嶺岸さとし句集『天地』(あめつち)

自らを耕し深めたもの  武藤鉦二

 句集『天地』は、著者が俳句を始めてから一〇年の三二〇句である。句作りを始めてすぐ「海程集」で金子兜太主宰の選を受け、たちまち新人賞候補に名を連ね、二〇一六年同人に推挙されている。嶺岸は「もし俳句に出会わなかったら、どんな一〇年になっていたか」「俳句の魅力は想像以上でした」と言う。
  真っ直ぐは疎まるる性韮の花
  実は根がはにかみ屋です菠薐草
  決め台詞持たずに生きて心太

 中村孝史の序文によれば、嶺岸は「僕は理屈っぽい男なんで感性を磨くために俳句を始めることにした」と自己紹介したという。真っ直ぐで正義感強くやや理屈っぽく、はにかみ屋で、すかっとした啖呵など吐けなかった嶺岸が、次第に視野を広げ、隠し持っていた感性を伸び伸びと生かしている。それぞれ「韮の花」「葱坊主」「菠薐草」「心太」の配合に、それが表れているではないか。
宮城に住む嶺岸は「俳句を始めて一〇年の中で最大の出来事は、あの東日本大震災と福島の原発事故だった」と言い、何とか句に詠もうともがき続け、特に「原発事故と人々の暮らしへのこだわり」を持ち続けている。
  津波あと錆びし鉄路に鼓草
  手付かずの廃炉横目にあめんぼう
  萬の向日葵被曝の大地掴み立つ

 大津波に呑み込まれて不通のままの線路にけなげなまでのタンポポの黄色が鮮烈だ。五〇年・一〇〇年掛かって処理できるのかも不明な壊れた原子炉、被曝のため全村避難して無人と化した大地に踏ん張っている無数の大向日葵。
  避難児の空席ひとつ冬日差す
 高校教師だった彼は、教室の空席ひとつに顔を曇らせる。大震災・津波により避難した生徒の席なのだ。私も中学教師だったので、被災ではなくてもその日の空席が気になって落ち込んだもの。何日ぶりかの冬の日差しのなか、ぽつんと空席のあるつらさ。
  疎まれてタンク千基の春の水
 メルトダウンした原発からの汚染水のタンクが、日々増えていく。この汚染水は処理できないまま、どこにも持って行けないまま、増えていく。それさえも春の水であることの辛さ悲しさ、そして怒り。さらに、被爆地の汚染土も、真っ黒い袋に入れて各地に積み上げられたままなのだ。どこにも持って行けず処理できない汚染水のタンクと汚染土の黒い袋が積み上げられているフクシマの現実がここに描かれる。
 教職を退いたあと、彼は畑仕事に精を出している。「たんぽぽや端農はしたのう身の丈に合う」と作り、「端農はしたのう」として土を耕す。
  大根抜きしうろにいのちの温みかな
 理に傾きがちな面があると自覚していた著者が、土に根ざし作物を育て始めたことは、彼の感性を掘り起こす大きなきっかけになっているようだ。畝を盛り上げ、種を蒔いた時から日々丹精込めて育てた太く立派な大根の収穫の喜びを体感する。立派な大根を抜いた後の畝の黒土に大きく空いた穴・つまり洞に、命の温みを感じた嶺岸の表情が見えてうれしい。「~洞にいのちの温みかな」の実感のすごさに目を見張るばかりだ。
  大白菜尻の重さを抱き穫る
 同様に、大きく育った白菜を、全身で女性を抱くように愛しみながら収穫する。
  へぼ胡瓜健全という曲がり方
  曲がれるを誇りに峡の地大根

 飽食の現代は、真っ直ぐに育てた胡瓜でないと売り物にならない。曲がった胡瓜はへぼ胡瓜として処理されてしまうが、胡瓜に罪はない。自由に健全に育って曲がっただけなのだ。地大根も、大地の様相によって曲がっただけなのだから、威張って当然なのだ。農作物への嶺岸の愛が強く表れている。
  青空へ大地うっちゃる大根引
 自ら農家の端くれと言いつつも、大根をうっちゃるのではなく、大地をうっちゃるほどになっているのだから。
  武器持たぬものの尊厳冬菜畑
 「兜太主宰の選の無い『海原』は都会的なセンスの句が主流になって、土臭い句は流行らなくなるぞ」と言い切った人もいて、その通りかも知れぬ。が、それはどうでもいい。嶺岸は宮城の地に、武藤は秋田の土にこだわっていくばかりだ。
  不易とは母の猫背の草むしり
  父の背は最初の他人蛇の衣

 働く母の姿が目に焼き付いていて永遠に変わらない。また、どうにも敵わない男としての父の姿に嫉妬すら覚える息子のまなざしがいい。
  歪むからこころなんだよしゃぼん玉
  すててこの捨てがたきこと蛇の衣
  遁走に処世の快感耳袋

 自分を「理屈っぽい男」と言っていた彼のこの柔らかさはどうだ。また、
 春一番パソコンを猫踏んじゃった
 逃げ水を追う猫放哉かもしれぬ

など、遊び心を持ち始めた余裕ある句作りもうれしい。素材も対象も無限に拓いていく可能性が見えてくるのだ。
  亀鳴くや大器晩成にして余生
  余生にも種火はあるさ茄子の花

 これからへの意気が頼もしい。ぜひ余生の中の種火を基にして大器晩成を目指してほしいものだ。
 そのほか、触れたかった句。
  廃校の夜空はまろし盆踊
  藁蒲団少し
つのある温みかな
  冬の駅みな隠し持つ尾骶骨

  他人ひと救う嘘もあります心太
  子連れママみんな素っぴん青蛙

 終わりに、嶺岸さとしの兜太先生追悼の一句をあげおく。
  兜太逝く春星天に収まらず
(文中敬称省略)

第一回海原金子兜太賞 受賞作品

◆第一回海原金子兜太賞 受賞作品
『海原』No.12(2019/10/1発行)誌面より。

【本賞】

藁塚  すずき穂波

更衣風の力を少し借り
薄暑光アジアの長い痛みかな
青梅雨に洗はれみんな過去形に
夕蛍ぽっと来てゐる初老かな
ただただ半夏雨直葬の無韻詩
流蛍やヘーゲルに逢ふ一人旅
頭の中は落書きだらけ浮人形
老獪ぶって唄ふブルース蛇の衣
晒井に欠け茶碗大正にデモクラシー
咲くやこのにんげん臭いビヤホール
ダルビッシュ・有の鼻すぢ青岬
夏潮の運河を上る本屋大賞
ダリアだりあ名字の遊離してる貌
熱唱の一人カラオケ日雷
馬洗ふ夕の静けさ父性とは
冷蔵庫人間みたいに込み入って
孑孑や縞馬も群れたがります
青林檎噛む音のして肉離れ
行々子堅田の雨はやはらかい
てのひらにいのちの仔細草の花
十三夜素性を明かしさうになる
水澄んで純文學は兵
秋蝶の軌道修正ふたごころ
退路といふ活路ですなぁ竹の春
太陽の塔の両翼秋の天
砂利踏んで無風地帯の菊花展
行く秋のからだに蔵ふ山水図
藁塚に夕ぐれ主婦に自鳴琴オルゴール
園丁に落葉籠ていねいな生き方
柿日和ヴェトナム人に伝はりぬ

【奨励賞】

むかししかし  望月士郎

如月の力を入れてそっと持つ
朧夜のやがてやさしい鰓呼吸
散る花にかさなる字幕くちうつし
教室に蝶きて一頭ですと言う
ガラス器に根の国みてる春夕べ
水中花ナースに髪を洗われて
「手術中」赤く点灯して金魚
病棟に白い汀が潮まねき
今は二日後からすうりのはなひらく
パリー祭とても冷たい肉売場
つぎの世へ魂のせてこぐ貸ボート
うす塩の空蝉カウチポテト族
昼ねざめ蛇はどこから下半身
白靴来る一分の一の地図の上
八月の乳母車の中瓜二つ
炎天の橋渡りゆくかげかたち
千羽鶴はらわたのよう垂れ晩夏
劇場は背中ばかりや夏の果
桃は桃に触れて間にある鏡
秋天に鱗のたくさんある教会
ほろほろ歩いて踝はひょんの笛
黙読の夜の林檎を盗みにゆく
真夜中の末梢神経まんじゅしゃげ
町過ぎて象牙曲がって銀漢へ
なんとなく月に謝りたいベンチ
凍蝶にくっきり青い絵空事
死角より綿虫あふれでてこの世
手袋の牛の内側へと入る
かんぜおん1÷3のよう飛雪
むかししかしみんな抱いてる白兎

【特別賞】

褌  植田郁一

褌のままで構わん客も喜ぶ
いくら何でも褌ずれていますと妻
客来るからと新らの褌に替えており
語気荒ければ褌静かなり突っ張る
色紙代りに墨痕太々褌に
褌快適熊谷上之上高地
鮫来ない日は庭中に褌干す
褌乾く蝶は蝶呼びもつれ合う
褌ひらひら秩父音頭の裾ひらひら
られるところ褌振って帰還せり
褌一枚形見に貰い損ねた悔い
褌二枚自分で洗ういがらっぽい
褌三枚塩辛トンボ来てはためく
褌四枚端しで手を拭く顔も拭く
褌五枚試着してまでは買わない
褌六枚洗っている間に風邪を引く
褌七枚頂くこと贈られることもなく
褌八枚穿くにも脱ぐにも煩わさず
褌九枚平和の証し白地に白
褌十枚良きものを現代に生かす貫く
褌で現われない日は兜太の留守
絹かキャラコか木綿褌よく馴染む
肩で切ってるんぢゃない褌で風切る
溲瓶褌忘れることなくよく眠る
褌を固めに締めて朝の立禅
緩褌気付かれそうで見透かされず
褌乾く犬猫ニコニコ見上げて通る
夜干し褌狼が嗅ぐ蛍が嗅ぐ
兜太死なない褌姿もう居ない
兜太焼かれ骨と褌の灰残る

海原三賞の決定

海原三賞の授賞者が、次のとおり決定しました。授賞式は、10月12日「海原全国大会in高松&小豆島」の総会にて行います(詳細の発表=「海原金子兜太賞」は10月号、「海原賞」「海原新人賞」は11月号を予定)。
◆第一回海原金子兜太賞
【本賞】すずき穂波作品「藁塚」(30句)
【奨励賞】望月士郎作品「むかししかし」(30句)
【特別賞】植田郁一作品「褌」(30句)
◆第一回海原賞
 小西瞬夏、水野真由美、室田洋子
◆第一回海原新人賞
 三枝みずほ、望月士郎

天地(あめつち) 嶺岸さとし句集

たんぽぽや端農はしたのう身の丈に合う 
「この「端農」はさとしさんの造語かも知れないが、農家の端くれだと、ご自分のことを言っている。だけど、彼から貰った白菜はでかくて固くて立派だった。この「端農」の句に佳い句が沢山有る」(中村孝史「序」より)
■発行=文學の森 定価=二〇九五円(税別)

金子兜太『天地悠々』&『百年』イベント9/28(土)@文京シビックセンター

金子兜太生誕100年/映画上映会のご案内

「海原」共催の映画上映イベントを開催します。
上映の後に最後の句集『百年』を読むセッションがあります。
海原会員にかかわらず、どなたでもご参加できます。
皆様お誘いあわせの上ふるってご参加ください。

金子兜太 最後の言葉、最後の句集
映画『天地悠々』の上映と句集『百年』を読む


日時:2019/9/28(土)
   開場12:00/開演12:30/終演16:00
会場:文京シビックセンター 小ホール
   東京都文京区春日1‐16‐21
   https://goo.gl/maps/ofbBHpohFSrb887b8
内容: 第一部 映画『天地悠々 兜太・俳句の一本道』上映
   第二部 最後の言葉について 河邑厚徳監督
   第三部 最後の句集『百年』を読む
       安西篤代表ほか海原同人多数
       *句集『百年』は9月上旬、朔出版より刊行予定
入場料:当日券¥2,000/一般前売券¥1,800(ぴあ、電話予約)

主催:ピクチャーズネットワーク(株)/共催:海原/後援:現代俳句協会
問合せ・電話予約:ピクチャーズネットワーク(株)
03-5215-2488 inf★tota-tenchiyuyu(★→@)

以上

締切迫る!第1回「海原」全国大会in高松&小豆島(9/2申込期限)

申し込み期限が9月2日(月)と迫っています!
★費用や参加申込方法など詳細は「海原」誌面をご覧ください。

大「海原」を渡って四国高松へ! 放哉の小豆島へ! 3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭の期間中で、いつにも増して瀬戸内海は見所満載です。海原最初の大会、奮ってご参加ください。ともに俳句をつくり、語り合いましょう。

とき:
2019年10月12日㈯午後1時~10月14日㈪正午まで

ところ:
Ⓐ全国大会
〈会場〉サンポートホール高松第2小ホール(ホール棟5階)
高松市サンポート2番1号〔JR高松駅出入り口を北(左折)へ徒歩3分〕
〈12日の宿泊〉HOTEL「花樹海」
〒760―0004 高松市西宝町3丁目5番10号(☎087―861―5580)
Ⓑ有志吟行国民宿舎「小豆島」
〒761―4301 香川県小豆郡小豆島町池田1500―4(☎0879―75―1115)

日程:
Ⓐ全国大会
10月12日㈯12:00 受付開始(サンポートホール高松)
13:00 海原会総会/海原各賞の表彰
14:00 第一次句会(事前投句/講評ほか)
16:30 ホテル花樹海へ移動
17:30 第二次句会投句締切(1句)
18:30 夕食・懇親会
10月13日㈰7:00 朝食(選句)
8:00 ホテル花樹海よりサンポートホール高松へ移動
9:00 第二次句会
11:30 全国大会終了/昼食(弁当)/解散
Ⓑ有志吟行
11:45 フェリーにて小豆島へ出発
(乗船時間は約1時間。島内吟行)
18:00 夕食
翌日の全体句会投句締切
(出句数は当日発表)
19:00 グループ別小句会(予定)
10月14日㈪
7:00 朝食
9:00 第三次句会
(互選・合評・表彰など)
12:00 有志吟行終了/昼食/解散

★費用や参加申込方法など詳細は「海原」誌面をご覧ください。

第1回 海原金子兜太賞

第1回「海原金子兜太賞」が決定しました

2019年7月13日(土)、第1回「海原金子兜太賞」の選考会が開催され、応募66作品の中から、次のとおり受賞者が決定いたしました。おめでとうございます。

【海原金子兜太賞】
 すずき穂波(広島) 作品「藁塚」(30句)

【海原金子兜太賞 奨励賞】
 望月士郎(埼玉) 作品「むかししかし」(30句)

【海原金子兜太賞 特別賞】
 植田郁一(東京) 作品「褌」(30句)

選考委員:安西 篤/田中亜美/堀之内長一/宮崎斗士/柳生正名/山中葛子
(以上6名 五十音順)

表彰式は10月12日(土)、「海原」全国大会(高松)で行います。 
受賞作品と選考過程は、「海原」10月号に発表予定です。

金子兜太先生のラジオ番組案内

金子先生の生前の音声がラジオで放送されます。
◇放送番組:「カルチャーラジオ~NHKラジオアーカイブス~」
声でつづる昭和人物史 金子兜太
(全2回)
◇放送日:NHKラジオ第2放送
午後8時30分~午後9時
・第1回8月19日(月)
・第2回8月26日(月)
「文化講演会 わが俳句人生」(1998年3月15日)
◇放送時間:各回、10分程度

金子兜太先生の映画「天地悠々」上映会のご案内

2019年初公開以降3回にわたる東京での上映会は終りましたが、各地での上映会開催が予定されています。
2019/8/17(土)明治大学駿河台校舎グローバルフロント棟1階グローバルホール
2019/9/21(土)熊谷市立文化センター文化会館ホール
2019/9/23(月・祝)皆野町
2019/9/25(水)文京シビックセンター小ホール(予定)
2019/10/8(火)川崎市・麻生市民館大会議室
2019/10/30(水)長野市芸術館リサイタルホール
2019/10/31(木)松本市中央公民館ホール
各地で自主的な上映会を開催したい場合は、下記にご相談ください。
◇ピクチャーズネットワーク(株)
電話:03-5215-2488

金子兜太先生@NHK「サラメシ」

金子先生が朝日俳壇の選句で毎週出掛けていた朝日新聞でのランチが紹介されます。亡くなった方々のランチを紹介する特別番組で、先生が好きだった当時の弁当が再現されます。
◇番組名
NHK総合テレビ「サラメシ」
◇放送日
2019年6月25日(火)午後7時30分~
〈再放送〉
6月27日(木)午後12時20分
6月30日(日)午前8時25分

公開シンポジウム「兜太俳句の晩年」7/6/土@ゆいの森あらかわ

公開シンポジウム「兜太俳句の晩年」

世界最短詩形を愛し、平和を願い、生涯現役で現代俳句を牽引した金子兜太。
その俳句から受け取るものは大きい。『日常』以後、10 年間を記録した最後の句集『百年』の刊行に先立ち、豪快かつ繊細に生きた兜太最晩年の俳句を読み解きます。

■ パネリスト
宇多喜代子 現代俳句協会特別顧問 「草樹」会員代表
高野ムツオ 「小熊座」主宰
田中亜美 「海原」同人
神野紗希 現代俳句協会青年部長

■ 司会
宮崎斗士 「海原」副編集人

【日 時】7月6日(土) 14:00~16:00 (開場13:30)
【会 場】ゆいの森あらかわ 1階ゆいの森ホール
〒116-0002 東京都荒川区荒川2-50-1 Tel:03-3891-4349
【定員】120名(先着順)参加費1000円(荒川区民・大学生以下は無料)。定員となり次第、締め切らせていただきます。
【申込方法】要申込。
事前に下記まで電話・ファックスまたはメールにて、
①お名前 ②ご住所 ③電話番号 を明記の上お申込みください。
【申込先】朔出版  電話・ファックス: 03-5926-4386
E-mail:info★saku-pub.com(★→@)
問い合わせ先: 090-6016-8530 (鈴木)

主催︓金子兜太句集『百年』刊行委員会・朔出版 後援︓荒川区・現代俳句協会

※当初7/6開催予定であった「海原 東京例会」は7/7(日)にずらして開催します。

『聊楽』RYOURAKU 董振華 句集

〈日中対訳句集〉
『聊楽』RYOURAKU 董振華句集
春暁の火車洛陽を響かせり
「董振華の作品は土地土地の風物を題材として取り入れ、そこで感応し思惟したことを書き込んでゆく。若い感性は、活気とともに多感。旅愁にとらわれることも多く、それらを逆らわず表現している」(金子兜太「序に代えて」より)
■発行=ふらんす堂 定価=二七○○円(税別)

第1回「海原」全国大会in 高松&小豆島

大「海原」を渡って四国高松へ! 放哉の小豆島へ! 3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭の期間中で、いつにも増して瀬戸内海は見所満載です。海原最初の大会、奮ってご参加ください。ともに俳句をつくり、語り合いましょう。

とき:
2019年10月12日㈯午後1時~10月14日㈪正午まで

ところ:
Ⓐ全国大会
〈会場〉サンポートホール高松第2小ホール(ホール棟5階)
高松市サンポート2番1号〔JR高松駅出入り口を北(左折)へ徒歩3分〕
〈12日の宿泊〉HOTEL「花樹海」
〒760―0004 高松市西宝町3丁目5番10号(☎087―861―5580)
Ⓑ有志吟行国民宿舎「小豆島」
〒761―4301 香川県小豆郡小豆島町池田1500―4(☎0879―75―1115)

日程:
Ⓐ全国大会
10月12日㈯12:00 受付開始(サンポートホール高松)
13:00 海原会総会/海原各賞の表彰
14:00 第一次句会(事前投句/講評ほか)
16:30 ホテル花樹海へ移動
17:30 第二次句会投句締切(1句)
18:30 夕食・懇親会
10月13日㈰7:00 朝食(選句)
8:00 ホテル花樹海よりサンポートホール高松へ移動
9:00 第二次句会
11:30 全国大会終了/昼食(弁当)/解散
Ⓑ有志吟行
11:45 フェリーにて小豆島へ出発
(乗船時間は約1時間。島内吟行)
18:00 夕食
翌日の全体句会投句締切
(出句数は当日発表)
19:00 グループ別小句会(予定)
10月14日㈪
7:00 朝食
9:00 第三次句会
(互選・合評・表彰など)
12:00 有志吟行終了/昼食/解散

★費用や参加申込方法など詳細は「海原」誌面をご覧ください。

『金子兜太戦後俳句日記』(白水社)

金子兜太戦後俳句日記(第一巻 一九五七年~一九七六年)
が白水社より出版されています。
海原衆で購入希望者は海原編集部に一声かけてください。
amazonでも買えます。

以下、
白水社ウェブサイトより転記


戦後俳壇の第一人者が61年にわたり書き綴った日記を刊行。赤裸々に描かれる句作の舞台裏。知的野性と繊細な感性が交差する瞬間。

金子兜太戦後俳句日記(第一巻 一九五七年~一九七六年)
著者:金子 兜太
出版年月日:2019/02/20
ISBN:9784560096826
判型・ページ数:A5・450ページ
定価:本体9,000円+税
内容説明:
61年間書き綴られた戦後俳壇の超一級資料
知的野性と繊細な感性が交差する句作の背景

戦後俳壇の第一人者が、61年にわたり書き綴った日記をついに刊行。赤裸々に描かれる句作の舞台裏。知的野性と繊細な感性が交差する瞬間。(全三巻)

俳壇の至宝ともいえる金子兜太は、1957年(昭和32年)1月1日から亡くなる前年の2017年(平成29年)7月3日まで、ほぼ毎日日記をつけていた。年齢でいえば37歳元日から97歳盛夏まで、61年7か月の長きにわたる。
98年の生涯を閉じて1年、ついにその日記が公開されることになった。俳句関連中心に全三巻。第一巻では、前衛俳句の旗手として台頭してきた金子兜太が、第一句集「少年」で現代俳句協会賞受賞後、「海程」の創刊に携わり、俳句造型論を展開、自身の創作方法を理論化した壮年期、37歳から56歳までの20年間が収録される。日本銀行行員としては、神戸支店、長崎支店、東京本店と定年まで勤め上げた時代である。
そこには、伝統にとらわれない新しい句作への志や苦悩、知的野性と繊細な感性が交差する瞬間が赤裸々に描かれている。代表句が浮かんだ背景や、ついに発表に至らなかった「トラック島日記(環礁戦記)」の構想にも言及されており、全巻解説を担当する長谷川櫂氏も「まぎれもなく戦後俳句の超一級の資料である」と太鼓判を押している。


以上

★時間変更★『高島礼子が家宝捜索!蔵の中には何がある?』「壺春堂金子医院」の「蔵」

放送時間が編成の都合で 22:00~23:54に変更になりました。
『高島礼子が家宝捜索!蔵の中には何がある?』
変更後:BS-TBS 2019/3/17(日)22:00~23:54 放送予定
3/17の放送で、兜太先生の生家である皆野町の「壺春堂金子医院」の「蔵」がお目見えするらしい。アドバイザーとして海原の田中亜美さんが取材に同行。どんな番組になるのか楽しみです。
番組ウェブサイトには今回の依頼主、兜太先生にそっくりな甥っ子の桃刀さんの写真も。
https://www.bs-tbs.co.jp/culture/kura/

『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』3/31まで2,500円でご購入お申込受付中!(現代俳句協会)

『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』3/31まで2,500円でご購入お申込受付中!(現代俳句協会)

以下現代俳句協会Webサイトより抜粋

『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』送料込2,500円現代俳句協会青年部編青年部ブログ書籍概要ページはこちら

この輝かしい俳句の流れは、途絶えてしまったのだろうか。そうではない。地下水脈となって浸透したのだ。
新興俳句とは何であったかを、広角的にアプローチし検証することが目的である。担い手は新興俳句がそうであったように、二、三十代の若者が中心となった。本書には俳句の未来をさぐる手がかりが無尽蔵であると信ずる。現代俳句協会副会長・高野ムツオ 
<収録作家・44人>
安住あつし/阿部青鞋/石田波郷/石橋辰之助/井上白文地/片山桃史/桂 信子/加藤楸邨/神生彩史/喜多青子/栗林一石路/高 篤三/齋藤 玄/西東三鬼/佐藤鬼房/篠原鳳作/芝不器男/嶋田青峰/杉村聖林子/鈴木六林男/高屋窓秋/竹下しづの女/富澤赤黄男/永田耕衣/中村三山/仁智栄坊/波止影夫/橋本多佳子/橋本夢道/東 京三/東 鷹女/日野草城/平畑静塔/藤木清子/古家榧夫/細谷源二/堀内 薫/水原秋櫻子/三谷 昭/三橋敏雄/山口誓子/横山白虹/吉岡禅寺洞/渡邊白泉 インターネットの 注文フォーム(青年部サイト)からお申込下さった場合は、どなたでも送料込2,500円で承ります(但し、日本国内のみ)。3月末日まで、割引期限を延長しました!

「海原金子兜太賞」を創設します

「海原金子兜太賞」を創設します
~新作30句を公募、募集締め切りは6月20日~

同人・会友の別なく、だれでも挑戦できる公募型の新しい俳句の賞を創設します。私たちの師である金子兜太先生の名を冠した「海原金子兜太賞」です。新たな作家の発掘と俳句の可能性の探求をめざすとともに、「海原」の活性化を図るものです。いわば作品だけの勝負です。従来の観念にとらわれない清新な作品をお寄せください。多数の応募をお待ちしています。

1 名称:海原金子兜太賞(第1回)

2 応募資格:全同人と会友全員(会友とは「海原」の購読者です)

3 応募要領:
① 応募作品数:新作30句
② 新作とは他の媒体(俳誌や雑誌、インターネット、各種俳句大会やコンクール等)に発表されていない作品を指します。句会報への掲載なども注意してください。
③ 応募作品にはタイトルを付し、都道府県名および氏名を忘れずに記入してください。
④ 応募作品は書面による郵送、またはメールで送ってください(メールによる応募を歓迎します)。
※手書きの場合は、市販の原稿用紙を使用し、楷書で丁寧に書いてください。
※メールの場合は、ワードファイルやテキストファイルのほか、メール本文に貼り付けて送ってください。
⑤ 作品送付先:編集人堀之内長一宛て
〒338―0012 さいたま市中央区大戸1―2―8
電話&FAX:048―788―8380
メールアドレス:horitaku★ka2.so-net.ne.jp ( ★→@ )

4 募集締切:2019年6月20日必着

5 選考委員:安西篤/田中亜美/堀之内長一/宮崎斗士/柳生正名/山中葛子(以上6人・五十音順)

6 選考方法:応募作品は無記名にて選考。各選考委員の推薦作品をもとに、討議のうえで受賞作品を決定します。選考座談会は7月末~8月初旬に開催予定です。選考座談会の模様は「海原」誌上に発表します。

7 受賞者発表:受賞者は2019年9月号に速報として発表し、受賞作品と選考座談会は10月号に発表。10月12日の全国大会(高松)にて表彰します。

8 顕彰:受賞者には、金子兜太先生ゆかりの品物等の贈呈のほか、「海原」誌上における連作の場の提供などで顕彰します。

【問い合わせ】海原編集部堀之内長一まで

追悼 谷佳紀 遺句抄

『海原』No.6(2019/3/1発行)誌面より

◆追悼 谷佳紀 遺句抄

風がゆっくり雨がゆっくり柚子畑
一人って空の広さで紅葉多分ですが
後れ毛のように街並みは冬になった
その奥も冬が積もった古書の山
冬月に僕の濁りがゲップする
スケッチブックに古書のふくよか冬桜
お雑煮の愉快に旨く凪いでいる
臘梅が楽しく咲いて旅行中
紅梅の日暮れが通夜への愛にして
四十九日やおたまじゃくしぴちぴちの桜
畑が広がりパン屋にさくら草
青空や腑抜けになって目高になって
たんぽぽの絮と一緒の空きっ腹
天使からもらった夕陽山法師
沙羅のリボン肘や首お休みなさい
雨消えてキスにやさしいクローバー
紫陽花やいつも一人でいつもいたずら
夾竹桃が呼ぶんだビールが欲しいのさ
蜻蛉はすでに雨を散らした虹なのだ
体に雨の雨が眠って青葉かな

(二〇一八年作品より佃悦夫抄出)

人生円熟 佃悦夫

 「海程」創刊期からの参加者であり生え抜きと言える。プライバシーは断片的にしか知らないものの長年の盟友は多々。新潟県出身だが関東に出てきて、まず日逓製作所に職を得、しばらくして学校事務職となり定年まで全うしたのが公的な人生だった。
 初期の東京例会での発言はラジカルを常とし兜太にも臆することなく正面からぶつかった。同人誌から主宰制と変わったものの彼の姿勢は不動であり、ブレは皆無だった。
 作品もそのままを反映し攻め一方と言えた。若書きと言えばそれまでだが、そのエネルギーは噴射しつづけていた。もちろん作品世界は一直線の即物主義といえるほど真摯であった。虚構は無くも無いが、歴然として可視の域であった。
 作句者として漫然と才能を削っていたわけでは決して無い。
 平成元年発刊の金子兜太編『現代俳句歳時記』(チクマ秀版社)の協力者の一人として、その有能ぶりを発揮している。ふだんは特別に多弁ではないものの、発言は的を射ていただけに、この協力はかなりの貢献だったと思う。
 俳句の縁で金子夫妻の媒酌で結婚しているが数少ない一と組かも知れない。なんとその後を追う死となるとは。
 健康には人一倍心懸けていたようで各地開催のマラソン大会に七十歳台半ばのつい最近まで能う限り参加していたようだ。その死の原因は心筋梗塞(虚血性心疾患)というが、いまなお信じ難く、良く通る男性的な声を思い出す。
 金子兜太という強い磁気に吸い寄せられるように前衛俳句の作者として出発したに違いは無いが、別掲の作品は何と円熟度が高く、晦渋もなく穏やかな口語体である。肉体をとっくに突き抜けており、初期の作品からは想像も出来ない。いわゆる「ほっこり」「ふんわり」の感触である。
 その到達は彼の人生がいかに充実していたかの明らかな証左であると確信する。
 二〇一八年十二月十九日逝去、享年七十五。

『天地悠々 兜太・俳句の一本道』監督・脚本 河邑厚徳

『天地悠々 兜太・俳句の一本道』監督・脚本 河邑厚徳
上映会のお知らせです。現代俳句協会の案内を以下に転記します。
※現代俳句協会員には特別チケットがあります。

–quote–
1回目:2019年3月22日(金) 13:30〜16:00
日比谷図書文化館
千代田区日比谷公園1‒4
ゲスト:黒田杏子(俳人)

2回目:2019年4月17日(水) 13:30〜16:00
文京シビックセンター 小ホール
文京区春日1‒16‒21
ゲスト:下重暁子(作家・評論家)

3回目:2019年5月29日(水) 13:30〜16:00
文京シビックセンター 小ホール
文京区春日1‒16‒21
ゲスト:細谷亮太(聖路加国際病院 小児科医・俳人)

入場料:当日2000円(前売り1800円)
*現代俳句協会会員の皆様への特別チケット(1500円)を用意しております。お名前、希望日、枚数を明記の上、はがきまたはファックスにて現代俳句協会へお申込み下さい。チケットと郵便局の払込取扱票をお送り致します。なお、チケットのご送付は2月の半ば以降になる予定です。

スケジュール(1~3回目とも)
開場 13:30
上映 14:00〜15:15
語る会 15:25〜16:30
司会:河邑厚徳監督
主催:ピクチャーズネットワーク(株)
「天地悠々 兜太・俳句の一本道」 上映時間74分
出演:金子兜太 語り:山根基世 朗読:本田博太郎 プロデューサー:平形則安
後援・協力:現代俳句協会
特別協賛:伊藤園
協力:藤原書店
–unquote–

公式サイト:https://tota-tenchiyuyu.com/

金子兜太と「海程」その存在と歩み(2019/2/18 朝日カルチャーセンター)

金子兜太と「海程」その存在と歩み、と題して、安西 篤「海原」代表による講習会があります。 
2019年2月18日(月)13:00~14:30@朝日カルチャーセンター新宿教室
詳細は朝日カルチャーセンターウェブサイトをご覧ください。
申込は電話03-3344-1941まで。

新野 祐子句集『奔流』

新野 祐子句集『奔流』
二十句抄(野﨑憲子・抄出)

金縷梅まんさくの無数に点る故郷かな
奔流ほんりゅうのいつかうわみずざくらかな
太陽は獣の匂い木の根開く
雪代ゆきしろの渦巻く子宮かも知れず
渓谷は息吹の坩堝るつぼ多喜二の忌 (師・金子兜太他界)
除草剤降られ糸遊いとゆう血を流す
緑鳩あおばとにそばだつ耳と言霊と
うきくさのはじめは雨のひとりごと
湿原の静謐くわえ星鴉ほしがらす
鬼やんま獲物の悲鳴より食めり
かがようは石斧せきふのかけら秋耕す
太古より空埋める星鮭のぼる
秋天へ歓喜ののすり蛇提げて
子の宿るところ明るし天の川
大花野かいなを櫂にして渡ろ
雪女かの窓に雪ほうらんと
山塊は巨人の枕冬ぬくし
手袋を嵌めてみるみずかきが邪魔
望郷のどこを切っても冬怒濤
君は詩を熊は子を生むほら清ら

ほら清ら  野﨑憲子

 新野祐子さんの第一句集『奔流』は、彼女の産土である山形県白鷹町の風土に根付き逞しく出羽に生きる原日本人の血脈を強く感じる作品群である。
 金縷梅まんさくの無数に点る故郷かな
 かがようは
石斧せきふのかけら秋耕す
 
奔流ほんりゅうのいつかうわみずざくらかな
 表題にもなった三句目の「上溝桜」は、新野さんの一番好きな花と聞く。どこか種田山頭火の「濁れる水の流れつつ澄む」を想起させる。力強い作品である。続いて「師・金子兜太他界」と前書きのある
 渓谷は息吹の坩堝るつぼ多喜二の忌
 師の逝去された二月二十日は、奇しくも小林多喜二の命日。師の、多喜二の、「平和」への悲願が、未来風となり全世界へ吹き渡る予感をこの句に感じた。
 太陽は獣の匂い木の根開く
 山塊は巨人の枕冬ぬくし

 新野さんとの俳縁は一昨年の「海程」全国大会懇親会の会場から始まった。坐ったテーブルの隣同士だったのである。笑顔から山形の土の匂いが零れた。それは、句集『奔流』の頁を開く度に感じる芳しさでもある。
 雪代ゆきしろの渦巻く子宮かも知れず
 湿原の静謐くわえ
星鴉ほしがらす
 鬼やんま獲物の悲鳴より食めり

 早春の歓喜の詩であり、強烈な把握である。被食者の声まで丸ごといただいて鬼やんまは飛翔するのである。大自然への鋭い眼差しと畏敬の念を強く感じる。
 除草剤降られ糸遊いとゆう血を流す
 新野さんは、無農薬野菜の生産販売を生業にしている。大規模林道の自然破壊を危惧し、山林開発への警鐘を鳴らす運動のリーダーでもある。
 その一方では、
 緑鳩あおばとにそばだつ耳と言霊と
 
うきくさのはじめは雨のひとりごと
 子の宿るところ明るし天の川

のような情感たっぷりの作品もある。佳句満載の作品群の中から私が最も魅かれた作品を挙げて結びとしたい。
 太古より空埋める星鮭のぼる
 望郷のどこを切っても冬怒濤
 君は詩を熊は子を生む
ほら清ら
 悠久の時の流れの中、鮭は子孫を残すために最後の力をふり絞り故郷の川を遡る。それは怒濤のような望郷であり、そうしないではいられない「生きものの」性である。そしてありとあらゆる「生きもの」の真ん中には、清らかな洞がある。師の提唱された「いのちの空間」を想った。新野さんの詩世界の展開に、ますます目が離せない。味わい深い句集である。

山本 掌句集『月球儀』

◆山本掌句集『月球儀』
月面の〈存在ザイン〉―地上の「虚無」 堀本 吟

 たいへん興味深い句集である。いまだにきらきらと印象が拡散している。
 先ず書物として、意匠がただならず美しい。伊豫田晃一の装画と題字、司修の銅版画、萩原朔太郎撮影の写真。表紙とその頁々に、一幅のタブローとしての存在感がある。
 皆川博子と金子兜太の帯文がまたいい。
 「好きです。選び抜かれた表現も、その身にあるものも」(帯文・皆川博子)
 と、扉を開ける前から、胸がときめく。
 「非常に奇妙な現実執着者しゅうじゃくしゃ、/奇妙に意地悪い洞察者というか、/どこかひねくれたと思えるほどにその美意識が常識とは違っている。/混沌カオスをみとどけていこうとする作者である。」(帯文・金子兜太)
 兜太のこれは、第二句集『朱夏の柩』の序文にある別の句の鑑賞文の中から抄出されて いる。山本掌にとっては、それは、刊行を待たずに帰天した先師から贈られたもの。彼女の文学的本質をこよなく突いたもの。省略された文中、「現象の奥の現実に関心のある場合、とかくシュールレアリスム、超現実の傾向をもちがちであるが、山本はあくまでも現実に執している」とも書く。(同句集、金子兜太の序。現代俳句協会青年部フリーダム句集9。邑書林1995)。今度の句集にあっても、この言葉は羅針盤である。

 そこで、私は、本句集中の彼女の華麗な句群から何を取り出すのか、ということとなる。
 ともあれ、連作風の章立てや配列の関係をよそに、私がメモした本文のための印象句を掲げよう。
 ①残る花ふっと臓器がゆらぐかな
 ②右手めてに虚無左手ゆんでに傷痕花ミモザ
 ③月球儀おそらく分母は蝶であるザイン
 ④〈存在ザイン〉とやなべて魂魄華やぎぬ
 日常物に満ちているにもかかわらず、ここは「地球儀」ではなく『月球儀』の上なのである。数句十数句集めて月面の立体図を作る時の、山本の構成は大胆かつ巧みである。
 掲句③の系列と思える句。
  若鮎の骨美しき宇宙塵
  月球儀鮎の動悸のおくれけり
  胎ゆらぎ黄蝶白蝶モルフォ蝶
 など、五七五の定型感が心地よい。だが、内容はすこし異様で、地球上のありふれた生命体が同時に別の天体で生きているようだ。人体も蝶がいっぱい詰まった妖しい宇宙である。掲句③ではその蝶を「分母」にして月世界の細部まで、蝶の分子が分布しているのだ。原点は地上にあるが、同時存在する別世界があるのだ、と考えればいいのである。
 では、このことを、掲句④「〈存在ザイン〉とやなべて魂魄華やぎぬ」の「〈存在ザイン〉」の次元に重ねてみる。この句は、母親を哀悼した《寒牡丹ふたたび》の章にある。しかし魂魄は母のみにではなく、すべてに備わっていて「なべて華やぎぬ」である。それが彼女の言う「〈存在ザイン〉」ということだ。しかし、彼女のこの句のような共生感覚を、地上的なアニミズムかと考えてみるとそれは少し違う。兜太が喝破した山本掌の意識下の超現実とも違う。
 私の観点を述べてみる。それは、「〈存在ザイン〉」と表裏の関係にある「虚無」が今回の精神的なそして表現のテーマであることだ。むしろ現実離脱、死へ向かう心性の遍在を彼女は探っている。
 例えば、掲句②では、結句の真黄色の粒粒した花の添え方が絶妙であるが、主となるものは季語の「花ミモザ」ではない。「右手めてに虚無」にまつわるとらえがたいほどの広い思索の場、もう一つの存在界の発見である。そして「左手ゆんでの傷痕」の生の痛みの感覚。
  ぼうぼうと虚無を喰みます麦の秋
  大花野遠流のごとく虚無に棲む
  青水無月あおき空洞うろですわたくしは
 などなど。「麦秋」「花野」「青水無月」、季語の語感と美しさを愛し、けれどそこに込められている空虚さだけを摂り、季節や生活の実感から抜け出している。何もないゆえに華やぐ世界、現実の奥にある虚無界の妙な手触りに執着している。季語の本意を換骨奪胎するワザの巧みさ、又この生死の世界のアンビバレントな措き方など、実在を、言葉に転じてゆく試み、が私にはたいへん興味深い。それは直接彼女の「〈存在ザイン〉」のスケールに重なる。
 またその世界観から、掲句①のような「残る花」に感じて「臓器がゆらぐ」(「こころ」がではなく)ような特異な身体感覚も表現される。
  冬の虹脳石灰化ぞうぞうと《海馬より》
 右の句は彼女の父親の看取りの章におかれている。もう傷の痛みさえ実感できぬ老いの切なさ、そのことも、きちんと、寒い「冬の虹」という比喩のもとで見抜かれる。実存と実体に及んでくる容赦ない死の掟。しかも脳の死と入れかわり、倒錯のように、あらたに魂魄が立ちあがる気配もある。

 さて、ジャンルオーバーの発想と実践は、地上に生きる山本掌のスタイルだ。この句集の大きな読みどころでもある句集巻頭の《朔太郎・ノスタルヂア》六句は、詩人が撮影した写真に俳句を添えたもの。
  翼たためる馬かいまみし葡萄の木  掌
 (写真朔太郎撮影「馬のいる林―前橋郊外」)
 など、泰西神話を思わせる句によって、モダニズムの時代をくぐった詩と俳の、映像と言葉の交響である。
 また、最後の章《俳句から詩へ》には、
  三月の火喰獣サラマンドルを腑分けせよ  山本 掌
  井を晒すくちびる死より青かりき  加藤 かけい
 人間に火をあたえた罪でプロメテウスが神から承けた罰を、火の精霊火喰獣サラマンドルに返して「腑分けせよ」と。詩の方では火喰獣サラマンドルからの反撃という構想。加藤かけいの俳句からは、水の精オンディーヌ=オフィーリアの死と恋の物語が再生する。そこにも「虚無」と「傷痕」が措かれてある。

 かように、生が抱え込む虚無界の(あるいは死が活きる)所在をみとめ、その俳句的絵解きをしているのが、山本掌句集『月球儀』なのである、と私は読む。
(了)

「海原」各賞の創設について

「海原」各賞の創設について
「海程」を引き継ぐ「海原」各賞について、次のとおり創設することが決定しました。「海程賞」を継ぐ賞として「海原賞」、「海程新人賞」を継ぐ賞として「海原新人賞」の二賞です。新たな出発にあたって、選考委員の世代交替を図りました。昨年9月の創刊号から本年7・8月合併号までの作品が対象となります。同人・会友のますますの創作意欲の高揚を期待しています。

1.海原賞(旧海程賞に準ずる)
対象:全同人(「碇の衆」および既海程賞受賞者を除く)
対象期間:第1回2018年9月創刊号~2019年7・8月合併号
【選考委員】
安西篤/石川青狼/武田伸一/舘岡誠二/田中亜美/野﨑憲子
藤野武/堀之内長一/前川弘明/松本勇二/山中葛子/若森京子
(以上12人・五十音順)

2.海原新人賞(旧海程新人賞に準ずる)
対象:会友(海原集投句者)
対象期間:第1回2018年9月創刊号~2019年7・8月合併号
【選考委員】
大西健司/こしのゆみこ/佐孝石画/白石司子/高木一惠
武田伸一/月野ぽぽな/遠山郁好/中村晋/宮崎斗士
(以上10人・五十音順)

※上記二賞の選考結果は本年10月号に発表予定。全国大会にて顕彰します(「海原」の第1回全国大会は2019年10月12日から14日まで、香川県高松市と小豆島で開催されることが決定しています。詳細は4月号で案内予定です)。

3.公募方式による新しい賞の創設
「海原賞」「海原新人賞」のほかに、公募方式(対象は同人および会友全員)による新しい賞の創設に向けて鋭意検討中です。詳細は本年3月号に発表します。ご期待下さい。

代表安西篤/発行人武田伸一/編集人堀之内長一
「海原」実務運営委員長柳生正名

金子兜太先生の一周忌墓参と吟行合宿in秩父

「金子兜太先生の一周忌墓参と吟行合宿in秩父」のご案内
【開催日】2019年2月16日(土)~17日(日)
【宿泊】長生館(秩父鉄道「長瀞駅」近く)
 〒369―1305 埼玉県秩父郡長瀞町長瀞449
 電話:0494―66―1113
【参加費】20,000円(予定)
【スケジュール概要】
◇2月16日(土)
 12:30~13:00 長生館にて受付
 13:00~ バスにて吟行
 (お墓参り、壺春堂の新しい先生の句碑、ヤマブ皆野椋神社門前店など)
 17:00 第一次句会出句締切出句二句
 18:00~ 夕食
 19:30~ 第一次句会
 句会終了後、懇親会
◇2月17日(日)
 7:30~ 朝食
 8:00 第二次句会出句締切出句二句
 9:00 第二次句会
 句会終了後、現地解散
 続けて、17日(日)午後~18日(月) 有志一泊旅行を開催します。
◇申込み締切:2月3日(日)
※一人部屋は参加費+8,000円(参加者数によっては一人部屋をご用意できない場合がありますのでご了承ください)
【申込み・問合わせ先】
 〒182‐0036 東京都調布市飛田給2‐29‐1‐401 宮崎斗士あて
 電話:070‐5555‐1523 FAX:042‐486‐1938
 メール:tosmiya☆d1.dion.ne.jp(☆→@)
以上
海原実行委員会