あたたかいくぼみ 小松敦

『海原』No.26(2021/3/1発行)誌面より

◆第2回海原新人賞受賞 特別作品20句

あたたかいくぼみ 小松敦

月白の匂い始める部屋を出て
ひらがなの丘に枯葉の海望む
ふたりとも青の体温焼りんご
あたたかいくぼみに違う生きものと
住んでいる体の中に陽炎える
もう少し待って羽化したての右手
レモン汁ぱっとあかるくなった顔
振り向くと振り向いている青時雨
初めての人もう一人夏薊
はまなすの花今日までの映画館
夕凪の階段なんの笑顔かな
青岬夏から夏へ出す手紙
からっぽの海辺に落ちていた小壜
きらめいているのも知らず蝸牛
温かな肌に目覚める卵かな
冬蛹だんだん世界できあがる
流氷期語りかけても咲きません
搭乗を待つ魂等エアポート
旅人を追いかける声春障子
手の届くところにいつもひらひらと

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