追悼 松本孜 遺句抄

『海原』No.54(2023/12/1発行)誌面より

追悼 松本孜 遺句抄

丹波かな金の初日が山の端に
春確か命の水の動き出す
我が世なり句にのめり込む春炬燵
ものの芽のしかと大地を抱くかな
田を植える我に手を振る下校の子
黒大豆家族総出で種を撒く
畦塗って田は一面の水鏡
梅雨続く泥長靴を重くして
痩せ蛙持て余したる手を広ぐ
老人の水田を守るに汗五斗
デカンショに疲れし妻に風呂沸かす
農夫弾む黒枝豆の幟かな
座敷まで上がるサービス太神楽
冬晴れやトラクラー田へ驀地まっしぐら
山鳥も狐もいたよ裏山は
独楽廻す丹波で鍛えた少年期
かりそめならず句作に唸る霜夜かな
人の世は戦の歴史敗戦忌
山車だし並ぶ稲穂の中を一列に
 (海原関西スクール9月講座)
スマホの世軽薄社会の近代化 (カカオ句会第18回)
(谷口道子・抄出)

農に生き、俳句を愛した孜さん 谷口道子

 ほんとに信じられないほど急な訃報でした。海原9月号で丹波黒豆についての投稿を目にしたばかりでした。
 松本さんは疎開先の丹波篠山の高校を卒業後、国が募集する畜産技術者一期生として全国七名のうちの一名に選ばれ、北海道で研修後、地元の酪農普及に尽力されました。稲作、丹波黒豆は勿論、リンゴ、山の芋など新しい農業にもチャレンジされてきました。昨年上梓された句集には「丹波笹山黒大豆」と命名されています。
 オンライン句会開始を機に、87歳にしてスマホを購入され、FAXや電話での助言を頼りに、独力で接続されるまでになられました。チャレンジ精神の面目躍如の感ありです。図書館で目にした兜太先生の句や反戦思想に感銘を受け、海程に入会されたそうです。
 9月4日の未明、普段と変わりないご様子ながら朝食に起きてこられなかったそうです。枕元に句帳を置かれ、眠っているかのような安らかなお顔だったと聞いています。ここに記して、ご冥福をお祈りいたします。
 2023年9月4日に死去、享年88。

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