2025年11月は11/15(土)にZoom句会を実施。
今回も回答任意でアンケートを実施。
Q:あなたにとっての今年の新語・流行語・びっくり語など印象に残った言葉は?
結果はこちら
句会報:2025年11月「海原オンライン句会」
【高点句】(5点以上)
女には女の籠城椿の実 桂凜火
萩散ってはらりと愛を上書きす 田中信克
花八手二階住まひの二十年 長谷歌子
父の泪白桃に舌うすく置く 小西瞬夏
冬薔薇もうすれ違ふだけの人 原洋一
まるまった靴下ひとつ冬日向 満葉
【参加者各一句】(高点句以外)
文字を生むだけのペン先冬隣 男波弘志
我が席にまめ柴が居る秋の朝 樹下修司
葱刻む朝のひかりを背にのせて 貞行
二列目の窓側選ぶ秋の海 信子
献血車のしづかな影や文化の日 石鎚優
文化の日間合いを外す大太鼓 榎本祐子
はらわたを抜かれし洞や凍鮪 川嶋安起夫
ダウンコート戻りし友のごとくにも さかいまゆみ
団地棟色にぎやかに干蒲団 坂川花蓮
秋霖や窓に猫いる畳店 丹羽あやこ
冤罪を重ねるにおい冬山椒 夏谷胡桃
秋晴れや自転車一旦停止して 野村正孝
白木槿麒麟の空が遠いという 平田薫
水澄むや詫び状一つ入れておく 矢野二十四
天高しスマホを覗き合ひ育つ 石川まゆみ
時雨るるや職質受くる縄文人 木村寛伸
紅葉かつ散る人形を寝かしつけ 小松敦
月天心ガザの瓦礫の影は濃く 塩野正春
病院に待つ人マスク眼で会釈 大文字良
小六月「しめ縄づくり教えます」 坂内まんさく
木曽節が十八番の卒寿帰り花 姫
かさこそと靴と落ち葉の出会う音 あかり
冬の蝶言葉真ん中に佇む 井上勉
不知火の闇に新宿の目は彷徨ふ 大渕久幸
まめまめしき漢さあと亥の子餅 樽谷宗寛
新そばとリンゴの土産載るピアノ 野口佐稔
ギャルママがメーテルの真似冬支度 門司侑里
寄り添いのつもり紅蔦かんちがい 有馬育代
◇
今回は初参加2名を含む34名、半数は海原以外からの参加。いつも通り、ここでは主に高点句の合評を簡単にレポートする。今回は断トツの句は無し。最高点6点「女には」、賛否両論。採った人にとっても「籠城」とは、何か具体的な状況というよりも、生き様みたいなもののようで、「椿の実」との組合せが佳いとの評価。堅い意思や決意、意地。実の艶やかさ、椿油のしなやかさ等女性的イメージも纏う。もしかすると新島八重のことかと後で思った。同「萩散って」、問題句。一見、散るに対して「はらり」は慣用的だし、「愛」という抽象語の帯びる固定観念や既成概念は読みの自由を妨げやすい。ところが、「はらり」と「上書きす」の表現で、「愛」をユーモラスに対象化して感覚的に捉える自由が生まれた。心変わりの様子だとか、マンネリ化した関係が新たな段階を迎えたのだ、とか。女性の愛は「上書き保存」、男性の愛は「名前を付けて保存」、という意見には笑った。同「花八手」、「二階住まい」にリアリティあり、ここで過ごした二十年の歳月に思いを致している人がいる。地味だけれども堂々としており薫り高い「花八手」のイメージは、この住人の人柄をも偲ばせる。5点「父の泪」、涙が感情的ならば「泪」は生理的な印象だ。中七下五の映像は美しくも感触はちくちくしている。「うすく置く」には桃の産毛にそろそろと触れる舌先の感触がある。泪する父への慈しみ、しかし冷淡な眼差し。愛憎入り混じる、肉親であるが故のわだかまり。といった選評が示すように、複雑な気持ち、言葉にし難い抽象的な感覚が詩的言語で表象=再現前化されている。同「冬薔薇」、「もう」今は気持ちが離れている、それでも「すれ違」いはする距離感、といった状況は簡潔で分かりやすい。この中七下五を詩にしているのは「冬薔薇」だが、「冬薔薇」が近すぎる、わざとらしいという人は採らなかった。同「まるまった」、解放感やリラックスを感じる。「ひとつ」に疑義もあり。それでも「冬日向」に無造作に転がる物=事実性(アクチュアリティ)を通じて、読者はある種の感慨=実感(リアリティ)を抱く。そんな句。
今月の「金子兜太・語録」は、『海程』創刊号(昭和37年4月1日発行)より抜粋~「創刊のことば」金子兜太・「火山の噴くやうに」加藤楸邨・「編集メモ」金子兜太/酒井弘司
「海原」ホームページの「海原テラス」コーナーをご覧ください。
(記:「海原」小松敦)

