古里のその古里 立川瑠璃

『海原』No.57(2024/4/1発行)誌面より

第5回海原新人賞受賞 特別作品20句

古里のその古里 立川瑠璃

古里のその古里は蜃気楼
記憶の扉明ける朧に祖母がいる
春三日月地平のわが身浸しつつ
非人称の町角はみな花の匂い
方言も人も吹雪いて地方都市
春宵の大正町に寿三郎
静謐を乱して霧の古墳群
祝橋元に還れぬ半仙戯
春野から時の旅する吾が見える
空中ブランコ命綱なき燕
見世物の懈怠が笑う草迷宮
三次東座春燈太く弛みけり
習俗や一夜明ければ形代となり
絵のような陽炎のような寂しき者ら
メメントモリ柔らかに桜時はなどきは過ぐ
深遠に既視感ありて鵜飼船
記憶痕跡めくられて無月の頁
初蝶来て詩想の暗示の如く消ゆ
霧の海鮫食む人が棲むといふ
断章や鏡の中の梅ふふむ

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