野の指とまれ 川田由美子

『海原』No.46(2023/3/1発行)誌面より

第4回海原賞受賞 特別作品20句

野の指とまれ 川田由美子

ちちははの形代として朝の虫
きざはしが好きで穂草に生まれけり
押印のよう帰燕気流と擦れちがう
古代的近未来的樗の実
枯芙蓉からから風に産毛あり
なつかしい庭こがらしの櫂すべる
夕こがらし生家に母の被膜かな
冬野道スクリーンにかげおさな
根のようなり胸静もりて冬の梢
寒の水絵本の底にあるひかり
白猫と冬野ふうっと浮力
ロゼットに海流のあお目深なり
冬日影炙り出しのように家族
ひかりも声も澪曳き剥がる冬の石
野の指とまれ蠟梅は今ひとりかな
葉は櫂とふ旅人木たびびとのきと春隣
白梅や生まれたばかりの風探す
春の切株鴉の声の雨垂るる
椋実色母の春愁おっとりと
礫の字に春野の小人混じるかな

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です