『海原』No.68(2025/5/1発行)誌面より
『語りたい俳人』刊行への思い 董 振華
二〇二二年夏、『語りたい兜太』の取材のため、高野ムツオ氏にインタビューした。余談で氏は「一人の俳人を多くの人々が語るのも良いが、一人が一人を語るのも面白い。きっと董君の勉強になる」とおっしゃった。その助言により、本書を実現したい思いが膨らんできた。
その理由は三つある。
第一に、黒田杏子氏の著書『証言・昭和の俳句』の啓発で、似た形で『語りたい兜太 伝えたい兜太』と『兜太を語る』と『語りたい龍太 伝えたい龍太』を編著できたこと。
第二に、『語りたい兜太』で酒井弘司氏から話を聞いた際、「高柳重信がかつて『俳人っていうのは寂しいもんですね』とよく言っていた。『どういうことですか』と聞いたら『いや、亡くなってしまった俳人を語り継ぐ新しい俳人ってなかなかいないじゃないか。いい俳句を書いた俳人についてはそれを継承し、語り継ぐことが一番大事なことじゃないか』と話されたことがある」と語って下さった。語り継ぐことが如何に重要で有意義であるかが明確である。
第三に、俳句を始めてから句作のみ勉強してきたが、俳句史について系統的に学ぶことはなかった。また、大学時代の日本文学の授業では、俳句と俳句史に関する内容は八コマ分のみ。そして、二〇一五年、諸事情で作句を一時中断。兜太師が亡くなった翌二〇一九年四月から五年ぶりに作句を再開し、本格的に俳句史を勉強しようと思い、漢詩、和歌、俳句の関係や俳諧から俳句までの変遷、代表的な俳人を含めて時代を追って、一通り整理してきたが、近現代に入ると、俳人の数の多いことと師系の複雑なこと、そして新傾向俳句と花鳥諷詠、客観写生、新興俳句、人間探求派、社会性俳句、前衛俳句等についての概念や内容への理解はまだまだ追いついていなかった。私にとって最初は「兜太論」を書くために始めたインタビュー集であるが、この仕事を進めるうちに、より広く俳句史と俳人史を知りたいと考えるようになった。
二〇二三年の秋頃、別件で高野氏に電話の折、「高野さんからアイデアを頂いた『一名の俳人が一名の俳人について語る』本をぜひ実現したい」と思いを伝えた。高野氏は「ぜひやりましょう」と快く監修を引き受けてくださった。
二〇二四年三月三十日、仕事で上京した高野氏とコールサック社鈴木比佐雄代表と打ち合わせを行った。語るべき俳人が大勢いるため、高野氏の提案で『証言・昭和の俳句』の十三人をのぞき、兜太・龍太以降の一回り若い世代の物故俳人に限定した。最終的には二十四名の物故俳人とそれぞれの語り手のお名前が挙がり、書名は『語りたい俳人―師を語る 友を語る』に決まった。語り手の二十四人の皆様は、現在、俳句界や文芸界で活躍中の代表的な方々ばかり。一人一人が語る師や友は実に多彩で興味深い。物故俳人の句業を知ることができる本書がお役に立てれば、この上ない幸せである。
董振華 聞き手・編著/高野ムツオ 監修
『語りたい俳人 師を語る友を語る ― 24人の証言 上』
『語りたい俳人 師を語る友を語る ― 24人の証言 下』