句会報:2025年12月「海原オンライン句会」

2025年12月は12/20(土)にZoom句会を実施。
今回も回答任意でアンケートを実施。
Q:あなたの愛唱句を教えてください。
結果はこちら


句会報:2025年12月「海原オンライン句会」

【高点句】(5点以上)

毛糸編む待つということ指先に 田中信克

阿修羅像くすりゆびより凍て始む 小西瞬夏

朴落葉兜太のような岩がある 夏谷胡桃

笑窪ある土間代々のすがれ虫 石川まゆみ

マカロニもココロもおどる冬日かな 川崎拓音

反省の色って何色冬もみぢ 木村寛伸

レノン忌のガザの子の眼の蒼さかな 原洋一

【参加者各一句】(高点句以外)

ズボンうらがえして冬日に干す 男波弘志

冬日向コーヒー待つ間の詩人です 桂凜火

現役世代の陰に隠れて日向ぼこ 野口佐稔

自転車の鍵穴のなかの寒さかな 野村正孝

売り家にまだ新しき冬日向 矢野二十四

夢さめてまだ暖かき布団かな あかり

知育玩具に惑わされてる聖夜 有馬育代

空白を埋めるよう来る冬の蝶 井上勉

虎の歩の甘受のリズム檻の冷え 花舎薫

寒灯下ラスト・オーダー告げられて 信子

寒紅や千手観音半眼に 姫

青空とリスと皇帝ダリヤかな 平田薫

三寒四温新宿の目はざらざらと 大渕久幸

鰹節鍋に舞わせる小晦日 さかいまゆみ

暗闇に風邪の神の薄笑ひ 貞行

鳥渡る吾も磁感の向かふまま 塩野正春

雲水にふとすれ違う十二月 樽谷宗寛

付箋ばかり増ゆる歳時記日短 長谷歌子

括らるも地に伏すも良し枯菊は 丹羽あやこ

コツコツと湯の中踊る寒卵 満葉

おおたかそらにあり ゲルマンの地の物語サーガ 宇井十間

異国とつくにのてっぺんの向こうに凍き空 樹下修司

東京都西新宿や泡立草 源汰

洗面器ゆらゆらのぞき合う師走 小松敦

裸木や我の体に静電気 坂川花蓮

畳冷ゆ神燈朱く瞬ける 大文字良

新レシピ葱餅すすめる農婦の手 坂内まんさく

押し倒す一老木や冬青空 石鎚優

   ◇

 今回は初参加2名を含む35名。うち海原所属は15名。所属も経験も良い意味でバラバラなのが面白い。自分とタイプの違う句をじっくり吟味してみるいい機会だ。さて、最高点句は7点「毛糸編む」、眼目は「指先に」。毛糸針を繰る指先の映像が浮かぶ。何かを待つという身体感覚に響いた。「待つということ」のフレーズで意味が前に出過ぎて毛糸の存在感が薄れたという意見もあった。都はるみの唄を思い起こす人も何人かいた。6点「阿修羅像」、眼目は「くすりゆびより」。憂いを帯びた美少年の「くすりゆび」は繊細で官能的なイメージを纏う。それが「凍て始む」という映像美、繰返される永遠性。「〇〇から××する」という書き方はお決まりのパターンだと指摘しつつも効果的、との評価。同「朴落葉」、「兜太のような岩」で納得してしまうが、眼目は「朴落葉」。大きな包容力を感じる。あちこち散らばらず厚くどっさりと散り積る様子も兜太にぴったり。5点「笑窪ある」、住人の動線に沿って土間が削れて凹んでいる様子を「笑窪」と喩える朗らかさ。そこに住む虫にも歴史を感じとる感性がいい。「すがれ虫」とは住人のことだ、「かろうじて」生き残っている感じがする、等の意見もあり奥深い。同「マカロニも」、ストレートで明るい。韻律もリズミカル。外は寒いが、温かな台所で「マカロニ」を楽し気に茹でている様子が目に浮かぶ。一方で、ありふれた慣用句「心躍る」そのままの意味ではなく、「のた打ち回っている」のだという皮肉な解釈もあった。同「反省の」、反省している表情や態度が全く見られない、と叱られている様子を茶化すおかしみ。所謂「機知」俳句なわけだが、「冬もみじ」で奥ゆかしく落ち着いた。同「レノン忌の」、「ガザの子」に思いを馳せ、安全と平和を祈る気持ちに共感。「眼の蒼さ」が綺麗すぎる、「ガザ」を消費していまいか、でも、ガザを思い続けるしかできない。そう感じるから、その気持ちを詠み、読む。

今月の「金子兜太・語録」は、兜太も参加した「松山宣言」
1999年9月12日、松山にて有馬朗人、芳賀徹、上田真、金子兜太、ジャン=ジャック・オリガス、宗左近の各氏によって全世界の詩人に向けて発出した、21世紀において短詩型文学としての俳句の可能性と方向性を示唆する宣言。
「海原」ホームページの「海原テラス」コーナーをご覧ください。
(記:「海原」小松敦)

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