「海原」オンライン句会参加者からのリクエストにお応えして、毎月、金子兜太の言葉を抜き書きするコーナー「金子兜太・語録」を句会資料に設けています。同じ内容をこのコーナー「海原テラス」に転載します。
【八二】〈自然〉
(『金子兜太の俳句入門』角川ソフィア文庫2012年 より抜粋)
俳諧とは、戯れ和するための心情伝達の工夫、つまりは、言葉の工夫のさまざまなり、と述べてきましたが、いいかえれば、自分のこころを相手に伝えるための工夫ということです。
したがって、言葉を使わない伝え方だってあるわけで、以心伝心とか腹芸とかいわれていることがそれです。「間」が大事とされ、「おとぼけ」が面白がられます。これは日本人に特徴的な表現方法だという人もいます。短歌や俳句のような短い詩が、二千年以上も愛用されてきた背景には、私たちの「言外の言」に敏感な資質が、大きく働いていることは間違いありません。
そうしたことも含めて、〈自然〉つまり〈ありのまま〉ということがなによりも大事とされる事情も諒解できるのです。いくら言葉を工夫し多用しても、ありのままのひとことにはかなわないわけで、俳諧の究極が、つまり、こころの伝え方のあらゆる工夫の行きつく先が、このありのままにあると私も考えています。
俳諧は〈自然〉に極まる、といい切ってもよいのです。いや、俳句を書くということの行きつく先もここにある、といい切っておきたい。
(p191~192)