『海原』No.17(2020/4/1発行)誌面より
◆榎本祐子句集『蝶の骨格』二十句抄(藤野武・抄出)
雨粒を拾う眠りの染みており
髪梳けば背に谿裂ける晩秋
触診のとき藻刈舟すべり出づ
春の波踏んで哀しい尿意かな
萍を片寄せ流離はじまりぬ
冬の家皆正座して鯉食べる
蝶が湧く洞のあり誰にも言わぬ
還暦や土筆ぎくしゃく煮殺して
韮臭き体夜雨に入れにけり
蔓草の絡まる速度ひきこもり
胸の辺にありて揚羽の水飲み場
もの忘れ芒にこつん風にこつん
冬麗や完璧な横顔の過ぐ
逢いに行く落ちし椿を縫い合わせ
春立つ日遊んで胸のぬた場かな
四葩咲く生臭きもの日々食べて
いきものの素足や月に触れてゆく
花のとき母は叩いてブリキの太鼓
ゆったりと行間白鷲の狩り場
さわさわとこおろぎの寄る枕かな