雪の賦 北村美都子

『海原』No.25(2021/1/1発行)誌面より

◆特別作品30句
 第21回現代俳句協会年度作品賞佳作

雪の賦 北村美都子

直線のひしめきてビル群に雪
雪暗や河口に途絶え街の音
姿見の奥のあおあお雪が来る
雪の夜の薬包ふたつひとりずつ
子規の句の雪の深さとなりにけり
降る雪の降るままにここ母のくに
雪襖みつめくれしを炉火と呼ぶ
子狐のおはなし小米雪ささささ
雪無限母の部屋より数え唄
樅の木の雪の降る日は雪の木に
深慮ここに雪を被きし樅一樹
生月はまた永逝のとき六花
葬の門雪踏みひらき踏みかため
回廊に佇むは誰 霏々と雪
奥の間に黙の坐せる雪の真夜
うつばりや累代のこえ雪の声
縄文の雪とよもせる火焔土器
雪しまく土偶のまなこ瞠らせて
地吹雪の止むや一村あたらしく
切り岸の地層ありあり雪霽るる
雪折に止まりて鴉落ちつかず
山ふたつ抜けるトンネル雪の花
雪晴の平野を描き鳶の輪
歎声のいまし雪嶺夕映えて
芳書一通病中見舞雪月夜
雪後の天より点滴の滴・滴・滴
読みさしの詩集一篇風花す
病み抜きし頰剃られおり牡丹雪
春雪や諸手を合わせ洗う箸
ゆきやまに稜線われに心電図

(現代俳句協会『現代俳句』二〇二〇年十月号より転載)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です