哀悼 中村ヨシオ 植田郁一

『海原』No.49(2023/6/1発行)誌面より

◆特別作品15句

哀悼 中村ヨシオ 植田郁一

味噌麹まるで月面つぶらな瞳
生まれ育った紀州の海よ背は竜神
麹に育てられし慈顔温顔九代目
紀伊水道霧の三叉路灯の五叉路
出船入船天田屋文ヱ門の前通る
君との出会い緑樹木洩れ日掌の温もり
建長・円覚肩抱き合っている萬緑
甲子男・さかえ・完市・君まで逝く極月
どれほど辛かったか食べさせられなかった桜餅
忌中と知って汽笛噎せつつ毀すなり
山菜採りにも焼きおにぎりに味噌塗って
金山寺味噌袖に包んで若き僧
忌中整然赤味噌白味噌合わせ味噌
弔問か吉野桜の花ひとひら
竜神の竜に攫われ逝きしかな

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