★第79回現代俳句協会賞自選30句★句集『妖精女王マブの洞窟』マブソン青眼

『海原』No.64(2024/12/1発行)誌面より

★第79回現代俳句協会賞自選30句

句集『妖精女王マブの洞窟』 マブソン青眼

妖精の女王はMABとや蝶とぶつかる
メタセコイアの最上の葉の美しい死
羊雲百句仏訳して眠る
父死して機窓に雲の乳房無限
なぜ空がこんなに青い 死ぬ日にも
草一本一本が人類滅亡を待つ
白鷺が夕日の影を踏む絶望
戸籍謄本われにはあらずいわしぐも
ニホンという広き刑務所月朱し
遠くから鳩にも見ゆる基地の鷹
選挙終えセシウムしみる枯野かな
潮干ゆく吾子あこ日本人我異人        
初雪積れ俳句弾圧不忘ふぼうの碑
パリという卵が割れたような寒暁        
上空から墓場と化せし聖母町マリウポーリ
空飛べぬ人間ばかり 雪に血痕
切株や戦死者靴を天へ向け
プラスティック袋の遺体寒いだろう
肌に風当たりてここを「地球」という
これがまあ地球限定の満月か
木々に雪バッハの後の無音以下”新韻律”「無垢句」(五七三)
ふるゆきのひとひらずつに自我が
悉く山の名忘れ服喪
地球を覆う人類という湿疹
泣いている木 笑っている木 みな木    
アイヌ語し雪解雫もラ行
天広く手のひら広くアイヌ       
億万の蕾を抱え大地モシリ
舞う鶴の夢果てし無く旅寝
Paskur upas e / Paskur hopuni wa arpa / Retar puy (アイヌ語)

受賞の言葉
 顕彰部長の宮崎斗士氏からお電話を頂いた時、耳を疑った。拙句集二冊が候補に上がっていたことを知ってはいたが、私のような”変わり者”(無季句も自由律も”新韻律”も作り、自由勝手に様々な社会活動もやって来た”一匹狼の外国人”)は賞なんか貰えないと諦めていた。そこで、次のような言葉を返した覚えがある。「誠に恐縮です。でも、ある意味で”変わり者・よそ者・若者”の代表として頂く意義があるような気がします。外国人が日本語で俳句なんか作れないと未だに思っている人がいるみたいですが、この受賞で世の中の理解が進めばいいですね」。それから、新韻律・五七三(「無垢句」)への道程を辿る句集で頂けたことが嬉しい。丁度兜太五周忌の頃、千曲川の縄文遺跡近くの中洲で昼寝をしていたら、突然授かったリズムである。「これぞ、螺旋のような、アニミズムのリズムだ」と直感した。この新韻律、やはり兜太先生がまた背中を押して頂いたのでは?

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