『海原』No.15(2020/1/1発行)誌面より。
《誌上シンポジウム》 金子兜太最後の句集『百年』を読む
2019年9月28日、文京シビックセンター・小ホール(東京都文京区春日)において、「金子兜太最後の言葉、最後の句集」と題する催しが開かれた。内容は、次のとおりである。
◇第一部映画「天地悠々兜太・俳句の一本道」上映
◇第二部河邑厚徳監督スピーチ「最後の言葉について」
◇第三部最後の句集『百年』を読む
① 「海原」安西篤代表のスピーチ―宮崎斗士によるインタビュー形式
② 「海原」会員のパネリストによるシンポジウム
司会:宮崎斗士
パネリスト:小松敦/高木一惠/遠山郁好/柳生正名(五十音順)
《発言内容》
1 句集『百年』共鳴句(注目句)5句の鑑賞
2「金子兜太最後の九句」に関してのコメントおよび鑑賞
3 句集『百年』全体を通しての感想や総評
今回は、4名のパネリストに当日の発言内容をコンパクトにまとめていただいた。名付けて《誌上シンポジウム》である。
各パネリストが読み解く句集『百年』の魅力、多彩な世界の広がりと深さを味わっていただきたい。
<発言1> 「他界」としての『百年』 小松敦
<発言2> 新たに開かれた道で 高木一惠
<発言3> 韻律と映像、そして幻想 遠山郁好
<発言4> 「生きもの」としての尊厳 柳生正名
■金子兜太最後の九句(二○一八年一月二六日〜二月五日)
雪晴れに一切が沈黙す
雪晴れのあそこかしこの友黙まる
友窓口にあり春の女性の友ありき
犬も猫も雪に沈めりわれらもまた
さすらいに雪ふる二日入浴す
さすらいに入浴の日あり誰が決めた
さすらいに入浴ありと親しみぬ
河より掛け声さすらいの終るその日
陽の柔わら歩ききれない遠い家
■金子兜太句集『百年』十五句抄
昭和通りの梅雨を戦中派が歩く
初富士と浅間山の間青し両神山
裸身の妻の局部まで画き戦死せり
三月十日も十一日も鳥帰る
被曝の人や牛や夏野をただ歩く
雲は秋運命という雲も混じるよ
白寿過ぎねば長寿にあらず初山河
干柿に頭ぶつけてわれは生く
オリオン出づ百歳までは唯の歳
死と言わず他界と言いて初霞
朝蟬よ若者逝きて何んの国ぞ
戦さあるな人喰い鮫の宴あるな
妻の墓に顔近づけてわが足長蜂
まず勢いを持てそのまま貫けと冬の花
秩父の猪よ星影と冬を眠れ
(句集『百年』の帯に記された十五句をもとに、パネラーの選句と重ならないように選出/編集部)
金子兜太第十五句集『百年』
出版社:朔出版
発行:2019年9月23日
編集:「海原」俳句会・句集『百年』刊行委員会