一枚だけの紙 たけなか華那

『海原』No.26(2021/3/1発行)誌面より

◆第2回海原新人賞受賞 特別作品20句

一枚だけの紙 たけなか華那

蒸気時計が叫ぶ父に最後の冬
一日に一枚だけの紙ください冬の青空
寒月 ナツメ灯点すだけの部屋
運河にハスゴオリ愛に致死量がある
枯渇する魂ENTERキーをさがす
雨氷林背ぶるいして風はくる
響き渡る凍裂トドマツの遺言
冬の教科書オールドローズは風
紫大根擦る夜が明けるようだ
盲目の犬の心音初雪なのです
窓をたたく冬の蜂心臓はここだよ
ビワは咲いたあなたはわたしを殴れない
石ころが添い寝をする冬の菫
鳩が辺に並ぶ落葉のない小学校
蜜柑をもむひとりがいいのはスネてる証拠
捻りこむ命の芯地吹雪を行く
流れつく異邦の欠片此処から冬
顕れるものみな昏し砕氷船
空が混じって冬野がすこし横
冬日差しぼんやり生命の影ぼうし

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