留守にして 室田洋子

『海原』No.16(2020/3/1発行)誌面より
◆特別作品20句

留守にして 
室田洋子 第1回海原賞受賞

さえずりや冷たい頬に触れながら
守備範囲いつしかずれて鳥雲に
桐の花だんだん靄る夫の声
先生がふいに屈伸麦の秋
空席がふたつ並んでクレマチス
女郎蜘蛛さびしさは黄色が似合う
愛よりもAI信じて心太
晩夏光動物園の裏側に
蛍袋あなたを詰めてしまおうか
十六夜を猫に抱かれて泣いており
左手に満月きみに会いに来た
鈴虫やむかし電話交換手
たっぷりと行間あけて木の実降る
秋の蝶ちょっとこの世を留守にして
天の川向こう岸にいるとも思えず
カラフルに仏壇の中は夕焼ける
とりどりの喪服の黒よわれもこう
紅葉かつ散る物書きの末裔
まがっても曲がってもまだ鰯雲
雁渡るふり向きもせず行く人よ

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