『海原』No.64(2024/12/1発行)誌面より
☆第25回現代俳句協会年度作品賞佳作
そらいろの空箱 望月士郎
霧の駅ひとりのみんな降りて霧
そらいろの空箱かさねゆく秋思
流星や詩片がすっと指を切る
からだからだれか逃げゆく月の道
月そっと心療内科を開きます
血の色の実の生っている寒さかな
開戦日日の丸という赤き穴
綿虫と白息まざりわたしたち
空白のまあるく抱いている兎
雨は雪に小さな骨はピッコロに
一月一日一重まぶたの妻といる
失ったピースに嵌める冬の蝶
冬の葬みんなちいさな兎憑き
いいかけてそっと平目を裏返す
絵本閉じれば象は二つに折れ寒夜
胸びれに尾ひれの触れて春の宵
早蕨がグーをだすからパーを出す
人ひとひら桜ひとひら小さな駅
入学式ちりめんじゃこの中に蛸
嬉しくてスイートピーのぐるぐる巻き
死者の眼で妻見ることもアオバズク
火取る虫あの世の片端にこの世
転生の途中夜店をかいま見る
大山椒魚無実の罪のようにかな
夕端居わたしの暮してきた躰
思い出しながら描く地図青山河
くちなしが私を嗅いでいる夜風
にんげんの流れるプール昼の月
心臓は四部屋リビングに金魚
8月の8をひねって0とする