や出雲訛りに諭さるる
名シェフと出会い大根冥利かな
不揃いのセーター親父バンド燃ゆ
人形を葬りしあたり冬の蝶
感情線 立川真理
手毬花ペンを置く時俯きぬ
この道は帰る道なし蜻蛉つり
還りこぬ命がありぬ母郷の夏
スカートめくりあれは色なき風だった
天界は死ぬることなし風の盆
黄落の富士北斎のしかめっ面
てのひらに感情線もち卒業す
芒原より一人称の少年来
ランドセルに異空間ありチョコレート
心象に寅さんの土手あやめ咲く
【海原新人賞選考感想】
■大西健司
①木村リュウジ②松本千花③たけなか華那④三枝みずほ⑤小松敦⑥前田恵⑦泉陽太郎⑧吉田和恵⑨ダークシー美紀⑩中野佑海
〈キョウチクトウ嫌いな人の名が綺麗〉〈キャラメルの箔を剥がすや冬銀河〉の木村は海原の船出にふさわしい若々しい感性を評価したい。まだまだ荒削りなところもあるがそれもまた魅力。〈失言の多そう夏のエトピリカ〉〈蓑虫やママが言うならそうだろう〉松本は対象を捉える視点の豊かさがいい、自在だ。〈春の丘もりもり割って駝鳥くる〉〈負け組でよかったアネモネの白がいいな〉たけなかの屈託のなさ、明るさが好ましい。〈両頬のいちご約束にうなずく〉〈おかあさんじゃないとだめな日夏の空〉三枝の伸びやかさ、さらなる展開に期待したい。小松の〈冬仕度いつも誰かの交差点〉前田の〈馬の脚ごりごり洗い夏に入る〉などなどいずれも個性的な句が見られ、順位をつけるのに苦労した。ただ全体にまだまだムラがあり、好不調の波が大きい。そんな中魅力的な句を書き続けていたのが立川真理さん。ようやく中学生とのこと。これからも伸びやかに、等身大の句を見せて欲しい。
■こしのゆみこ
①望月士郎②小松敦③三枝みずほ④木村リュウジ⑤立川真理⑥たけなか華那⑦松本千花⑧山本幸風⑨高木水志⑩大池桜子
独特の孤愁に目を瞠った望月士郎の作品。目が離せない。〈射的場の人形ひとつ落ち夜汽車〉〈桐の花わたくし雨とあなたの雨〉〈背美くじら遠い隣にいて眠る〉。
繊細な叙情に心ゆさぶられた小松敦はこの一年本当に頑張った。〈星月夜始発で座るように逝く〉〈暗闇を離さぬように草いきれ〉。
何気ない風景から詩情を醸し出す三枝みずほの世界。〈吐く息のあつまるかたち冬薔薇〉〈夜桜の白さもうだれの顔でもなく〉。
負の感情が多い句群なのだけれど、それを突き抜けたり、面白がることのできる木村リュウジ。〈読みさしの岩波文庫鶴眠る〉。
立川真理のあくなき挑戦、「○○らしさ」に臆することなく、いろんな主人公になってみよう。〈芒原より一人称の少年来〉。
そして〈雲傷みやすくなった11月が降りてくる たけなか華那〉〈烏野豌豆雀野豌豆雲流る 松本千花〉〈本棚に雑然と過去青嵐 山本幸風〉〈僕はまだ火星を見てる初嵐 高木水志〉〈わたくしは喋る母は毛糸を編み続け 大池桜子〉のほか、小林ろば、増田天志、山本きよし、大西恵美子、泉陽太郎、多士済々。
■佐孝石画
①望月士郎②たけなか華那③三枝みずほ④木村リュウジ⑤泉陽太郎⑥小松敦⑦黒済泰子⑧小林ろば⑨吉田和恵⑩大池桜子
写真とはやさしい死体白日傘 望月士郎
桐の花わたくし雨とあなたの雨 〃
白雨きて街に時間の断面図 〃
射的場の人形ひとつ落ち夜汽車 〃
愁思四角ときおり月の内接す 〃
望月の圧倒的な映像力、その透明感のある幻想世界に魅せられた。海原代表作家ともいうべきその風格は、今回一位に推さざるを得ない。
茶柱が二本春のキリンです たけなか華那
雲傷みやすくなった11月が降りてくる 〃
雪が家族でした体温でした 〃
たけなかの「憑依力」ともいうべき感覚世界は、衝撃的だった。対象に自身が浸透し共鳴するその力はまさに天性の身体感覚であり、それは金子先生のいう「天人合一」や「アニミズム」の境地にすでに足を踏み入れている。
三枝みずほ〈ページ繰る指に初夏の森の匂ひ〉等の明るいエロス。木村リュウジ〈夜という大きな鏡冬蝶来〉等の自己愛の昇華。泉陽太郎〈あきらめは効率的に山滴る〉等の軽妙な諧謔性にも惹かれた。次いで小松敦、黒済泰子、小林ろば、吉田和恵、大池桜子、葛城広光、高木水志、有栖川蘭子にも注目した。
■白石司子
①望月士郎②三枝みずほ③立川真理④木村リュウジ⑤大池桜子⑥河田清峰⑦葛城広光
⑧たけなか華那⑨小林育子⑩小林ろば
日常的で軽妙な作品が多い中で、一位に挙げた望月士郎の〈忘却の日時計として案山子立つ〉〈背美くじら遠い隣にいて眠る〉〈ひとり灯して白梟に囲まれる〉、二位に挙げた三枝みずほの〈春塵をふり落としてはみな狐〉〈泉湧き出る便箋の一行目〉〈叱ってばかり金木犀の風が来る〉には、韻文としての更なる可能性を覚えた。三位には、おそらく十二歳という年齢でしかできないであろう〈芒原より一人称の少年来〉〈友達のともだちは猫ひなたぼこ〉〈ランドセルに異空間ありチョコレート〉などの句の立川真理を、四位には〈半分は薬のからだ百合活ける〉〈耳打ちのようだ訃報も残照も〉の木村リュウジを、五位に挙げた〈コスモス揺れるよビンタって初めて〉〈友達の結婚式って朧かな〉の大池桜子の口語調にもおもしろ味を感じた。六位から十位は拮抗。
今後、ダークシー美紀、小松敦、中野佑海、泉陽太郎、松本千花、綾田節子、松崎あきらなどにも期待したい。
■高木一惠
①望月士郎②たけなか華那③小松敦④三枝みずほ⑤松本千花⑥泉陽太郎⑦小林ろば⑧木村リュウジ⑨松﨑あきら⑩立川真理
〈髪洗う指にこの世の頭蓋骨/砂時計の中に二匹のアリジゴク 士郎〉〈しゃらっと妻茅花流しの継目にて/冬の月ラッコは自分の石を持つ 華那〉〈寒桜また夜の人たちが来る/眼差しの交わる匂い秋の蝶 敦〉作者それぞれの場の把握と創意に感嘆。新米同人の頃、兜太先生がお便りで「自己表現の節度」に言及されたが、今その御心が思い返される。
〈虹のほうへ少女ふっと出る旋律 みずほ〉〈蓑虫やママが言うならそうだろう 千花〉〈あきらめは効率的に山滴る 陽太郎〉〈婆バクハツ半世紀ぶりの水着 ろば〉〈青き踏む証明写真撮る顔で リュウジ〉〈ぼぉーっと生きてる最初はタンポポ あきら〉〈病欠に忠犬のごとランドセル 真理〉新鮮な詩情が頼もしい。
他候補に大池桜子、黒済泰子、中野佑海、前田恵、綾田節子、野口佐稔、上野有紀子、荻谷修、ダークシー美紀、仲村トヨ子、増田天志、山本幸風。立川弘子と中川邦雄、高木水志―老若共に想いが深い。
■武田伸一
①大池桜子②松本千花③小松敦④三枝みずほ⑤望月士郎⑥たけなか華那⑦松﨑あきら⑧小林ろば⑨立川真理⑩立川瑠璃
選考作業をしていて、まず驚いたことは、新人賞の候補の顔触れが「海程」時代とがらり変わったことである。それも、次に示す候補者の各人一句をみても分かるとおり、レベルの高さは相当のものである。「海原」に期待されるものは大きいとつくづく思わされた。
幸せかと聞く人嫌い石蕗の花 大池桜子
忘るるは慰めに似て春の雲 松本千花
心音の窪地を螢埋めつくす 小松敦
泉湧き出る便箋の一行目 三枝みずほ
悲しみが海鼠のかたちをして困る 望月士郎
長く細い尾だ母の日の霧笛 たけなか華那
迸り収斂する言葉春嵐 松﨑あきら
鰊漬けあふれる愛を食べていた 小林ろば
天界は死ぬることなし風の盆 立川真理
日本列島被災の冬よはらからよ 立川瑠璃
ほかにも大化けしそうな木村リュウジ、葛城広光、黒済泰子、武藤幹、吉田和恵、渡邉照香など多士済済、目が離せない。
■月野ぽぽな
①小松敦②三枝みずほ③たけなか華那④望月士郎⑤山本幸風⑥大池桜子⑦木村リュウジ⑧増田天志⑨泉陽太郎⑩中野佑海
小松〈眼差しの交わる匂い秋の蝶〉の詩性の充実、三枝〈泉湧き出る便箋の一行目〉の端々しい感性、たけなか〈塩飴ころがす口中に瀑布〉の発想と表現の自由さ、望月〈たんぽぽのわた吹く柔らかい自虐〉の言葉選択のセンス、山本〈抜けそこねたLINEグループしろばんば〉の現代の日常への視線、大池〈コスモス揺れるよビンタって初めて〉の発語の力強さ、木村〈牡丹雪鏡に溜まる独り言〉の孤心から溢れる詩、増田〈どこまでが青空なのか夏つばめ〉の漂流感覚、泉〈あきらめは効率的に山滴る〉の情の描き方、中野〈ジャズの香と夜桜我をたどる指〉に見る詩の開拓精神に注目。
他にも綾田節子、上野有紀子、大西恵美子、葛城広光、川嶋安起夫、立川真理、ダークシー美紀、山本きよし、松本千花始め多くの俳諧自由作家を確認し諸氏に大いに期待する。海外の森本由美子、野口思づゑにも声援を。
■遠山郁好
①たけなか華那②三枝みずほ③望月士郎④大池桜子⑤黒済泰子⑥小松敦⑦前田恵⑧泉陽太郎⑨木村リュウジ⑩葛城広光
榠樝ひろってきれいなんだよ毎日が たけなか華那
虹のほうへ少女ふっと出る旋律 三枝みずほ
悲しみが海鼠のかたちをして困る 望月士郎
コスモス揺れるよビンタって初めて 大池桜子
核心に触れぬ詫び状みみず鳴く 黒済泰子
青葉闇くちうつしすることばかな 小松敦
唐辛子嘘はぴちぴちと明るい 前田恵
棺には死体と死んだ秋の花 泉陽太郎
青き踏む証明写真撮る顔で 木村リュウジ
天の川放火のように涼しいな 葛城広光
感性の儘に多少の破綻も厭わず、何かに挑むという姿勢は新鮮で、新人賞に適うのではと考え、たけなか華那、三枝みずほ、大池桜子を選んだ。望月士郎、黒済泰子の好句をコンスタントに発表する安定感も頼もしい。この十名以外にも、川嶋安起夫、松本千花、小林ろば、有栖川蘭子、仲村トヨ子、綾田節子、日下若名に注目した。
■中村晋
①大池桜子②三枝みずほ③たけなか華那④望月士郎⑤渡邉照香⑥木村リュウジ⑦松本千花⑧泉陽太郎⑨川嶋安起夫⑩飯塚真弓
大池〈檸檬切るわかりにくいのが幸せ〉屈折のある日常を巧みな取り合わせと韻律で表現し続けた安定感。三枝〈身をたたく雨だけを雨だと思ふ〉外界と内界との微妙な違和感を積極的に言葉にした意欲の強さ。たけなか〈あれだべさ雪塊かっぽんかっぽん流れてさ〉自身の風土を積極的に取り入れ大胆に表現する新鮮さ。望月士郎〈ひとり灯して白梟に囲まれる〉独特の抒情が定型の韻律になじんできた。渡邉〈狐火やシリアの石鹸匂ふ夜〉シリアの状況への憂慮。社会的関心のやわらかい結晶化。木村〈キョウチクトウ嫌いな人の名が綺麗〉自然に使う口語の魅力。松本〈色鳥を呼ぶ合法的に逢うために〉強引さと猥雑さの底知れないパワー。泉〈きみは去りぼくは長き夜にもどる〉少し内向する繊細な抒情。若さの憂愁。川嶋〈夏薊上手に書けぬ「正義」の文字〉積極的な社会性志向。飯塚〈水揚げの修羅場をあそぶ海鼠かな〉鮮度の高い生き物感覚と言語感覚。
■宮崎斗士
①望月士郎②三枝みずほ③黒済泰子④岡村伃志子⑤小松敦⑥小林ろば⑦山本幸風⑧たけなか華那⑨木村リュウジ⑩川嶋安起夫
昨年の「海原」11月号より「後追い好句拝読」欄を担当。「海原集」を毎号くり返し精読した。一年を通しての印象……「海原集」は非常に刺激的かつ可能性に満ちたステージだということ。会友の方々の才気の迸り、俳句に対する情熱、探求心に幾度も唸らされた。記念すべき「第一回海原新人賞」。選考に当たり、作家性の豊かさ、表現の瑞々しさ、感覚の新鮮さなど、様々な観点から、あらためてじっくりと作品に触れさせていただいた。
どの本で見かけた兎だったか雪 望月士郎
両頬のいちご約束にうなずく 三枝みずほ
草の花手話の夫婦に笑い皺 黒済泰子
鳥渡る疎遠になりし人の指 岡村伃志子
黒揚羽青空の集まってくる 小松敦
古書店の主も客も雪虫ぽやっ 小林ろば
祈りつつ朽ちてゆく家夏燕 山本幸風
老シスターの笑み冬の産毛みたい たけなか華那
牡丹雪鏡に溜まる独り言 木村リュウジ
真実は深海魚の眼夏逝けり 川嶋安起夫
その他、泉陽太郎、伊藤優子、井上俊子、大池桜子、日下若名、小林育子、高木水志、立川真理、中尾よしこ、永田和子、仲村トヨ子、松﨑あきら、矢部すゞ、以上の方々に心が残っている。
『海原』No.13(2019/11/1発行)誌面より。
◆第1回 海原賞
【受賞者】
小西瞬夏
水野真由美
室田洋子
【選考経緯】
『海原』2018年9月号(創刊号)~2019年7・8月合併号(10号)に発表された同人作品を対象に、選考委員が1位から5位までの順位をつけ、選出した(旧『海程』の海程賞を引き継ぐかたちで、海程賞受賞者は対象から除外した)。
得点の配分は、1位・5点、以下4・3・2・1点とした。集計の結果、下表のとおり、小西瞬夏・水野真由美・室田洋子への支持が多く、得点も拮抗しているため、3人への授賞を決定した。
【受賞作品抄】
冬日。 小西瞬夏
せんせいのこゑ春星にまぎれさう
みづうみの青しおおかみ呼べばなほ
海原を欲る白シャツを白く干し
薬包紙より初夏の波の音
腹帯を巻けばしづかに泉鳴る
また音叉鳴るやう六月の歯痛
更衣へてまづしきからだしづもれり
素数あり一途に孑孒生まれけり
誘蛾灯その夜の淵に鍵落とし
ヒロシマの水ナガサキの水滴れる
ほうたるの夜の火薬庫の匂ふなり
花野風浅き傷より乾きゆく
菊を焚く昼のこめかみ煙るなり
白き鳥見しより耳朶に秋の風
サルトルの眼鏡どこまで芒原
白萩の白の崩るるまで待たせ
煙突が白蝶を吐く震災忌
まつさらなからだをしまふ長き夜
夢を喰ふけものや夜を着ぶくれて
冬日。ちひさき母のまた小さく
柊の花 水野真由美
納骨の日の春蘭のうすみどり
武州にはあけびの花の咲く日なり
師を送る旅の真昼のえごの花
さびしさに睡くなりけりたんぽぽ黄
流れゆく一人でありぬえごの花
山影に蜻蛉の大群兜太来る
われもまた夏霧の落とし物なり
夏月の影森行の汽笛かな
霧の旅一本の木に会ひにゆく
小鳥来て辞書引く息のやわらかく
秋蝶の飛ぶとき兄の老ゆるなり
ちひさき舟のちひさき睡り紫苑咲く
木犀の散りつくすまで師を待てり
ホルモン焼のひかり食堂かりん落つ
三角形いくつも描いて冬に入る
海に遠く柊の花の匂へりき
花柊少年の耳ちひさくて
くるぶしの寂しさ枇杷の花咲きぬ
父を呼ばねば届かぬ高さ朴の花
海にも空にも帰れぬわれら草を摘む
兎のように 室田洋子
折り紙の角のゆるんで柳の芽
春の瀞先生スープ召しあがれ
花馬酔木ひと日をすべて書き留めて
しぼみゆく夫の掌朴の花
梔子のほのと生家は灯るかな
お墓参りずっとお喋りさるすべり
マーガレット本当はわたし飛べるのよ
姉さんの全円スカート無花果食う
晩夏かな半熟卵に刃をあてて
転がって昔の音の椿の実
髪ほどくまんじゅしゃげ白まんじゅしゃげ
いなびかり兎のようにひとりきり
竜胆にきれいな約束が明日
蓮の実飛ぶもう一駅歩こうよ
冬青の実雪ノ下郵便局で投函
日付のようにヨットの並ぶ由比ヶ浜
さびしいは自由の同義語冬カモメ
立ち読みの背中あかるい寒林
冬林檎鼻がひくくて愛される
梅咲いて一緒に笑うあなたがいない
【候補作品抄】
有漏路ゆく 中内亮玄
兜太先生白梅咲いてますねここ
有漏路ゆく春雨に稚児光りつつ
麦秋の彼方へ人は火事を抱き
春光茂る公園淡き恋かな
苔寺に慈雨楚々と降る牛横切る
電線たわむ秋雨さりさりと慕情
小さな子は小さなあくび木の実降る
満開の漢の寿命冬銀河
蟹割ってみて雪明かりと思う
師を思うひとつに厚きてのひら忌
東京奇譚 日高玲
蛍籠大往生の息通る
草刈女水の韻を思慕しつつ
天上のひとに弟子入り草刈女
哀歌として犬の目はあり合歓の花
鮎焼くとネパール人の覗く庭
東京奇譚古アパートの竈猫
枯葦の間に刺さるバイオリン
春の祭典少女と少年入れ替わる
産卵の漆黒を聞く夜となり
巣箱掛けて流れはじめる足の裏
野にほどく 川田由美子
穭田のしずかな呼吸褥かな
野に母の点描のごと曼珠沙華
今日の黙身体に残る花野かな
羽ばたきは鈍色の針冬野道
日向ぼこ母居る水脈に棹を差す
まんさくの薄き縫い目を野にほどく
枕木と同じ匂いの春の鳶
うっすらと引き潮の音花蘇枋
青嵐小窓のような家族かな
ほたるぶくろ流されているふっと青
周波数 鳥山由貴子
春の風邪石灰石の貨車過る
すべて射程のなかタンポポも少年も
春が逝く白抜きのわたしのカモメ
ヒヤシンス風の少年導火線
少女期後篇つるばみの花ざかり
満天星躑躅水平器の泡動く
どこまでも荒野少年蚊帳を出て
草原に星飛ぶ夜の輪転機
少年の髪に絡まる蜥蜴の尾
烏瓜わたしと同じ周波数
母ひとり 藤田敦子
母ひとり漢の貌で毛虫焼く
哀しみは伏流水のごと青嶺
往き往きて草の冠敗戦日
新涼や一卵性の海と空
暴れ萩母は静かに手折るかな
残照の縄跳びどこでやめようか
大根炊く夫の寡黙を手で量り
声上げぬ列島鯨ひるがえる
冬凪やどこにもゆかぬ亡父といる
花曇母から母が消えてゆく
エナメル質 横地かをる
鳥帰るエナメル質の声出して
あれから七年三春桜に会いに行く
野遊びの人ももいろの口ひらく
娘家族迎え山法師の気分
多数決って理不尽なこと若夏
人間をみておる出目金の退屈
雨の日のえのころ草は孤独らし
昨日よりあおき感情小鳥来る
綿虫や息の根ふれし京都御所
フルートの少女つめたき耳ふたつ
【海原賞選考感想】
■安西篤
①日高玲②小西瞬夏③室田洋子④伊藤巌⑤中内亮玄
昨年の候補五名のうち、受賞を逸した二名をそのままの順で一、二位に推し、三位以下はまったく新しい視点から見直した。上位二名にゆるぎのない実力を感じたからだ。
一位日高は、社会性から懐かしい市井感に及ぶ幅広い領域を渉猟し、独自の句境を開拓しつつある。言語感覚に厚みがあってスケールも大きい。〈東京奇譚古アパートの竈猫〉。二位小西の持続力のある感性は依然ダイナミック、時に危機意識をともなうほどの物語性への仕掛けをする。〈ほうたるの夜の火薬庫の匂ふなり〉。三位室田は、ナイーブで柔軟な言語感覚と自在な日常感の発掘によって、しばしば句会の人気を浚う。〈さびしいは自由の同義語冬カモメ〉。四位伊藤は、もともと風土に根ざす叙情派の体質ながら、最近は時事的な題材にも積極的に仕掛けて句境をひろげつつある。〈人の世に優生保護法猫の恋〉。五位中内は、やや荒削りながらエネルギッシュにぶっつけてくる情感に若々しい魅力がある。〈電線たわむ秋雨さりさりと慕情〉。未完の大器。
他に注目したのは、有村王志、伊藤雅彦、河西志帆、北上正枝、黒岡洋子、清水茉紀、関田誓炎、竹田昭江等。誰が出てきてもおかしくない。
■石川青狼
①水野真由美②室田洋子③小西瞬夏④日高玲⑤有村王志
第一回の海原賞選考に重責を感じながら、海程時代に培われた実力と更なる可能性を秘めた作家への期待を込めて選考させて頂いた。
一位に推した水野は〈霧の旅一本の木に会ひにゆく〉〈蜻蛉追ふかたちとなりて僧ひとり〉等の沈潜する漂泊感を一年通して書き上げた。二位の室田の〈晩夏かな半熟卵に刃をあてて〉〈立ち読みの背中あかるい寒林〉の軽妙な語り口の中に切れ味鋭い感性を内包。三位の小西は注目の作家で〈子宮かろし春昼の橋渡り終へ〉〈あたらしき風くれば鳴る蝶の骨〉の研ぎ澄まされた感性を推す。四位の日高は〈天上のひとに弟子入り草刈女〉〈東京奇譚古アパートの竈猫〉に見る硬質な作風に魅力を感じた。五位の有村王志は〈蕨一束ほどの帰心で立っている〉〈吊し柿疎遠のままの兄逝けり〉の風土に沁み込んだ詩情を真摯に表現する姿勢を推す。選考外としたが北海道勢を牽引するベテラン作家十河宣洋をはじめ、北條貢司、佐々木宏、奥野ちあき、笹岡素子、伊藤歩の活躍を頼もしく思い、大いに期待したい。
■武田伸一
①小西瞬夏②室田洋子③中内亮玄④日高玲⑤船越みよ
《風の衆》が二名、《帆の衆》が三名。これからの更なる発展を期待しての選考となった。小西瞬夏は、〈春の雨耳朶透けるやうに夜〉〈まつさらなからだをしまふ長き夜〉など、繊細な感覚を駆使しつつ、独りよがりに陥ることなく、意欲的に独自の世界を展開してみせた。室田洋子は〈さびしいは自由の同義語冬カモメ〉〈台風の匂いがすこし恋人よ〉など、心理のアヤを軽やかに形象化して見せる。中内亮玄は〈蟹割ってみて雪明かりと思う〉〈イオン右手に春三日月の騒々し〉など、異空間への鋭い切り込みにて、中内ワールドを確立、次への期待が大きい。日高玲は、〈芭蕉七部集に書き込みのあり雛の家〉〈東京奇譚古アパートの竈猫〉など対象の分厚い切り取りに力があり、読み手を圧倒した。船越みよは、〈生いちじくの緩い食感愛に飢え〉〈原発禍蜜吸う蜂の無垢な刻〉など、生活実感を詩に昇華する術を身につけ、心強い。
河西志帆、黒岡洋子、水野真由美、横山隆。新進の石川まゆみ、伊藤巌、伊藤幸、大池美木、楠井収、笹岡素子、すずき穂波、鳥山由貴子、三浦静佳、三好つや子などにも注目。
■舘岡誠二
①小西瞬夏②中内亮玄③宇川啓子④河西志帆⑤船越みよ
第一回海原賞。優秀な作家が多いことを再確認でき、素晴らしいと思った。
自然風土と時代性、人生に深くかかわり妙に新鮮でサッパリして迫ってくる作品を心がけて選んだ。
ほうたるの夜の火薬庫の匂ふなり 小西瞬夏
花野風浅き傷より乾きゆく 〃
蟹割ってみて雪明かりと思う 中内亮玄
満開の漢の寿命冬銀河 〃
春三ヵ月どこか危うい国に住み 宇川啓子
あけびの実破裂しそうな十五歳 〃
五輪より福島大事いのこずち 河西志帆
逝きて戻らぬとりあえず冷奴 〃
原発禍蜜吸う蜂の無垢な刻 船越みよ
戦のにおいサンタ淋しき眉と髭 〃
皆さん一層頑張ってください。
■田中亜美
①藤田敦子②鱸久子③室田洋子④齊藤しじみ⑤佐藤詠子
藤田敦子の安定した定型感覚に共鳴。〈落花累々かりそめの夜をひた歩く〉〈往き往きて草の冠敗戦日〉〈災害の夏に生まれし子のしづか〉〈稜線をすべてはみ出し秋の行く〉〈花曇母から母が消えてゆく〉。内容がすっと頭に入り、じんわりと思いが広がる。
鱸久子のモノに即した表現と歯切れのよい韻律。〈囁いてふわふわ笑う草の花〉〈「塩小賣所」の琺瑯看板秋相模〉〈リリヤン編む秋しんしん蚕の眠り深深〉。言葉の勢いが若々しい。
室田洋子の口語表現に注目。言葉の運動神経が抜群の作者と思う。〈冬青の実雪ノ下郵便局で投函〉〈竜胆にきれいな約束が明日〉〈鳥渡るサーフボードに小さくK〉。
齊藤しじみのバランス感覚のとれた知性の楽しさ。〈春愁や赤福の餡均したし〉〈背後より手綱のごときランドセル〉〈老記者の一人語りや五月三日〉。
佐藤詠子の甘美だが抑制の効いた表現に惹かれた。〈色鳥や風の淋しさ持ち帰る〉〈誰よりも会いたい人が秋黴雨〉〈雨意すべて消えてゆくかな花万朶〉。
■野﨑憲子
①水野真由美②中内亮玄③竹本仰④伊藤幸⑤小西瞬夏
山影に蜻蛉の大群兜太来る 真由美
兜太先生白梅咲いてますねここ 亮玄
ひとはひとの匂いを漂流春岬 仰
蟻ガキテオロオロアルク賢治の碑 幸
子宮かろし春昼の橋渡り終へ 瞬夏
第一回「海原」賞選考に関わらせていただき光栄です。迷いに迷った挙句、敬愛する諸先輩は別格とし、私(昭和二十八年生まれ)より若い方々に的を絞り順位を付けさせていただきました。一位の水野さんは、丸ごと縄文を思わせる自然体の作品と文章に圧倒的迫力あり。二位の中内さんは、進化を続けるパワフルな行動力と情感たっぷりの作品に注目。竹本さんは、豊饒な沃野を思わせる鑑賞とエッジの効いた感性豊かな作品が魅力。伊藤さんは、鋭い観察眼と作品の完成度の高さが抜群。小西さんは、今年は少し力を溜めている感。新たな飛躍がますます楽しみです。
他に、室田洋子さん、菫振華さん、桂凜火さん、新野祐子さん、藤田敦子さん等、さすがに「海原」。気になる作家、数多です。
■藤野武
①川田由美子②丹生千賀③鳥山由貴子④黍野恵⑤木下ようこ
川田由美子の繊細な感覚の情感あふれる句に、成熟を見る。〈穭田のしずかな呼吸褥かな〉〈まんさくの薄き縫い目を野にほどく〉。じつ 丹生千賀の「実」に根差した俳句世界の豊饒。〈紫陽花の孵化とも違うあふれよう〉〈毛玉なども繁るや言葉にはなれず〉。鳥山由貴子は純で透明な、(詩的な映像の)、叙情の魅力。〈春が逝く白抜きのわたしのカモメ〉〈草原に星飛ぶ夜の輪転機〉。黍野恵のエスプリの利いた、個性的な感受と切り口の洗練。〈瑠璃立羽夏の記憶をなかおもて〉〈実柘榴や母の凄みに息をつめ〉。木下ようこは、ありふれた日常から「詩」を紡ぎ出す。その力量。〈八十八夜のかるいブリキの音だ父〉〈冬鳥が落葉に足を突つ込む泣く〉。
このほかに、前述五名と甲乙つけがたく小西瞬夏。さらに、河西志帆、竹田昭江、清水茉紀、室田洋子、中塚紀代子、黒岡洋子、藤原美恵子、マブソン青眼に注目。六本木いつき、ナカムラ薫の個性にも魅かれた。
■堀之内長一
①室田洋子②中内亮玄③日高玲④水野真由美⑤小西瞬夏
室田洋子の軽やかだが実のある俳句は貴重である。本人はあまり自覚していないように見えるけれども。夫のいなくなった時空間に漂う感情をしみじみと詠んだ一年だった。〈いなびかり兎のようにひとりきり〉。中内亮玄は独自の映像を築き上げつつある。もともと叙情の作家ではあったのだが、そこに自分なりの覚悟というか意志を加えつつある。時に甘さがあるのも愛嬌か。〈苔寺に慈雨楚々と降る牛横切る〉。本格派の日高玲も順調に自分の世界を自由に飛び回っている。俳味を隠し味にして。〈鮎焼くとネパール人の覗く庭〉。これまで受賞していなかったというのも水野真由美らしい不可思議。その詩質は本物である。〈父を呼ばねば届かぬ高さ朴の花〉。揺れ動くこと、そのことが魅力の小西瞬夏。〈煙突が白蝶を吐く震災忌〉。
■前川弘明
①小西瞬夏②横地かをる③水野真由美④室田洋子⑤川田由美子
小西瞬夏は、情感を伴いながら安定した作品であった。句を詠むときの小西の心中にひとすじの芯のようなものを持っているように感じた。大切にして作句に励んでほしい。
腹帯を巻けばしづかに泉鳴る 小西瞬夏
黴の花ちらかつてゐる嘘まこと 〃
煙突が白蝶を吐く震災忌 〃
横地かをるは、ゆるやかな情感の作品。
水底をともしていたり時鳥 横地かをる
フルートの少女つめたき耳ふたつ 〃
水野真由美は、率直な抒情の句。
霧の旅一本の木に会ひにゆく 水野真由美
くるぶしの寂しさ枇杷の花咲きぬ 〃
いなびかり兎のようにひとりきり 室田洋子
青葉木菟胸にストロボの点滅 川田由美子
■松本勇二
①水野真由美②小池弘子③狩野康子④藤原美恵子⑤松本豪
一位の水野真由美はその風貌とは全く遠い静かな抒情に吸引力があった。そして何年もぶれることがない。この抒情性は海原作家の中でも際立っている。〈山茱萸に雲に手をあて逝きしかな〉〈蜻蛉追ふかたちとなりて僧ひとり〉。小池弘子は風土に立脚しその風土を明るく書こうとする姿勢を称えたい。暗くて重い風土俳句は巷に溢れている。〈ふわっと歩いてざざーっと付いて草虱〉〈雨脚の速さ刈田は古書の匂い〉。狩野康子は感覚を優先して書いた句に切れ味があった。〈立春や羽化には邪魔な乳房持ち〉〈干柿の中の明るさ美容室〉。藤原美恵子の句は機知に富み決して一定の着地を好まない。〈二股のだいこひんやり三回忌〉〈出てこない歌に似ている烏瓜〉。松本豪は諧謔性と向日性が持ち味で一年間安定していた。〈蚊遣豚桂馬にこりと裏返る〉〈仔猫に鈴俺に大腸ポリープかな〉。
後、木下ようこの自在な発語感、川田由美子の高潔な詩性、山内崇弘の俳諧自由、奥山和子の日常からの浮上、近藤亜沙美の虚構、らふ亜沙弥の直情、金並れい子の構成力、室田洋子の自然体などに注目した。
分かって貰えないだろうと引っ込めた句にこそ自分がいる、どんな句でも他人は案外分かってくれる。
■山中葛子
①室田洋子②小西瞬夏③水野真由美④鳥山由貴子⑤黒岡洋子
第一回の記念すべき「海原賞」の選考に当たり、俳諧自由をめざす気力あふれる作家の台頭が実感される、「海原」への期待が増すなかで、ことに充実感のゆたかさに注目した。
一位の室田洋子は、〈「さみしい」の使用を禁ず吾亦紅〉〈さびしいは自由の同義語冬カモメ〉〈春の瀞先生スープ召しあがれ〉の、日常の気分を”まあるくとばす”比喩の妙。いよいよ自由で個性的な作品を示した。二位の小西瞬夏は、〈子宮かろし春昼の橋渡り終へ〉〈ほうたるの夜の火薬庫の匂ふなり〉の、生理感覚ともいうべき特有の心理を、美意識に高められた独自さ。三位の水野真由美は、〈父を呼ばねば届かぬ高さ朴の花〉〈流れゆく一人でありぬえごの花〉など、韻律の自在さをみせた抒情の見事さ。四位の鳥山由貴子は、〈蠅取リボンアインシュタイン舌を出す〉など、独自な感性で描き出した映像力のゆたかさは期待そのもの。五位の黒岡洋子は、
〈私雨薄葉紙の香よ紀音夫忌よ〉など、多彩な表現領域をみごとに描き出した。なお、中内亮玄の即興の臨場感。片岡秀樹の社会を投影した鮮度。狩野康子の詩力のかがやき。また日高玲、楠井収、並木邑人、有村王志など。
■若森京子
①小西瞬夏②水野真由美③日高玲④三世川浩司⑤横地かをる
子宮かろし春昼の橋渡り終へ 瞬夏
まつさらなからだをしまふ長き夜 〃
山茉萸の黄を反戦の水脈とせり 真由美
流れゆく一人でありぬえごの花 〃
東京奇譚古アパートの竈猫 玲
小鳥来て赤ん坊の表情筋 〃
「海原」になっての一年間、三人各々の特性を活かしモチベーションの持続に大差は無かった。〈蕪つやつやザビエルのことなど〉〈カワセミきて三角公園がびしょぬれ〉の三世川は新しい感覚のダークホース。〈綿虫や息の根ふれし京都御所〉〈白日の鵙の気迫を我にも欲し〉俳句の本質からずれることのない作風の横地。五位には入らなかったが、〈春の瀞先生スープ召しあがれ〉の室田洋子。〈納棺師動かざるものに春の虹〉の赤崎ゆういち。中内亮玄、奥山和子、山本掌、桂凜火、平田薫、三好つや子、仁田脇一石、竹本仰、三浦静佳と注目。紙面には書けないが沢山の有望作家がひしめいている。第一回なので緊張感をもって選をした。兜太師の遺志を継ぐ「海原」の未来は明るい。
自らを耕し深めたもの 武藤鉦二
句集『天地』は、著者が俳句を始めてから一〇年の三二〇句である。句作りを始めてすぐ「海程集」で金子兜太主宰の選を受け、たちまち新人賞候補に名を連ね、二〇一六年同人に推挙されている。嶺岸は「もし俳句に出会わなかったら、どんな一〇年になっていたか」「俳句の魅力は想像以上でした」と言う。
真っ直ぐは疎まるる性韮の花
実は根がはにかみ屋です菠薐草
決め台詞持たずに生きて心太
中村孝史の序文によれば、嶺岸は「僕は理屈っぽい男なんで感性を磨くために俳句を始めることにした」と自己紹介したという。真っ直ぐで正義感強くやや理屈っぽく、はにかみ屋で、すかっとした啖呵など吐けなかった嶺岸が、次第に視野を広げ、隠し持っていた感性を伸び伸びと生かしている。それぞれ「韮の花」「葱坊主」「菠薐草」「心太」の配合に、それが表れているではないか。
宮城に住む嶺岸は「俳句を始めて一〇年の中で最大の出来事は、あの東日本大震災と福島の原発事故だった」と言い、何とか句に詠もうともがき続け、特に「原発事故と人々の暮らしへのこだわり」を持ち続けている。
津波あと錆びし鉄路に鼓草
手付かずの廃炉横目にあめんぼう
萬の向日葵被曝の大地掴み立つ
大津波に呑み込まれて不通のままの線路にけなげなまでのタンポポの黄色が鮮烈だ。五〇年・一〇〇年掛かって処理できるのかも不明な壊れた原子炉、被曝のため全村避難して無人と化した大地に踏ん張っている無数の大向日葵。
避難児の空席ひとつ冬日差す
高校教師だった彼は、教室の空席ひとつに顔を曇らせる。大震災・津波により避難した生徒の席なのだ。私も中学教師だったので、被災ではなくてもその日の空席が気になって落ち込んだもの。何日ぶりかの冬の日差しのなか、ぽつんと空席のあるつらさ。
疎まれてタンク千基の春の水
メルトダウンした原発からの汚染水のタンクが、日々増えていく。この汚染水は処理できないまま、どこにも持って行けないまま、増えていく。それさえも春の水であることの辛さ悲しさ、そして怒り。さらに、被爆地の汚染土も、真っ黒い袋に入れて各地に積み上げられたままなのだ。どこにも持って行けず処理できない汚染水のタンクと汚染土の黒い袋が積み上げられているフクシマの現実がここに描かれる。
教職を退いたあと、彼は畑仕事に精を出している。「たんぽぽや端農身の丈に合う」と作り、「端農」として土を耕す。
大根抜きし洞にいのちの温みかな
理に傾きがちな面があると自覚していた著者が、土に根ざし作物を育て始めたことは、彼の感性を掘り起こす大きなきっかけになっているようだ。畝を盛り上げ、種を蒔いた時から日々丹精込めて育てた太く立派な大根の収穫の喜びを体感する。立派な大根を抜いた後の畝の黒土に大きく空いた穴・つまり洞に、命の温みを感じた嶺岸の表情が見えてうれしい。「~洞にいのちの温みかな」の実感のすごさに目を見張るばかりだ。
大白菜尻の重さを抱き穫る
同様に、大きく育った白菜を、全身で女性を抱くように愛しみながら収穫する。
へぼ胡瓜健全という曲がり方
曲がれるを誇りに峡の地大根
飽食の現代は、真っ直ぐに育てた胡瓜でないと売り物にならない。曲がった胡瓜はへぼ胡瓜として処理されてしまうが、胡瓜に罪はない。自由に健全に育って曲がっただけなのだ。地大根も、大地の様相によって曲がっただけなのだから、威張って当然なのだ。農作物への嶺岸の愛が強く表れている。
青空へ大地うっちゃる大根引
自ら農家の端くれと言いつつも、大根をうっちゃるのではなく、大地をうっちゃるほどになっているのだから。
武器持たぬものの尊厳冬菜畑
「兜太主宰の選の無い『海原』は都会的なセンスの句が主流になって、土臭い句は流行らなくなるぞ」と言い切った人もいて、その通りかも知れぬ。が、それはどうでもいい。嶺岸は宮城の地に、武藤は秋田の土にこだわっていくばかりだ。
不易とは母の猫背の草むしり
父の背は最初の他人蛇の衣
働く母の姿が目に焼き付いていて永遠に変わらない。また、どうにも敵わない男としての父の姿に嫉妬すら覚える息子のまなざしがいい。
歪むからこころなんだよしゃぼん玉
すててこの捨てがたきこと蛇の衣
遁走に処世の快感耳袋
自分を「理屈っぽい男」と言っていた彼のこの柔らかさはどうだ。また、
春一番パソコンを猫踏んじゃった
逃げ水を追う猫放哉かもしれぬ
など、遊び心を持ち始めた余裕ある句作りもうれしい。素材も対象も無限に拓いていく可能性が見えてくるのだ。
亀鳴くや大器晩成にして余生
余生にも種火はあるさ茄子の花
これからへの意気が頼もしい。ぜひ余生の中の種火を基にして大器晩成を目指してほしいものだ。
そのほか、触れたかった句。
廃校の夜空はまろし盆踊
藁蒲団少し角ある温みかな
冬の駅みな隠し持つ尾骶骨
他人救う嘘もあります心太
子連れママみんな素っぴん青蛙
終わりに、嶺岸さとしの兜太先生追悼の一句をあげおく。
兜太逝く春星天に収まらず
(文中敬称省略)
◆第一回海原金子兜太賞 受賞作品
『海原』No.12(2019/10/1発行)誌面より。
【本賞】
藁塚 すずき穂波
更衣風の力を少し借り
薄暑光アジアの長い痛みかな
青梅雨に洗はれみんな過去形に
夕蛍ぽっと来てゐる初老かな
ただただ半夏雨直葬の無韻詩
流蛍やヘーゲルに逢ふ一人旅
頭の中は落書きだらけ浮人形
老獪ぶって唄ふブルース蛇の衣
晒井に欠け茶碗大正にデモクラシー
咲くやこのにんげん臭いビヤホール
ダルビッシュ・有の鼻すぢ青岬
夏潮の運河を上る本屋大賞
ダリアだりあ名字の遊離してる貌
熱唱の一人カラオケ日雷
馬洗ふ夕の静けさ父性とは
冷蔵庫人間みたいに込み入って
孑孑や縞馬も群れたがります
青林檎噛む音のして肉離れ
行々子堅田の雨はやはらかい
てのひらにいのちの仔細草の花
十三夜素性を明かしさうになる
水澄んで純文學は兵
秋蝶の軌道修正ふたごころ
退路といふ活路ですなぁ竹の春
太陽の塔の両翼秋の天
砂利踏んで無風地帯の菊花展
行く秋のからだに蔵ふ山水図
藁塚に夕ぐれ主婦に自鳴琴
園丁に落葉籠ていねいな生き方
柿日和ヴェトナム人に伝はりぬ
【奨励賞】
むかししかし 望月士郎
如月の力を入れてそっと持つ
朧夜のやがてやさしい鰓呼吸
散る花にかさなる字幕くちうつし
教室に蝶きて一頭ですと言う
ガラス器に根の国みてる春夕べ
水中花ナースに髪を洗われて
「手術中」赤く点灯して金魚
病棟に白い汀が潮まねき
今は二日後からすうりのはなひらく
パリー祭とても冷たい肉売場
つぎの世へ魂のせてこぐ貸ボート
うす塩の空蝉カウチポテト族
昼ねざめ蛇はどこから下半身
白靴来る一分の一の地図の上
八月の乳母車の中瓜二つ
炎天の橋渡りゆくかげかたち
千羽鶴はらわたのよう垂れ晩夏
劇場は背中ばかりや夏の果
桃は桃に触れて間にある鏡
秋天に鱗のたくさんある教会
ほろほろ歩いて踝はひょんの笛
黙読の夜の林檎を盗みにゆく
真夜中の末梢神経まんじゅしゃげ
町過ぎて象牙曲がって銀漢へ
なんとなく月に謝りたいベンチ
凍蝶にくっきり青い絵空事
死角より綿虫あふれでてこの世
手袋の牛の内側へと入る
かんぜおん1÷3のよう飛雪
むかししかしみんな抱いてる白兎
【特別賞】
褌 植田郁一
褌のままで構わん客も喜ぶ
いくら何でも褌ずれていますと妻
客来るからと新らの褌に替えており
語気荒ければ褌静かなり突っ張る
色紙代りに墨痕太々褌に
褌快適熊谷上之上高地
鮫来ない日は庭中に褌干す
褌乾く蝶は蝶呼びもつれ合う
褌ひらひら秩父音頭の裾ひらひら
殺られるところ褌振って帰還せり
褌一枚形見に貰い損ねた悔い
褌二枚自分で洗ういがらっぽい
褌三枚塩辛トンボ来てはためく
褌四枚端しで手を拭く顔も拭く
褌五枚試着してまでは買わない
褌六枚洗っている間に風邪を引く
褌七枚頂くこと贈られることもなく
褌八枚穿くにも脱ぐにも煩わさず
褌九枚平和の証し白地に白
褌十枚良きものを現代に生かす貫く
褌で現われない日は兜太の留守
絹かキャラコか木綿褌よく馴染む
肩で切ってるんぢゃない褌で風切る
溲瓶褌忘れることなくよく眠る
褌を固めに締めて朝の立禅
緩褌気付かれそうで見透かされず
褌乾く犬猫ニコニコ見上げて通る
夜干し褌狼が嗅ぐ蛍が嗅ぐ
兜太死なない褌姿もう居ない
兜太焼かれ骨と褌の灰残る
海原三賞の授賞者が、次のとおり決定しました。授賞式は、10月12日「海原全国大会in高松&小豆島」の総会にて行います(詳細の発表=「海原金子兜太賞」は10月号、「海原賞」「海原新人賞」は11月号を予定)。
◆第一回海原金子兜太賞
【本賞】すずき穂波作品「藁塚」(30句)
【奨励賞】望月士郎作品「むかししかし」(30句)
【特別賞】植田郁一作品「褌」(30句)
◆第一回海原賞
小西瞬夏、水野真由美、室田洋子
◆第一回海原新人賞
三枝みずほ、望月士郎
たんぽぽや端農身の丈に合う
「この「端農」はさとしさんの造語かも知れないが、農家の端くれだと、ご自分のことを言っている。だけど、彼から貰った白菜はでかくて固くて立派だった。この「端農」の句に佳い句が沢山有る」(中村孝史「序」より)
■発行=文學の森 定価=二〇九五円(税別)
金子兜太生誕100年/映画上映会のご案内
「海原」共催の映画上映イベントを開催します。
上映の後に最後の句集『百年』を読むセッションがあります。
海原会員にかかわらず、どなたでもご参加できます。
皆様お誘いあわせの上ふるってご参加ください。
金子兜太 最後の言葉、最後の句集
映画『天地悠々』の上映と句集『百年』を読む
日時:2019/9/28(土)
開場12:00/開演12:30/終演16:00
会場:文京シビックセンター 小ホール
東京都文京区春日1‐16‐21
https://goo.gl/maps/ofbBHpohFSrb887b8
内容: 第一部 映画『天地悠々 兜太・俳句の一本道』上映
第二部 最後の言葉について 河邑厚徳監督
第三部 最後の句集『百年』を読む
安西篤代表ほか海原同人多数
*句集『百年』は9月上旬、朔出版より刊行予定
入場料:当日券¥2,000/一般前売券¥1,800(ぴあ、電話予約)
主催:ピクチャーズネットワーク(株)/共催:海原/後援:現代俳句協会
問合せ・電話予約:ピクチャーズネットワーク(株)
03-5215-2488 inf★tota-tenchiyuyu(★→@)
以上
申し込み期限が9月2日(月)と迫っています!
★費用や参加申込方法など詳細は「海原」誌面をご覧ください。
大「海原」を渡って四国高松へ! 放哉の小豆島へ! 3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭の期間中で、いつにも増して瀬戸内海は見所満載です。海原最初の大会、奮ってご参加ください。ともに俳句をつくり、語り合いましょう。
とき:
2019年10月12日㈯午後1時~10月14日㈪正午まで
ところ:
Ⓐ全国大会
〈会場〉サンポートホール高松第2小ホール(ホール棟5階)
高松市サンポート2番1号〔JR高松駅出入り口を北(左折)へ徒歩3分〕
〈12日の宿泊〉HOTEL「花樹海」
〒760―0004 高松市西宝町3丁目5番10号(☎087―861―5580)
Ⓑ有志吟行国民宿舎「小豆島」
〒761―4301 香川県小豆郡小豆島町池田1500―4(☎0879―75―1115)
日程:
Ⓐ全国大会
10月12日㈯12:00 受付開始(サンポートホール高松)
13:00 海原会総会/海原各賞の表彰
14:00 第一次句会(事前投句/講評ほか)
16:30 ホテル花樹海へ移動
17:30 第二次句会投句締切(1句)
18:30 夕食・懇親会
10月13日㈰7:00 朝食(選句)
8:00 ホテル花樹海よりサンポートホール高松へ移動
9:00 第二次句会
11:30 全国大会終了/昼食(弁当)/解散
Ⓑ有志吟行
11:45 フェリーにて小豆島へ出発
(乗船時間は約1時間。島内吟行)
18:00 夕食
翌日の全体句会投句締切
(出句数は当日発表)
19:00 グループ別小句会(予定)
10月14日㈪
7:00 朝食
9:00 第三次句会
(互選・合評・表彰など)
12:00 有志吟行終了/昼食/解散
★費用や参加申込方法など詳細は「海原」誌面をご覧ください。
第1回「海原金子兜太賞」が決定しました
2019年7月13日(土)、第1回「海原金子兜太賞」の選考会が開催され、応募66作品の中から、次のとおり受賞者が決定いたしました。おめでとうございます。
【海原金子兜太賞】
すずき穂波(広島) 作品「藁塚」(30句)
【海原金子兜太賞 奨励賞】
望月士郎(埼玉) 作品「むかししかし」(30句)
【海原金子兜太賞 特別賞】
植田郁一(東京) 作品「褌」(30句)
選考委員:安西 篤/田中亜美/堀之内長一/宮崎斗士/柳生正名/山中葛子
(以上6名 五十音順)
表彰式は10月12日(土)、「海原」全国大会(高松)で行います。
受賞作品と選考過程は、「海原」10月号に発表予定です。
金子先生の生前の音声がラジオで放送されます。
◇放送番組:「カルチャーラジオ~NHKラジオアーカイブス~」
声でつづる昭和人物史 金子兜太
(全2回)
◇放送日:NHKラジオ第2放送
午後8時30分~午後9時
・第1回8月19日(月)
・第2回8月26日(月)
「文化講演会 わが俳句人生」(1998年3月15日)
◇放送時間:各回、10分程度
2019年初公開以降3回にわたる東京での上映会は終りましたが、各地での上映会開催が予定されています。
2019/8/17(土)明治大学駿河台校舎グローバルフロント棟1階グローバルホール
2019/9/21(土)熊谷市立文化センター文化会館ホール
2019/9/23(月・祝)皆野町
2019/9/25(水)文京シビックセンター小ホール(予定)
2019/10/8(火)川崎市・麻生市民館大会議室
2019/10/30(水)長野市芸術館リサイタルホール
2019/10/31(木)松本市中央公民館ホール
各地で自主的な上映会を開催したい場合は、下記にご相談ください。
◇ピクチャーズネットワーク(株)
電話:03-5215-2488
金子先生が朝日俳壇の選句で毎週出掛けていた朝日新聞でのランチが紹介されます。亡くなった方々のランチを紹介する特別番組で、先生が好きだった当時の弁当が再現されます。
◇番組名
NHK総合テレビ「サラメシ」
◇放送日
2019年6月25日(火)午後7時30分~
〈再放送〉
6月27日(木)午後12時20分
6月30日(日)午前8時25分
公開シンポジウム「兜太俳句の晩年」
世界最短詩形を愛し、平和を願い、生涯現役で現代俳句を牽引した金子兜太。
その俳句から受け取るものは大きい。『日常』以後、10 年間を記録した最後の句集『百年』の刊行に先立ち、豪快かつ繊細に生きた兜太最晩年の俳句を読み解きます。
■ パネリスト
宇多喜代子 現代俳句協会特別顧問 「草樹」会員代表
高野ムツオ 「小熊座」主宰
田中亜美 「海原」同人
神野紗希 現代俳句協会青年部長
■ 司会
宮崎斗士 「海原」副編集人
【日 時】7月6日(土) 14:00~16:00 (開場13:30)
【会 場】ゆいの森あらかわ 1階ゆいの森ホール
〒116-0002 東京都荒川区荒川2-50-1 Tel:03-3891-4349
【定員】120名(先着順)参加費1000円(荒川区民・大学生以下は無料)。定員となり次第、締め切らせていただきます。
【申込方法】要申込。
事前に下記まで電話・ファックスまたはメールにて、
①お名前 ②ご住所 ③電話番号 を明記の上お申込みください。
【申込先】朔出版 電話・ファックス: 03-5926-4386
E-mail:info★saku-pub.com(★→@)
問い合わせ先: 090-6016-8530 (鈴木)
主催︓金子兜太句集『百年』刊行委員会・朔出版 後援︓荒川区・現代俳句協会
※当初7/6開催予定であった「海原 東京例会」は7/7(日)にずらして開催します。
〈日中対訳句集〉
『聊楽』RYOURAKU 董振華句集
春暁の火車洛陽を響かせり
「董振華の作品は土地土地の風物を題材として取り入れ、そこで感応し思惟したことを書き込んでゆく。若い感性は、活気とともに多感。旅愁にとらわれることも多く、それらを逆らわず表現している」(金子兜太「序に代えて」より)
■発行=ふらんす堂 定価=二七○○円(税別)
大「海原」を渡って四国高松へ! 放哉の小豆島へ! 3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭の期間中で、いつにも増して瀬戸内海は見所満載です。海原最初の大会、奮ってご参加ください。ともに俳句をつくり、語り合いましょう。
とき:
2019年10月12日㈯午後1時~10月14日㈪正午まで
ところ:
Ⓐ全国大会
〈会場〉サンポートホール高松第2小ホール(ホール棟5階)
高松市サンポート2番1号〔JR高松駅出入り口を北(左折)へ徒歩3分〕
〈12日の宿泊〉HOTEL「花樹海」
〒760―0004 高松市西宝町3丁目5番10号(☎087―861―5580)
Ⓑ有志吟行国民宿舎「小豆島」
〒761―4301 香川県小豆郡小豆島町池田1500―4(☎0879―75―1115)
日程:
Ⓐ全国大会
10月12日㈯12:00 受付開始(サンポートホール高松)
13:00 海原会総会/海原各賞の表彰
14:00 第一次句会(事前投句/講評ほか)
16:30 ホテル花樹海へ移動
17:30 第二次句会投句締切(1句)
18:30 夕食・懇親会
10月13日㈰7:00 朝食(選句)
8:00 ホテル花樹海よりサンポートホール高松へ移動
9:00 第二次句会
11:30 全国大会終了/昼食(弁当)/解散
Ⓑ有志吟行
11:45 フェリーにて小豆島へ出発
(乗船時間は約1時間。島内吟行)
18:00 夕食
翌日の全体句会投句締切
(出句数は当日発表)
19:00 グループ別小句会(予定)
10月14日㈪
7:00 朝食
9:00 第三次句会
(互選・合評・表彰など)
12:00 有志吟行終了/昼食/解散
★費用や参加申込方法など詳細は「海原」誌面をご覧ください。
金子兜太戦後俳句日記(第一巻 一九五七年~一九七六年)
が白水社より出版されています。
海原衆で購入希望者は海原編集部に一声かけてください。
amazonでも買えます。
以下、白水社ウェブサイトより転記
戦後俳壇の第一人者が61年にわたり書き綴った日記を刊行。赤裸々に描かれる句作の舞台裏。知的野性と繊細な感性が交差する瞬間。
金子兜太戦後俳句日記(第一巻 一九五七年~一九七六年)
著者:金子 兜太
出版年月日:2019/02/20
ISBN:9784560096826
判型・ページ数:A5・450ページ
定価:本体9,000円+税
内容説明:
61年間書き綴られた戦後俳壇の超一級資料
知的野性と繊細な感性が交差する句作の背景
戦後俳壇の第一人者が、61年にわたり書き綴った日記をついに刊行。赤裸々に描かれる句作の舞台裏。知的野性と繊細な感性が交差する瞬間。(全三巻)
俳壇の至宝ともいえる金子兜太は、1957年(昭和32年)1月1日から亡くなる前年の2017年(平成29年)7月3日まで、ほぼ毎日日記をつけていた。年齢でいえば37歳元日から97歳盛夏まで、61年7か月の長きにわたる。
98年の生涯を閉じて1年、ついにその日記が公開されることになった。俳句関連中心に全三巻。第一巻では、前衛俳句の旗手として台頭してきた金子兜太が、第一句集「少年」で現代俳句協会賞受賞後、「海程」の創刊に携わり、俳句造型論を展開、自身の創作方法を理論化した壮年期、37歳から56歳までの20年間が収録される。日本銀行行員としては、神戸支店、長崎支店、東京本店と定年まで勤め上げた時代である。
そこには、伝統にとらわれない新しい句作への志や苦悩、知的野性と繊細な感性が交差する瞬間が赤裸々に描かれている。代表句が浮かんだ背景や、ついに発表に至らなかった「トラック島日記(環礁戦記)」の構想にも言及されており、全巻解説を担当する長谷川櫂氏も「まぎれもなく戦後俳句の超一級の資料である」と太鼓判を押している。
以上
放送時間が編成の都合で 22:00~23:54に変更になりました。
『高島礼子が家宝捜索!蔵の中には何がある?』
変更後:BS-TBS 2019/3/17(日)22:00~23:54 放送予定
3/17の放送で、兜太先生の生家である皆野町の「壺春堂金子医院」の「蔵」がお目見えするらしい。アドバイザーとして海原の田中亜美さんが取材に同行。どんな番組になるのか楽しみです。
番組ウェブサイトには今回の依頼主、兜太先生にそっくりな甥っ子の桃刀さんの写真も。
https://www.bs-tbs.co.jp/culture/kura/
『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』3/31まで2,500円でご購入お申込受付中!(現代俳句協会)
以下現代俳句協会Webサイトより抜粋
『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』送料込2,500円現代俳句協会青年部編青年部ブログ書籍概要ページはこちら
この輝かしい俳句の流れは、途絶えてしまったのだろうか。そうではない。地下水脈となって浸透したのだ。
新興俳句とは何であったかを、広角的にアプローチし検証することが目的である。担い手は新興俳句がそうであったように、二、三十代の若者が中心となった。本書には俳句の未来をさぐる手がかりが無尽蔵であると信ずる。現代俳句協会副会長・高野ムツオ
<収録作家・44人>
安住あつし/阿部青鞋/石田波郷/石橋辰之助/井上白文地/片山桃史/桂 信子/加藤楸邨/神生彩史/喜多青子/栗林一石路/高 篤三/齋藤 玄/西東三鬼/佐藤鬼房/篠原鳳作/芝不器男/嶋田青峰/杉村聖林子/鈴木六林男/高屋窓秋/竹下しづの女/富澤赤黄男/永田耕衣/中村三山/仁智栄坊/波止影夫/橋本多佳子/橋本夢道/東 京三/東 鷹女/日野草城/平畑静塔/藤木清子/古家榧夫/細谷源二/堀内 薫/水原秋櫻子/三谷 昭/三橋敏雄/山口誓子/横山白虹/吉岡禅寺洞/渡邊白泉 インターネットの 注文フォーム(青年部サイト)からお申込下さった場合は、どなたでも送料込2,500円で承ります(但し、日本国内のみ)。3月末日まで、割引期限を延長しました!
「海原金子兜太賞」を創設します
~新作30句を公募、募集締め切りは6月20日~
同人・会友の別なく、だれでも挑戦できる公募型の新しい俳句の賞を創設します。私たちの師である金子兜太先生の名を冠した「海原金子兜太賞」です。新たな作家の発掘と俳句の可能性の探求をめざすとともに、「海原」の活性化を図るものです。いわば作品だけの勝負です。従来の観念にとらわれない清新な作品をお寄せください。多数の応募をお待ちしています。
1 名称:海原金子兜太賞(第1回)
2 応募資格:全同人と会友全員(会友とは「海原」の購読者です)
3 応募要領:
① 応募作品数:新作30句
② 新作とは他の媒体(俳誌や雑誌、インターネット、各種俳句大会やコンクール等)に発表されていない作品を指します。句会報への掲載なども注意してください。
③ 応募作品にはタイトルを付し、都道府県名および氏名を忘れずに記入してください。
④ 応募作品は書面による郵送、またはメールで送ってください(メールによる応募を歓迎します)。
※手書きの場合は、市販の原稿用紙を使用し、楷書で丁寧に書いてください。
※メールの場合は、ワードファイルやテキストファイルのほか、メール本文に貼り付けて送ってください。
⑤ 作品送付先:編集人堀之内長一宛て
〒338―0012 さいたま市中央区大戸1―2―8
電話&FAX:048―788―8380
メールアドレス:horitaku★ka2.so-net.ne.jp ( ★→@ )
4 募集締切:2019年6月20日必着
5 選考委員:安西篤/田中亜美/堀之内長一/宮崎斗士/柳生正名/山中葛子(以上6人・五十音順)
6 選考方法:応募作品は無記名にて選考。各選考委員の推薦作品をもとに、討議のうえで受賞作品を決定します。選考座談会は7月末~8月初旬に開催予定です。選考座談会の模様は「海原」誌上に発表します。
7 受賞者発表:受賞者は2019年9月号に速報として発表し、受賞作品と選考座談会は10月号に発表。10月12日の全国大会(高松)にて表彰します。
8 顕彰:受賞者には、金子兜太先生ゆかりの品物等の贈呈のほか、「海原」誌上における連作の場の提供などで顕彰します。
【問い合わせ】海原編集部堀之内長一まで
『海原』No.6(2019/3/1発行)誌面より
◆追悼 谷佳紀 遺句抄
風がゆっくり雨がゆっくり柚子畑
一人って空の広さで紅葉多分ですが
後れ毛のように街並みは冬になった
その奥も冬が積もった古書の山
冬月に僕の濁りがゲップする
スケッチブックに古書のふくよか冬桜
お雑煮の愉快に旨く凪いでいる
臘梅が楽しく咲いて旅行中
紅梅の日暮れが通夜への愛にして
四十九日やおたまじゃくしぴちぴちの桜
畑が広がりパン屋にさくら草
青空や腑抜けになって目高になって
たんぽぽの絮と一緒の空きっ腹
天使からもらった夕陽山法師
沙羅のリボン肘や首お休みなさい
雨消えてキスにやさしいクローバー
紫陽花やいつも一人でいつもいたずら
夾竹桃が呼ぶんだビールが欲しいのさ
蜻蛉はすでに雨を散らした虹なのだ
体に雨の雨が眠って青葉かな
(二〇一八年作品より佃悦夫抄出)
人生円熟 佃悦夫
「海程」創刊期からの参加者であり生え抜きと言える。プライバシーは断片的にしか知らないものの長年の盟友は多々。新潟県出身だが関東に出てきて、まず日逓製作所に職を得、しばらくして学校事務職となり定年まで全うしたのが公的な人生だった。
初期の東京例会での発言はラジカルを常とし兜太にも臆することなく正面からぶつかった。同人誌から主宰制と変わったものの彼の姿勢は不動であり、ブレは皆無だった。
作品もそのままを反映し攻め一方と言えた。若書きと言えばそれまでだが、そのエネルギーは噴射しつづけていた。もちろん作品世界は一直線の即物主義といえるほど真摯であった。虚構は無くも無いが、歴然として可視の域であった。
作句者として漫然と才能を削っていたわけでは決して無い。
平成元年発刊の金子兜太編『現代俳句歳時記』(チクマ秀版社)の協力者の一人として、その有能ぶりを発揮している。ふだんは特別に多弁ではないものの、発言は的を射ていただけに、この協力はかなりの貢献だったと思う。
俳句の縁で金子夫妻の媒酌で結婚しているが数少ない一と組かも知れない。なんとその後を追う死となるとは。
健康には人一倍心懸けていたようで各地開催のマラソン大会に七十歳台半ばのつい最近まで能う限り参加していたようだ。その死の原因は心筋梗塞(虚血性心疾患)というが、いまなお信じ難く、良く通る男性的な声を思い出す。
金子兜太という強い磁気に吸い寄せられるように前衛俳句の作者として出発したに違いは無いが、別掲の作品は何と円熟度が高く、晦渋もなく穏やかな口語体である。肉体をとっくに突き抜けており、初期の作品からは想像も出来ない。いわゆる「ほっこり」「ふんわり」の感触である。
その到達は彼の人生がいかに充実していたかの明らかな証左であると確信する。
二〇一八年十二月十九日逝去、享年七十五。
『天地悠々 兜太・俳句の一本道』監督・脚本 河邑厚徳
上映会のお知らせです。現代俳句協会の案内を以下に転記します。
※現代俳句協会員には特別チケットがあります。
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1回目:2019年3月22日(金) 13:30〜16:00
日比谷図書文化館
千代田区日比谷公園1‒4
ゲスト:黒田杏子(俳人)
2回目:2019年4月17日(水) 13:30〜16:00
文京シビックセンター 小ホール
文京区春日1‒16‒21
ゲスト:下重暁子(作家・評論家)
3回目:2019年5月29日(水) 13:30〜16:00
文京シビックセンター 小ホール
文京区春日1‒16‒21
ゲスト:細谷亮太(聖路加国際病院 小児科医・俳人)
入場料:当日2000円(前売り1800円)
*現代俳句協会会員の皆様への特別チケット(1500円)を用意しております。お名前、希望日、枚数を明記の上、はがきまたはファックスにて現代俳句協会へお申込み下さい。チケットと郵便局の払込取扱票をお送り致します。なお、チケットのご送付は2月の半ば以降になる予定です。
スケジュール(1~3回目とも)
開場 13:30
上映 14:00〜15:15
語る会 15:25〜16:30
司会:河邑厚徳監督
主催:ピクチャーズネットワーク(株)
「天地悠々 兜太・俳句の一本道」 上映時間74分
出演:金子兜太 語り:山根基世 朗読:本田博太郎 プロデューサー:平形則安
後援・協力:現代俳句協会
特別協賛:伊藤園
協力:藤原書店
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公式サイト:https://tota-tenchiyuyu.com/
金子兜太と「海程」その存在と歩み、と題して、安西 篤「海原」代表による講習会があります。
2019年2月18日(月)13:00~14:30@朝日カルチャーセンター新宿教室
詳細は朝日カルチャーセンターウェブサイトをご覧ください。
申込は電話03-3344-1941まで。
新野 祐子句集『奔流』
二十句抄(野﨑憲子・抄出)
金縷梅の無数に点る故郷かな
奔流のいつかうわみずざくらかな
太陽は獣の匂い木の根開く
雪代の渦巻く子宮かも知れず
渓谷は息吹の坩堝多喜二の忌 (師・金子兜太他界)
除草剤降られ糸遊血を流す
緑鳩にそばだつ耳と言霊と
萍のはじめは雨のひとりごと
湿原の静謐くわえ星鴉
鬼やんま獲物の悲鳴より食めり
かがようは石斧のかけら秋耕す
太古より空埋める星鮭のぼる
秋天へ歓喜の鵟蛇提げて
子の宿るところ明るし天の川
大花野かいなを櫂にして渡ろ
雪女かの窓に雪拠らんと
山塊は巨人の枕冬ぬくし
手袋を嵌めてみる蹼が邪魔
望郷のどこを切っても冬怒濤
君は詩を熊は子を生む洞清ら
洞清ら 野﨑憲子
新野祐子さんの第一句集『奔流』は、彼女の産土である山形県白鷹町の風土に根付き逞しく出羽に生きる原日本人の血脈を強く感じる作品群である。
金縷梅の無数に点る故郷かな
かがようは石斧のかけら秋耕す
奔流のいつかうわみずざくらかな
表題にもなった三句目の「上溝桜」は、新野さんの一番好きな花と聞く。どこか種田山頭火の「濁れる水の流れつつ澄む」を想起させる。力強い作品である。続いて「師・金子兜太他界」と前書きのある
渓谷は息吹の坩堝多喜二の忌
師の逝去された二月二十日は、奇しくも小林多喜二の命日。師の、多喜二の、「平和」への悲願が、未来風となり全世界へ吹き渡る予感をこの句に感じた。
太陽は獣の匂い木の根開く
山塊は巨人の枕冬ぬくし
新野さんとの俳縁は一昨年の「海程」全国大会懇親会の会場から始まった。坐ったテーブルの隣同士だったのである。笑顔から山形の土の匂いが零れた。それは、句集『奔流』の頁を開く度に感じる芳しさでもある。
雪代の渦巻く子宮かも知れず
湿原の静謐くわえ星鴉
鬼やんま獲物の悲鳴より食めり
早春の歓喜の詩であり、強烈な把握である。被食者の声まで丸ごといただいて鬼やんまは飛翔するのである。大自然への鋭い眼差しと畏敬の念を強く感じる。
除草剤降られ糸遊血を流す
新野さんは、無農薬野菜の生産販売を生業にしている。大規模林道の自然破壊を危惧し、山林開発への警鐘を鳴らす運動のリーダーでもある。
その一方では、
緑鳩にそばだつ耳と言霊と
萍のはじめは雨のひとりごと
子の宿るところ明るし天の川
のような情感たっぷりの作品もある。佳句満載の作品群の中から私が最も魅かれた作品を挙げて結びとしたい。
太古より空埋める星鮭のぼる
望郷のどこを切っても冬怒濤
君は詩を熊は子を生む洞清ら
悠久の時の流れの中、鮭は子孫を残すために最後の力をふり絞り故郷の川を遡る。それは怒濤のような望郷であり、そうしないではいられない「生きものの」性である。そしてありとあらゆる「生きもの」の真ん中には、清らかな洞がある。師の提唱された「いのちの空間」を想った。新野さんの詩世界の展開に、ますます目が離せない。味わい深い句集である。
◆山本掌句集『月球儀』
月面の〈存在〉―地上の「虚無」 堀本 吟
たいへん興味深い句集である。いまだにきらきらと印象が拡散している。
先ず書物として、意匠がただならず美しい。伊豫田晃一の装画と題字、司修の銅版画、萩原朔太郎撮影の写真。表紙とその頁々に、一幅のタブローとしての存在感がある。
皆川博子と金子兜太の帯文がまたいい。
「好きです。選び抜かれた表現も、その身にあるものも」(帯文・皆川博子)
と、扉を開ける前から、胸がときめく。
「非常に奇妙な現実執着者、/奇妙に意地悪い洞察者というか、/どこかひねくれたと思えるほどにその美意識が常識とは違っている。/混沌をみとどけていこうとする作者である。」(帯文・金子兜太)
兜太のこれは、第二句集『朱夏の柩』の序文にある別の句の鑑賞文の中から抄出されて いる。山本掌にとっては、それは、刊行を待たずに帰天した先師から贈られたもの。彼女の文学的本質をこよなく突いたもの。省略された文中、「現象の奥の現実に関心のある場合、とかくシュールレアリスム、超現実の傾向をもちがちであるが、山本はあくまでも現実に執している」とも書く。(同句集、金子兜太の序。現代俳句協会青年部フリーダム句集9。邑書林1995)。今度の句集にあっても、この言葉は羅針盤である。
そこで、私は、本句集中の彼女の華麗な句群から何を取り出すのか、ということとなる。
ともあれ、連作風の章立てや配列の関係をよそに、私がメモした本文のための印象句を掲げよう。
①残る花ふっと臓器がゆらぐかな
②右手に虚無左手に傷痕花ミモザ
③月球儀おそらく分母は蝶であるザイン
④〈存在〉とやなべて魂魄華やぎぬ
日常物に満ちているにもかかわらず、ここは「地球儀」ではなく『月球儀』の上なのである。数句十数句集めて月面の立体図を作る時の、山本の構成は大胆かつ巧みである。
掲句③の系列と思える句。
若鮎の骨美しき宇宙塵
月球儀鮎の動悸のおくれけり
胎ゆらぎ黄蝶白蝶モルフォ蝶
など、五七五の定型感が心地よい。だが、内容はすこし異様で、地球上のありふれた生命体が同時に別の天体で生きているようだ。人体も蝶がいっぱい詰まった妖しい宇宙である。掲句③ではその蝶を「分母」にして月世界の細部まで、蝶の分子が分布しているのだ。原点は地上にあるが、同時存在する別世界があるのだ、と考えればいいのである。
では、このことを、掲句④「〈存在〉とやなべて魂魄華やぎぬ」の「〈存在〉」の次元に重ねてみる。この句は、母親を哀悼した《寒牡丹ふたたび》の章にある。しかし魂魄は母のみにではなく、すべてに備わっていて「なべて華やぎぬ」である。それが彼女の言う「〈存在〉」ということだ。しかし、彼女のこの句のような共生感覚を、地上的なアニミズムかと考えてみるとそれは少し違う。兜太が喝破した山本掌の意識下の超現実とも違う。
私の観点を述べてみる。それは、「〈存在〉」と表裏の関係にある「虚無」が今回の精神的なそして表現のテーマであることだ。むしろ現実離脱、死へ向かう心性の遍在を彼女は探っている。
例えば、掲句②では、結句の真黄色の粒粒した花の添え方が絶妙であるが、主となるものは季語の「花ミモザ」ではない。「右手に虚無」にまつわるとらえがたいほどの広い思索の場、もう一つの存在界の発見である。そして「左手の傷痕」の生の痛みの感覚。
ぼうぼうと虚無を喰みます麦の秋
大花野遠流のごとく虚無に棲む
青水無月あおき空洞ですわたくしは
などなど。「麦秋」「花野」「青水無月」、季語の語感と美しさを愛し、けれどそこに込められている空虚さだけを摂り、季節や生活の実感から抜け出している。何もないゆえに華やぐ世界、現実の奥にある虚無界の妙な手触りに執着している。季語の本意を換骨奪胎するワザの巧みさ、又この生死の世界のアンビバレントな措き方など、実在を、言葉に転じてゆく試み、が私にはたいへん興味深い。それは直接彼女の「〈存在〉」のスケールに重なる。
またその世界観から、掲句①のような「残る花」に感じて「臓器がゆらぐ」(「こころ」がではなく)ような特異な身体感覚も表現される。
冬の虹脳石灰化ぞうぞうと《海馬より》
右の句は彼女の父親の看取りの章におかれている。もう傷の痛みさえ実感できぬ老いの切なさ、そのことも、きちんと、寒い「冬の虹」という比喩のもとで見抜かれる。実存と実体に及んでくる容赦ない死の掟。しかも脳の死と入れかわり、倒錯のように、あらたに魂魄が立ちあがる気配もある。
さて、ジャンルオーバーの発想と実践は、地上に生きる山本掌のスタイルだ。この句集の大きな読みどころでもある句集巻頭の《朔太郎・ノスタルヂア》六句は、詩人が撮影した写真に俳句を添えたもの。
翼たためる馬かいまみし葡萄の木 掌
(写真朔太郎撮影「馬のいる林―前橋郊外」)
など、泰西神話を思わせる句によって、モダニズムの時代をくぐった詩と俳の、映像と言葉の交響である。
また、最後の章《俳句から詩へ》には、
三月の火喰獣を腑分けせよ 山本 掌
井を晒すくちびる死より青かりき 加藤 かけい
人間に火をあたえた罪でプロメテウスが神から承けた罰を、火の精霊火喰獣に返して「腑分けせよ」と。詩の方では火喰獣からの反撃という構想。加藤かけいの俳句からは、水の精オンディーヌ=オフィーリアの死と恋の物語が再生する。そこにも「虚無」と「傷痕」が措かれてある。
かように、生が抱え込む虚無界の(あるいは死が活きる)所在をみとめ、その俳句的絵解きをしているのが、山本掌句集『月球儀』なのである、と私は読む。
(了)
「海原」各賞の創設について
「海程」を引き継ぐ「海原」各賞について、次のとおり創設することが決定しました。「海程賞」を継ぐ賞として「海原賞」、「海程新人賞」を継ぐ賞として「海原新人賞」の二賞です。新たな出発にあたって、選考委員の世代交替を図りました。昨年9月の創刊号から本年7・8月合併号までの作品が対象となります。同人・会友のますますの創作意欲の高揚を期待しています。
1.海原賞(旧海程賞に準ずる)
対象:全同人(「碇の衆」および既海程賞受賞者を除く)
対象期間:第1回2018年9月創刊号~2019年7・8月合併号
【選考委員】
安西篤/石川青狼/武田伸一/舘岡誠二/田中亜美/野﨑憲子
藤野武/堀之内長一/前川弘明/松本勇二/山中葛子/若森京子
(以上12人・五十音順)
2.海原新人賞(旧海程新人賞に準ずる)
対象:会友(海原集投句者)
対象期間:第1回2018年9月創刊号~2019年7・8月合併号
【選考委員】
大西健司/こしのゆみこ/佐孝石画/白石司子/高木一惠
武田伸一/月野ぽぽな/遠山郁好/中村晋/宮崎斗士
(以上10人・五十音順)
※上記二賞の選考結果は本年10月号に発表予定。全国大会にて顕彰します(「海原」の第1回全国大会は2019年10月12日から14日まで、香川県高松市と小豆島で開催されることが決定しています。詳細は4月号で案内予定です)。
3.公募方式による新しい賞の創設
「海原賞」「海原新人賞」のほかに、公募方式(対象は同人および会友全員)による新しい賞の創設に向けて鋭意検討中です。詳細は本年3月号に発表します。ご期待下さい。
代表安西篤/発行人武田伸一/編集人堀之内長一
「海原」実務運営委員長柳生正名
「金子兜太先生の一周忌墓参と吟行合宿in秩父」のご案内
【開催日】2019年2月16日(土)~17日(日)
【宿泊】長生館(秩父鉄道「長瀞駅」近く)
〒369―1305 埼玉県秩父郡長瀞町長瀞449
電話:0494―66―1113
【参加費】20,000円(予定)
【スケジュール概要】
◇2月16日(土)
12:30~13:00 長生館にて受付
13:00~ バスにて吟行
(お墓参り、壺春堂の新しい先生の句碑、ヤマブ皆野椋神社門前店など)
17:00 第一次句会出句締切出句二句
18:00~ 夕食
19:30~ 第一次句会
句会終了後、懇親会
◇2月17日(日)
7:30~ 朝食
8:00 第二次句会出句締切出句二句
9:00 第二次句会
句会終了後、現地解散
続けて、17日(日)午後~18日(月) 有志一泊旅行を開催します。
◇申込み締切:2月3日(日)
※一人部屋は参加費+8,000円(参加者数によっては一人部屋をご用意できない場合がありますのでご了承ください)
【申込み・問合わせ先】
〒182‐0036 東京都調布市飛田給2‐29‐1‐401 宮崎斗士あて
電話:070‐5555‐1523 FAX:042‐486‐1938
メール:tosmiya☆d1.dion.ne.jp(☆→@)
以上
海原実行委員会