句会報:2025年10月「海原オンライン句会」

2025年10月は10/18(土)にZoom句会を実施。
今回も回答任意でアンケートを実施。
Q:俳句が楽しい、と感じるのはどんな時ですか
結果はこちら


句会報:2025年10月「海原オンライン句会」

【高点句】(5点以上)

十六夜のそっと回すや鍵の音 満葉

溶け残る角砂糖秋雨の街 向井麻代

逝く夏やサイクリストのふくらはぎ 川嶋安起夫

刺蛾の繭全部忘れるけどまたね 小松敦

フラスコで遊ぶ少年月夜茸 桂凜火

水澄めり神うたがはぬ人のゐて 大浦ともこ

赤とんぼ承認欲求つきまとふ 木村寛伸

空撃ちの言葉のゆくえ真葛原 黒済泰子

【参加者各一句】(高点句以外)

打ち水や地球の裂け目冷やしおり 樹下修司

見つからぬ出口畳に秋扇 野口思づゑ

一人来て風となりゆく花野かな 原洋一

白のない更のクレヨン星月夜 門司侑里

秋拾う柴犬の鼻黒く濡れ あかり

シーツの皺なかったことに彼岸花 有馬育代

実柘榴の笑むときすこし声を出す 榎本祐子

ついて来る紙飛行機という秋思 男波弘志

うなづきは風のまにまにゑのこ草 坂川花蓮

シュートする秋がちっとも入らない 平田薫

芒ハラ着信音ノ彷徨ヘリ 矢野二十四

横笛の女子の腹筋里神楽 石川まゆみ

ゆふがほの初恋をまだ知らざりき 石鎚優

二十五度の空 冬支度始める 井上勉

何に舞ふ鎮守の森に鷹柱 花舎薫

少年に清潔な夜や胡桃割る 小西瞬夏

ポシェットのアイフォーン重し海猫帰る さかいまゆみ

鳥渡る生温かき水歯科治療 貞行

めだかの子先ず素粒子の動きから 塩野正春

ちよいと手を貸してやりたきばつたんこ 長谷歌子

秋落暉地獄の沙汰の途中かな 源汰

週いちのトイレ掃除や赤まんま 大文字良

さすらふにあらず落鮎とびはねて 樽谷宗寛

門前に大輪朝顔老夫婦 野口佐稔

真言の読経はひびく花野越え 坂内まんさく

主張する地蔵の首や秋暑し 姫

語り継ぐ自動音声秋の虹 田中信克

   ◇

 今月は初参加2名(選句のみ1名)を含む36名。うち14名は「海原」以外からの参加。最高点は10点「十六夜の」、躊躇いがちに昇る光の中に鍵を回す。「や」で切ることで密やかな「音」が際立つ。「そっと」回さねばならないのは何の「鍵」か、読者それぞれに想像が膨らむ。採らない人からは「十六夜」「そっと」「鍵」いずれも秘めやかで単調。モチーフが古臭いとの声もあった。6点「溶け残る」、喫茶店の窓際の席に佇む人の時間が見える。既視感あり、暗いとの声もあるが、採った人はノスタルジックでアンニュイな気分としてそれを好む。韻律を整えて「角砂糖秋雨の街が溶け残る」の提案もあった。以下5点「逝く夏や」、映像鮮明。「ふくらはぎ」をクローズアップ。この即物性が好き。「刺蛾の繭」、固い繭に閉じこもっているうちに「全部忘れる」。「けどまたね」なんて、切なくて温かい。よくわからないが「またね」に惹かれた。「フラスコで」、丸い透明な空間に色んな化学現象が起こる。少年の純真ばかりでなく「月夜茸」の発光する妖しさ、怖さもある。「少年」に限定しない方がいいとの声も。「水澄めり」、ピュアな信仰心を前にした感心か揶揄か警鐘か。「ゐて」をどう読むか。理屈っぽいとの声もあるが、自分を内省する契機となったという人も。「赤とんぼ」、「承認欲求」という観念的な言葉を敢えて果敢に取り込んだ。心理学用語として昔からある言葉だが近年SNSと共に注目された。この言葉に新鮮味を感じた人は採った。「空撃ちの」、「空撃ちの言葉」とはどんな言葉か。心がこもらない「言葉」は誰にも響かない。あるいは、発しても誰も反応しない「言葉」。後には茫漠とした「真葛原」の心境。抽象的でモノが現れてこないという意見もあり、俳句における「観念」や「物象感」が話題になったが、話し合う時間がなかった。金子兜太も「具体性」や「物象感」を大事にした(※)。
※参考サイト
「具体性の強さ」
「土がたわれは」
「現代俳句の本格」
「自然のもの」
「〈自然のもの〉について」
「こっけい(講演)」

今月の「金子兜太・語録」は「金子兜太第十四句集『日常』あとがき」
「海原」ホームページの「海原テラス」コーナーをご覧ください。

(記:「海原」小松敦)

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