句集『時疫』藤田敦子(全50句)

『海原』No.26(2021/3/1発行)誌面より

◆句集『時疫ときのえ』藤田敦子(全50句)

大寒の雲雀警告かもしれず
桜冬芽祈るかたちの朝かな
震災忌しばれる夜の飛行機雲
首都閉鎖桜隠しの降り積もる
春を待ち春を弔う桜かな
さくらさくら時疫の咳ひとつ
迂闊にも涙四温の雨をゆく
ことさらに鎮魂の碑の春しづか
足裏に下萌鎮め畑の道
街騒の夜は戻りぬ猫の恋
球音や山少しずつ笑いだす
蘖や十八歳の世帯主
啓蟄や人は蟄居をしています
清やかに蛇穴を捨て山を捨て
都市の肺浄めて咲けり黄水仙
火焔てふ名や三月を葬れり
千羽鶴解く春霖に色褪せて
供花届かず叔父逝きし春に
春夕焼先の見えない城下かな
木のベンチ座るヒト蜂ヒトの距離
うららかに言葉交わさず触れ合わず
とりどりのマスクを洗う春の宵
卒業や雨は射さずに撫でるごと
ずる休みしているような町うらら
チューリップはらり分散登校日
思春期が終わってしまうねぎ坊主
薫風や顔半分で生きている
手を洗うまた手を洗う青葉騒
クレゾール匂う初夏の教室
自粛ってラムネの瓶のガラス玉
夏蝶の生死の地表離れをり
黒南風やみなと食堂閉店す
夕焼やニュースは今日の死を数え
孤独というくぼみダリアの咲きはじめ
令状を掲げるごとく白雨来る
ガーベラや静かに帰る救急車
病院ラジオ最後の未来たる晩夏
防護服脱いで裸足のリノリウム
立ち尽くす背中に明るすぎる夏
冷奴喪服を脱げば兄妹
夕凪やどこへもゆかぬ亡父とゐる
再びの封鎖に黴の花白く
ででむしの乾ききったる子供部屋
夏空をみんなどこかへゆく途中
黙祷の昼サンダルの細き脛
八月の光は生命線で受く
カラメルの匂いや母の終戦日
災禍の水集め噴水立ち上がる
列島や災間を生き涼新た
星涼し自分に語る物語


藤田敦子さん(愛媛県松山市)が句集『時疫』を刊行した(二〇二一年一月一日、発行所・マルコボ.コム、跋・松本勇二)。送り状に「急な事ですが、今しかできないと思い、コロナ50句をまとめました。半年間の地方都市の日常、学校の実感です。一日も早いコロナ感染の終息を祈念して」とあった。今だからこそのテーマであり、多くの方々に読んでいただきたいと考え、収載された全50句をすべて紹介する。●編集部

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