第2回兜太祭 レポート(一部抜粋)

『海原』No.59(2024/6/1発行)誌面より

第2回兜太祭 レポート(一部抜粋)

とき:2024年3月23日(土)~25日(月)
(有志一泊吟行含む)
ところ:秩父長瀞「長生館」
(有志一泊吟行は「ホテルルートインgrand秩父」)

●第一日●墓参と壺春堂吟行
沁みる吟行 山下一夫

 当日午前に熊谷から秩父鉄道に乗ると、粉雪が舞い始めて道中の車窓風景はかすみがちだったが、長瀞に着くころには止んでいた。
 会場長生館ロビーは参加者で大賑わい。一台のバスにぎっしりと三十人足らずが乗り込んだ。車中は相当の「密」だったがマスク着用は少数派。コロナ明けを実感する中でお祭りは始まった。
 金子先生ご夫妻の墓所がある総持寺に到着するとご子息眞土さんが出迎えてくださった。花咲く草木に「ダンコウバイ」「オドリコソウ」「フクジュソウ」などの声がして、すかさず何人かが句帳に何やら書き込む。
 先生のご実家のお墓は弟千侍さんが継承され、ご夫妻は妻皆子さん実家の菩提寺に墓所を置かれた由。その場所は境内西側の斜面にあり、供養塔とお墓、墓誌の三体が並び立つ。お墓の正面は東を向いており藪越しに長瀞一帯を望んでいる。墓所の手前にある句碑〈ぎらぎらの朝日子照らす自然かな 兜太〉を実景とする場所と見受けられた。
 小径からの滑落に注意しつつ墓前に集合。宮崎斗士が代表で献花し香を焚いて一同合掌。折しも日のある空から霙様のものが降り始め「天気雨」「狐雨」「日照雨・戯(そばえ)」「風情」「先生からの挨拶」などの言葉が交錯した。
 納経所ではお茶と「おまもり」の木の実が振る舞われた。屋内の壁に先生寄贈の色紙が年順に飾られている。ご住職の説明どおり、年々墨跡が太くなっていた。番茶の香や温もりも相まってほっこりした。
 次に先生の生家「壺春堂」を訪問。築百五十年超の古民家で国の登録有形文化財(建造物)「旧壺春堂醫院主屋・土蔵」になっており、一般財団法人「兜太・産土の会」により運営されている。敷地内には甥桃刀さんが院長の「金子医院」も現存する。
 主屋入口すぐの座敷のテーブルには実物大の先生の遺影が飾られており、まず目を奪われる。良い笑みを湛えておられる。各室には父伊昔紅ゆかりの有名俳人や地元句友らの筆による短冊、往時の先生の屑繭製の白チョッキや海軍の白軍服、出征決意の日記などが展示。小学校時の作文帳や通信簿(全甲)の実物が手に取れる状態で置かれているのには驚かされた。青年時代の筆跡は秀麗で、幼年時代のものは晩年に似ていた。
 土間が改装されたカフェではボランティアの女性らのご接待。庭の句碑〈おおかみを龍神と呼ぶ山の民 兜太〉を見に出ると冬枯れ残りの故かさまざまな大きさと種類の石が目に付いた。先生の昔語りにあった醫院の受診料代わりの庭石・花木のエピソードが偲ばれた。
 しばしの吟行だったが、金子先生を揺籃した産土秩父の風土や養蚕、醫院、句会、秩父音頭などにまつわる膨大な人たちの往来の濃厚な気配が沁みるひとときだった。

●第一日●第一次句会
生き続ける師の心 齊藤しじみ

 第一次句会は夕食後、午後七時半過ぎから約三時間にわたって行われた。選句・披講のあと、宮崎斗士の司会で、川田由美子、遠山郁好、堀之内長一、望月士郎の四人を特別選者(安西篤代表は自宅にて選句)に迎え、出席者の60句をめぐって合評が行われた。
 高点句の順に主な句は次のとおり。

  水の春フリーハンドでわたしの円 宮崎斗士

 10点句。兜太祭参加者の感覚を代表しているとの高い評価で特別選者全員が選んだ。冒頭いきなり、司会者が最多得点句の栄誉に浴したことに会場から思わず歓声が上がった。

  合掌にかすかなすきま木の芽風 望月士郎

 9点句。ささやかな身体的な出来事に着目した現実的な感覚に高い評価。その一方で、堀之内からは「『合掌』を使った句は多く、これは類想句。現代俳句協会は最近では賞の選考で類想句かどうかの評価基準が極めて厳しくなっている」と指摘したことで、その指摘の適否をめぐって熱い議論が交わされた。
 7点句は3句。

  人肌の巣箱の底に丸くなる 小松敦
  人の生む光あたたか壺春堂 高木一惠
  雪やなぎそよと不在の置手紙 川田由美子

 6点句は2句。

  あかるい雨先生六度目の春ですね 室田洋子
  言の葉が生まれたがつて夕陽炎 野﨑憲子

 5点句は5句。

  春陰の軍服も屑繭も真っ白 森由美子
  緑泥片岩ぎこちない春の着地 鳥山由貴子
  早春展墓大字産土字生きもの 柳生正名
  まんさく咲くするするっと素となる 日高玲
  繃帯のゆるみを覚ゆ春の瀞 北川コト

 出句60句のうち、兜太先生やそのゆかりの場所や品などを題材にした作品は約20句に上り、全体の三分の一を占めた。
 逝去から六年経つ今も、「海原」に集う私たちの心には師が生き続けていることをあらためて印象づける句会にもなった。


※以下、第四次句会まで続きますが本ウェブサイト掲載は割愛します。『海原』本誌でご覧ください。
●第二日●第二次句会 活発で遠慮なき合評 野口佐稔
●第二日●第三次句会 有志吟行 吟行句のさまざま 日高玲
●第三日●第四次句会 有志吟行 締めくくりは「TOTAバッグ」で 石橋いろり

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