第80回現代俳句協会賞特別賞 董振華 句集『静涵』 自選20句

『海原』No.74(2025/12/1発行)誌面より

第80回現代俳句協会賞特別賞
董振華 句集『静涵』 自選20句

羽透けるものらの春となりにけり
春眠のわたくし鳥になる途中
春眠深し釈迦の掌中かもしれぬ
自由詩のごと春雨に濡れ渋谷
司馬遷の筆に解けゆく幾春光
夏蝶来て目じりのあたり闇匂う
屈原を憶えば夏の月満ちて
俳諧有情真夏の月にひっかかる
松棺に永眠の母よ赤睡蓮
空蟬や生きるは死ぬに寄りかかる
ちっち蟬われは孤独に忙しい
空をゆく天馬のように秋思かな
斜陽いま秩父皆野の曼珠沙華
おほかみの咆哮ののちいくさ無し
冬夕焼だれも知らない死後の景
天狼に逢うまでわれの彷徨いぬ
霜晴れを競り合う羽根の眩しさよ
雪月夜われのみが知るパスワード
満山の霧氷の白を一会とす
憂国われら杜甫に似て杜甫とならず

《受賞の言葉》

静かにうるお

 この度、拙句集『静涵』による現代俳句協会賞特別賞を頂き、身に余る光栄です。ここに選考委員の皆様、並びに「海原」の句友をはじめ日頃より俳句を通じてご指導、ご交誼を賜っている多くの方々に心よりお礼を申し上げます。
 句集『静涵』は、自らの内面と向き合いながら、日常の襞や季節の揺らぎに耳を澄ませ、言葉の一言一言を掬うようにして紡いだ句集です。「静かにうるおう」という題名の通り、派手な技巧や声高な主張よりも、余白と沈黙に託されたものを大切にしたいという思いで、作り続けてきました。そのような一冊がご評価を頂いたことは何よりの励みです。
 俳句は日本語という言語に根ざした詩型でありながら、その内奥にある感性や精神性は、国や文化の壁を越えて届きうるものと信じています。
 今回の受賞は俳句の可能性が更に広がり、より多くの人に開かれた場となるための一つの契機と捉えています。今後も世界に開かれた俳句の在り方を模索しつつ、精進していく所存です。

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