『海原』No.37(2022/4/1発行)誌面より
追悼 小宮豊和 遺句抄
ヒヤシンス謀叛のように退職す
草若葉蒙古は陸に封じられ
愚鈍でも良いではないか葱坊主
ほんとうは異国の孤独牛蛙
クローバーの花編みつづけ居なくなる
遠蛙寝台特急の昭和
生あれば吸気の香り青い風
若く映る床屋の鏡五月なり
蜘蛛の糸忖度なる語すでに死語
原爆ドームに野晒しの鬼気初夏の川
蛍火は生き流れ星死ににけり
誠実に水沼なせり鳥渡る
果肉薄き哀しみ赤し烏瓜
小鳥来る酒肆あり風の道にあり
裏山やどんぐりならば余ってる
かなしみを置いて翔つ帰燕もあろう
うずくまる藁塚藁塚たるに倦み
腕で思い脚で考え桑枯れる
青く青く木枯走る空がある
鳥獣虫魚木霊の語る冬の森
(宮崎斗士・抄出)
また、会いましょう 宮崎斗士
小宮豊和さんには、私が運営している句会、東京都区句会、青山俳句工場にご参加いただき、また「海程」東京例会を始め、秩父俳句道場や全国大会、一泊吟行会などにも積極的にご参加いただいていた。
ご家族の都合で故郷の群馬県を離れられてからは、直にお会いする機会が減ってしまったが、ずっと青山俳句工場句会(通信句会)にて交流を深めてきた。
ご遺族からのお葉書で昨年の十二月二十八日に逝去されたことを知る。享年八十一。令和に入ってから(コロナ禍の影響もあって)一度もお会いできなかったのが悔やまれる。
機関誌「青山俳句工場」には「工員矢の如し」というエッセイの欄がある。小宮さんを偲ぶよすがとして、そこに掲載された小宮さんの文章をいくつか紹介させていただきたい。
――昭和十五年群馬県生まれ。育ちも群馬県。平成十二年までサラリーマン。定年まで営業関係の仕事。転勤多数回。海程入会は定年を二年ほど経過後。自分で「まあまあ」と思える句が、二、三十句出来れば、と思っている。従って天寿いっぱい句作するつもりである。
――思い出に残る自句は、
遠蛙寝台特急の昭和 豊和
「海程」全国大会でお褒めの言葉をいただいた一句。新幹線や航空機の旅が一般的となって、寝台特急がばたばたと姿を消した。いま体験するとしたらシベリア鉄道あたりか。旅情を味わうとしたら、他には体力の限りの鈍行各駅停車の旅などどうだろう。
――私は霊魂の不滅を信じている。人の死とはこの世、三次元の世界から、あの世、四次元以上の世界への移行である。人は死んでから行った世界で修業し、より上の世界へ進んで行くのだと考える。人の死については、私は故人との一時期な別れという意識が強い。故人が消滅してしまったり、全く無関係な別世界へ行ってしまうという感覚は無い。死を永遠の別れとは思わないのである。またあの世で会うか、転生輪廻して後世のこの世で会うか、意識し合う限り無関係ではあり得ない。
小宮さん、いろいろとお世話になりました。今度会った時は、またあの頃のように俳句の話、四方山話でとことん酌み交わしましょう。